ついに電子書籍の時代が始まる
12月半ばに明らかにされたグーグルのプロジェクトの持つ意味はきわめて大きい。グーグルに協力するオックスフォード大学やニューヨーク市立図書館のスタッフは、グーテンベルクの印刷術の発明にも比べられる事件だとまで言ったそうだが、たしかに本の世界が大きく変わる可能性を秘めている。
グーグルは、5つの大きな図書館にある本を(痛めずに)スキャンして電子化し、ネットの検索を通してアクセスできるようにすると発表した。スタンフォード大学の800万冊、ミシガン大学の700万冊の蔵書はすべてデジタル化、ハーバード大学やニューヨーク公立図書館の蔵書は一部を実験的に、オックスフォード大学図書館は1900年以前の本。提携相手によってレベルは異なるが、著名な大学図書館2つの蔵書すべてをデジタル化すれば、知的な意味で重要な本のかなりの部分は電子化されることになる。提携図書館は今後さらに増えていくだろうし、グーグルは英語以外の本も対象にしていくと言っているから、現存する本のあらかたがデジタル化される日もやがて来るかもしれない。
以前書いたように、グーグルは出版社から提供された本をスキャンし、全文横断検索して表示する「グーグル・プリント」の実験版を立ち上げている。検索結果画面からはオンライン書店にもリンクされ、売上げ増につながると見た大手を含むいくつもの出版社が賛同している。しかし、出版社から本を送ってもらうやり方ではデジタル化のスピードに限度がある。効率的に電子化できたとしても、本を集めるのがたいへんだ。大きな図書館の協力を得られればこの問題は解消される。
「グーグル・プリント」では、出版社は本を提供するだけで、グーグルが電子化の費用を負担している。図書館との提携事業についても同様のようだ。グーグル自身は電子化にいくらかかるか明かしていないが、報道されている関係者の言葉を総合すると、順調に進みだせば1図書館あたり1日10万ページぐらいのペースで電子化でき、コストは一冊10ドルほどになるという。10年がかりのプロジェクトとも言われているが、重複している本の作業を省いたとしても、計算上は100年近くかかる。ペースをもっとあげる必要はあるだろうが、(重複を考えずに)2つの図書館の蔵書全部1500万冊の本を電子化したとして、そのための費用1億5千万ドルを10年で負担するぐらいの経費は広告収入の増加でまかなえるとグーグルは算段しているようだ。グーグルの第3四半期までの営業利益はすでに3億ドルを超えており、資金的な余裕は十分ある。膨大な本の検索が可能になれば、検索のライバルのヤフーやマイクロソフト、あるいは同じく本の全文横断検索をしているアマゾンなどに対しても優位に立てる。提携図書館のほうも、全蔵書のデジタル・データがタダで手にはいることになるのだから、じつにありがたい話だ。
もちろん著作権がある本のデジタル・データをネットで勝手に公開することはできない。著作権が切れた本は全文閲覧可能にするが、著作権のあるものは版元の許諾に応じて、「グーグル・プリント」のいまの表示形態である検索語を含む前後2ページ、もしくは検索語の前後数行、1冊の本について3個所が表示される。
著作権のある本の電子データはとりあえずは検索のために集められるのだとしても、利用者がほしい全電子データはもはやワンクリックで届くところにあることになる。本を注文して読むのではなく、ただちに入手したいという需要はあるはずだ。新しいビジネスに意欲的な企業のもとに蓄積されていく膨大な本のデジタル・データが、検索のためだけに使われ続けるとは考えにくい。
実際、グーグルは同じく先月、示唆的な特許を申請している。この申請書には、電子データをどのように公開するか出版社がネットを通して指定できるシステムや、スキャンした印刷物の広告を更新する仕組みについての記述がある。グーグルは、電子化した印刷物の広告データをネットを使って更新しあらためて広告料金をとることや、印刷物、CD、DVDなどの多様なコンテンツを閲覧に応じて課金することまで視野に入れているようだ。
本の電子データが蓄積され、さらに安価で容易な支払い方法が整備されればデジタル・データを閲覧させるビジネスが成り立つことは、グーグルだけでなく出版社も気づく。著作権の切れたものや広告料収入が期待できるものは無料で、そうでないものは有料で閲覧させる出版システムが誕生するだろう。電子書籍の時代が始まるとさんざん言われてきたが、実際のところどうやって本格的に離陸していくのかその道筋がわからなかった。しかし、本のデジタル時代のほんとうの始まりがようやくほのかに見えてきたように思われる。
(「出版ニュース」1月下旬号)
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この話は、「アートスケープ」のサイトにも書きました。ここでリンクした書籍をスキャンする装置のビデオはなかなかおもしろいです。
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フランスの国立図書館の館長がグーグルのこのプロジェクトに反対したという記事を見たので、出典のルモンド紙の記事を見てみましたが、「このまま英語の文献ばかりが参照しやすくなると文化の多様性が失われるので、自分たちがやっている電子化プロジェクトにEUはカネを出してくれ」という話でした。反対というより、予算獲得のためのアピールといったもので、なんだかねえ、というものでした。まあ、同じようなプロジェクトを1000分の1の予算でやっているという図書館長の危機感はわかる文章でした。予算獲得の目的が見え見えでない、もう少し歯ごたえのある反論が読みたいです。
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