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2005.03.17

テレビとネット、呑みこまれるのはどっち?

テレビがネットを呑みこむのか、ネットがテレビを
呑みこむのか。どちらもだんだん近寄ってきて、
最後には、どちらかが相手をガブリと‥‥なのか?
(週刊アスキー「仮想報道」378回)

●「地上波デジタルは必要ない」とホリエモンは言った

 フジテレビとライブドアの争いについて、メディアは、どちらがより多くのニッポン放送株を買うか「株取りゲーム」のゆくえを追うことに熱心だ。しかし、日枝会長とホリエモンが毎日さまざまなメディアの前に現われて言葉のパンチを繰り出すのを聞いていると、メディアの未来についての2人の考え方の違いがはっきりしてきて興味深い。大手マスメディアと新興IT企業の根本的な考え方の違いが浮き彫りになってくる。
 通信と放送の融合、つまりネットとテレビが融合していくことについては2人の言うことに違いはなさそうだが、しかし根本的なところではやはり大きく違う。
 日枝会長は、「彼(堀江氏)はテレビはなくなるって言っている。私はテレビはなくなっちゃ困ると思っているわけですよ。テレビを育成して、21世紀の中核的メディアにしたいと思っている。彼とは相いれないものがある」と言い、堀江氏とさしあたり話しあってもしようがないというスタンスだ。ホリエモンは、「テレビがなくなるなどとは言っていない」と反論しているが、2人の違いを簡単に言えば、ネットがマスメディアを呑みこむのか、それともマスメディアがネットの技術を吸収しさらに大きくなっていくのかということに集約されるだろう。
 日枝会長は、「“テレビがネットを利用していない”という堀江氏の言葉は誤りで、そんなことを言うのは失礼だ」と怒る。一方、堀江社長は、「やっているとしても、うまくやっていない」と反駁する。ネットの利用の仕方がどの程度なのか、そしてそのスピードが十分なものかについても意見が違う。そうした違いが出てくる原因は、以前書いたように、一刻も早く新たなビジネスモデルを採用する必要があると考えるホリエモンと、少しずつ段階を追って新たなビジネスモデルを取り入れていけばいいと考える日枝会長の発想の違いがまずある。
 さらに、テレビがどういうメディアになっていくのかについても根本的なビジョンの違いが横たわっている。2011年にアナログ・テレビ放送を終え、デジタル放送に移行するという「国家目標」が立てられ、多額の税金も投じられ準備が進められている。テレビ放送のデジタル化によって高画質・高音質で双方向の番組ができ、さらにデータ放送や多チャンネル化、モバイルでの安定した視聴などが可能になるという触れこみだ。しかし、ライブドアのサイトの2月23日の「所信表明」で、ホリエモンは「これは重要な論点だと思う」と前置きしたうえで、地上波のデジタル化は必要ないと次のように真っ向からその意味を否定している。
 テレビはもっぱらソファに寝そべって「ながら視聴」するような見方をされていて、大画面化していけばますますそうなる。前のめりになってリモコンを操作してチャットをしたり情報発信したりするだろうか。テレビを見ながらパソコンでネットに接続するというスタイルも現われてきたいま、双方向性が必要なら携帯電話やパソコンを使えばいい。デジタル化のために多額のお金を使うぐらいなら、ブロードバンドの普及のためにお金を使ったほうがよっぽど安上がりで役に立つ。狭い帯域に多くの情報を流せる技術も出てきて、しいてデジタル化する必要はない。将来を考えるとオープンでシンプル、コストが少なく多くのことができるインターネットのほうがずっとすぐれている、と熱弁をふるっている。

●デジタル化は天国か?

