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2005.03.29

ニッポン放送がフジテレビと戦うとき

ニッポン放送はフジサンケイグループに何とか
残ろうと必死だが、ほんとうに
フジテレビと思惑が一致しているのだろうか。
(週刊アスキー「仮想報道」第.380回)

●フジテレビはニッポン放送を守るつもりがあったのか

 高裁でもライブドアが勝って、ライブドアがニッポン放送の経営権を握ることが確実になってきたが、そもそもフジテレビは、ほんとうにニッポン放送を守るつもりがあったのだろうか。
 フジテレビのニッポン放送株の公開買い付け価格は市場価格よりも低かった。つまりフジテレビは、「市場で売った方が儲かるけれど、自分たちに売ってよね」とそうとうに虫のいいことを言っていたわけだ。フジテレビに義理があって、「今後の取り引きを考えれば仕方がない」と思った会社以外、フジテレビに株を売るはずはない。
 公開買い付け後も、「売ってくれた株主に悪いから」などという理由でそれ以上買い進もうとはしなかった。「安く売ってくれた株主に悪い」というのはそのとおりだろうけれど、株主たちが安く売ったのは承知のうえだろう。そもそもフジテレビは、「著しく不公正な発行」だと裁判所が弾じるぐらいの見苦しい対応をニッポン放送とともにやってきたわけで、いまさらきれいごとを言うのも妙な感じだった。
 裁判の勝ち目は薄く、ほんとうにニッポン放送を手放したくなかったら、大金を投じてニッポン放送株を買いまくり、ライブドアと張りあうしかなかったはずだ。お金がなかったわけもなく、ニッポン放送を守る真剣みがなかったと言われても仕方がないだろう。結局、我が身に火の粉が降りかかるのを何とか避けたいだけだったのではないか。これだけ多くの人があれこれ言っているのにこうした指摘をしている人を見かけないのは不思議だが、そう思うしかないようなフジテレビの戦略だった。
 フジテレビを信じて、社員をあげてライブドアと戦おうとしているニッポン放送が何だか気の毒でさえあった。ニッポン放送の子会社のポニーキャニオンはフジテレビの供給するソフトで利益をあげており、ニッポン放送の放送事業の2・5倍の売り上げがある。ニッポン放送はその虎の子のポニーキャニオンを手放すことまで考えてフジテレビにつくそうとしていた。ほんとうにそんなことをすれば、ニッポン放送の経営陣は株主訴訟で訴えられ、高額の賠償金を払わされる可能性が高い。正気の沙汰とは思えない対抗策を本気でやるとは思えないが、それでも所有しているフジテレビの株をソフトバンク・グループにゆだねたりと、自分たちの損得よりも、本隊のフジテレビの無事をひたすら願って戦っている最前線の孤独な部隊のようにも見えた。
 もっとも、ニッポン放送にすれば、こうした同情は余計なお世話だろう。ホリエモンは大っ嫌いだし、ポニーキャニオンを手放せば利益の8割が失われて大打撃だし、フジサンケイグループになんとしても残りたいというのは本心なのだろう。
 しかしながら、フジテレビのほうはほんとうにニッポン放送を必要としているのだろうか。広告収入からいっても桁違いのテレビが、この時代、ラジオがなくて困る理由はありそうにない。少なくともニッポン放送がフジテレビを必要としているほどには、フジテレビはニッポン放送を必要としていないのではないか。
 うがった見方だとと思われるかもしれないが、これから書くように、テレビ局とラジオ局の利害はいまかならずしも一致してはいない。もっとはっきり言えばライバルになる可能性さえある。今後の展開を考えるうえではなはだ興味深いことに、その事実をもっともよく認識しているのは、じつはニッポン放送の亀淵社長である。