 実際のところ、放送のデジタル化は移行する前から早くもアナクロな技術になり始めている。この「所信表明」でホリエモンも言っているけれど、デジタル放送が双方向だといっても、テレビからテレビ塔に向けて空中に電波が飛び出すわけではなくて、テレビに固定電話のアナログ回線をつなぐことになっているのが実情だ。送信スピードが遅く、インターネットの専門家も「これを双方向とは呼びたくない」と言うぐらいのしろものでしかない。固定電話を引かずケータイだけ使う人々も増えており、NTTまでもIP電話に乗り出しているいま、アナログ固定電話は前世紀の遺物になりつつある。ネットとテレビのどちらが双方向メディアとしてすぐれているかということになると、デジタル・テレビは分が悪い。異論があるとすれば、みんながパソコンを使ってネット接続しているわけではないし、そういう人には双方向テレビが役に立つということぐらいだろう。
 放送のデジタル化を推進した人々もブロードバンド・インターネットがまさかこんなに早く普及するとは思わなかっただろうが、もし地上波のデジタル化が必要なかったということになっても、多額の税金を使い、われわれに新たな出費を強いた責任を取る人はおそらく誰もいない。
 たしかにデジタル放送は、大画面のハイビジョン・テレビを買った人には高画質の特徴が活きる。しかし、番組は同じなんだし安いテレビでいいや、と思った人には高画質のご利益はない。データ放送や多チャンネル化にしても、ネットはもとよりデータ通信で、番組数もほぼ無限に増やせる。テレビ番組を活かせるデータ放送はそう多くはなさそうだし、また民放の場合、魅力的なデータ放送をして視聴者が見入ってしまえば、動画放送の広告主からクレームが来るだろう。おもしろいデータ放送をしくにい。
 さらに、そもそも民放は多チャンネル化に十分に対応できるほど番組を作れるかどうか怪しい。広告の量にかぎりがあるのでチャンネルが増えて広告が分散されれば一番組あたりの制作費を減らさなければならなくなる。結局、十分なコンテンツが作られない懸念もある。
 言わなくてもいいことを言ってしまうホリエモンも、さすがにテレビでは、ネットや本に書いているように、地上波のデジタル化は意味がないとか、CMは飛ばし見されて広告モデルが崩壊するなどとは言っていないようだ。それを言ってしまえば、テレビでテレビにケンカを売るようなものかもしれないが、むしろ言ってしまったほうが、テレビの未来についてどう考えているのか、テレビ局との違いが明確にはなっただろう。

●テレビとネットの平和な未来?

 多くの人が地上波のテレビ放送をネットでリアルタイムに見るなどということは、さしあたりまだしばらくは起こらないかもしれない。しかし、デジタル化したテレビと、ブロードバンドにつながったパソコンがしだいに似た機能を持ち始めていることは確かだ。
 将来、人々が双方向メディアとしておもに使うのはテレビなのかパソコンなのかという議論はこれまでにもあった。たとえばビル・ゲイツはいうまでもなくパソコン派だったし、電器メーカーにはテレビ派のところが多かったようだ。居間では大型のテレビを見ながらノートパソコンなどのネット端末で情報をやりとりし、飽きたらそれを持って自分の部屋に行くというのはいまでもやられているが、こうした視聴スタイルはいよいよ広まるだろう。これならテレビもネットもそれなりに使われる「平和な未来」がやってくる。しかし、テレビが軽量薄型化していく一方で、すでに出始めたようにスイッチを押せばただちにテレビの見れるパソコンも発売されている。多くの人が気前よく両方を買い続けてくれるとはかぎらない。テレビ放送がデジタル化しブロードバンドが急速に普及しているいま、テレビが生き残るかパソコンが使われるかの争いは始まっている。
 実際のところ、放送と通信が融合していくことについてはテレビ業界もIT業界も一致しているけれど、いざ何かしようとすると、放送側はそうとうに疑心暗鬼になっているようだ。日枝会長は、ネット戦略はテレビ局もやっていると言うけれど、既得権益が失われないように法律や制度でかんじがらめになっていて、視聴者がメリットを感じにくいものになっている。放送と通信がほんとうに融合するには、株の買収についてライブドアがやったように、法律や制度の盲点を突きながら剛腕で突破していくしかないかもしれない。フジサンケイグループの側はライブドアが経営に参画するとたいへんなことになると戦々恐々としているが、同グループのなかでもネットを使って新しいことをやりたい人は、ライブドアを受けいれたほうがずっとやりたいことができるはずだ。

関連サイト
総務省の『地上デジタルテレビ放送パーフェクトガイド』。放送のデジタル化を担当しているのは総務省の情報通信政策局。お役所を見るかぎり、すでに放送は通信に吸収されてしまったようだ。お役所的にはじつは「ネットとテレビの戦い」は決着がついているのかもしれない。
地上デジタル放送推進協会のサイト。デジタル放送推進のためのホームページがいろいろできていて、あれこれ視聴者のメリットが書かれているけれど、結局のところどうしてもデジタル化が必要と思われたのは、周波数をあけて携帯電話などに使うためだろう。人々がデジタル対応の装置を購入してくれなければアナログ放送をやめることはできないから、わかりにくい周波数の話は後ろにまわして視聴者のメリットを前面に押し出しているのだろうが、実体を隠したセールストークっぽい感じもする。
●長野県は、「2011年段階で数千万台のデジタル未対応の受像機が残る」、「年間出荷台数の6割を占める21型以下の小型受像機については、ハイビジョンによる高画質化に適さない」などの問題点を指摘する文書を昨年夏、発表している。
放送の問題に詳しいジャーナリスト坂本衛氏のサイト『すべてを疑え!!』の放送デジタル化のページ。放送のデジタル化が抱える問題について詳しく書かれている。「2011年にアナログ放送停止は無理。地上デジタル放送は計画を見直すべき」と主張している。

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