●テレビと競合するラジオ放送

 ラジオは仕事や勉強などをしながら聞くことが多い。また、移動中など戸外で聞ける。ラジオの将来を話しあう総務省の懇談会で亀淵社長は、ラジオの大きな特徴として、携帯性、移動性、軽便性、ながら(聞き)をあげている。ところがいま、このマーケットにテレビが入りこもうとしているのだ。
 政府は国策として、地上波テレビのデジタル化を進めている。いまのアナログ放送を2011年に中止し、デジタルに完全移行しようとしている。そのデジタル・テレビのメリットのひとつは、移動時でも高画質の映像を安定的に送れることにある。実際、来年から携帯電話で地上波デジタル・テレビが受信できる。ラジオの広告収入は年々落ちており、この10年で2割減、昨年はついにインターネット広告にも抜かれた。これ以上、市場を奪われれば死活問題になる。移動媒体に強いデジタル・テレビの登場は、戸外で強みを持っているラジオの市場をさらに脅かす。ラジオ業界にはいまそんな逆風がきつつある。
 テレビのデジタル放送はすでに一部地域で始まっているが、じつはラジオもデジタル化しようとしていて、文字や静止画、さらには簡易動画などのデータ放送ができるようになる。KDDIのFMチューナー付き携帯電話はすでにデータ放送をしており、FMで流れている曲を「着うた」としてダウンロードできる。データ放送によって音楽販売という新たなサービスが可能になったわけだ。動画まで流すことができるようになれば、より大きな収入源が開けるかもしれない。
 デジタル・ラジオの試験放送は一昨年からすでに始まっている。東京と大阪のテレビの第7チャンネルはUHFなどに使われていないが、それはこの電波帯でデジタル・ラジオの試験放送をやっているからだ。けれども、市販されているデジタル・ラジオはまだひとつもない。デジタル・ラジオ放送は、地上波テレビのアナログ放送が中止される2011年以降、その電波帯で本格的に開始されることになっている。受信機を市販してもまだ売れないと、メーカーは様子見状態だ。だから、関係者以外で聞いている人はいないだろう。
 そんなさびしい状況のこともあって、ラジオ側は2011年からの本格開始では遅すぎると反発している。デジタルテレビがモバイル市場を奪ったあとでは困るというわけだ。電波のやりくりなどをしてデジタル・ラジオの開始を何とか早めたいと考えている。先の懇談会で亀淵社長も、「テレビと共通の土俵に乗らずして共存の枠組みを決めることはできない」と訴えている。
 テレビ局は、番組の著作権の問題に加えてテレビ視聴率の低下を心配し、ネット配信に積極的ではない。そうしたテレビを尻目に、ラジオ局が動画放送のネット展開を積極的に推し進めることも可能だろう。
 いずれにしても「映像だけでなく音声やデータも提供できるテレビ」と「音声を中心にデータも提供できるラジオ」は相互に似通ってきた。亀淵社長の言葉を借りれば、「技術進歩は大変に早いスピードであまりにも早く、以前には考えられなかったような新しいサービスがデジタル放送では次から次へと生まれて」おり、「今までのようなテレビとかラジオとか単純には区別できない」事態になってきている。亀淵社長はこの懇談会で、テレビとラジオの共存共栄をしきりに強調しているが、裏返していえば、共存共栄がむずかしくなっているということでもある。
「メディアの王者」を自認しているテレビは、ラジオごときが動画放送を始めたとしてもまさか脅かされることになるとは思っていないだろうが、デジタル化にさいしてラジオが厄介な存在であることは感じているはずだ。テレビは当面、携帯電話などに独自番組を流してはならず、同じ番組を流す「サイマル放送」が義務づけられている。独自放送に強く反対しているのが、モバイル市場を脅かされることを恐れているラジオである。
 このようにテレビとラジオは利害が一致しなくなってきている。こうした状況のなか、ニッポン放送は、フジテレビの「従順な前線部隊」で居続けるのか。それともネットと手を結んでテレビに謀反(むほん)を起こすのか。ニッポン放送もふくめたラジオはいま大きな分かれ目に来ている。

     *

 ホリエモンにいま必要なのは、「金儲け」以上の理屈だろう。当事者の利害を超えて人々が待ち望むような未来についてのビジョンを聞きたいわけで、もしそうした話を聞けたなら、反発しているニッポン放送の出演者の著名人たちもあるいは納得するかもしれない。

関連サイト
ニッポン放送のネット番組「ブロードバンド!ニッポン」のサイト。ネットではラジオも動画を流している。ラジオがテレビと競合する時代はじつはすでに始まっているのだろう。
デジタルラジオ推進協会。理事長はニッポン放送の亀淵社長。「デジタルラジオは“時代の一番バッター”をめざす」と言っている。左の懇談会では、「テレビと共存共栄していく」とも述べているが、はたしてどうなるか。亀淵社長はラジオとテレビのむずかしい関係をもっともよく知っているはずだ。
デジタル・ラジオのプロモーション・サイト。CD並みの高品質の音声、文字・静止画・簡易動画などのデータ放送といった多彩なサービスを提供できるというのがデジタル・ラジオの謳い文句だ。
●昨年9月から開かれている総務省の「デジタル時代のラジオ放送の将来像に関する懇談会」。旧郵政省の時代を含めてラジオについての懇談会は初めてだそうで、それだけラジオのおかれている状況は深刻で、またその一方さまざまの可能性があるということだろう。亀淵ニッポン放送社長は、第1回の懇談会で話をしていて、議事録全文が載っている。

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