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2005.03.11

ホリエモンのメディア論

ホリエモンは雄弁に語り続ける一方で、編集の現場を
いかに変えるかについては発言のトーンを抑えている
しかし、その主張はよくも悪くも刺激的でおもしろい
(仮想報道 vol.377)

●反発する産経新聞

 ライブドアのニッポン放送株取得について当のフジサンケイグループからはもちろん、政財界の激しい反発もまねいた。そのためかホリエモンは、自分たちが経営を握ってもメディアの制作現場に介入するつもりはなく、提携によって新たな事業を付け加えるだけだと、不安感を払拭しようとしている。
 しかし、コスト計算に敏感な新興IT企業だから、高いお金を出して買った企業のコストをいずれ削って収益を最大化することは当然予想される。メディア産業は総じてよくも悪くもお金の使い方が鷹揚だから、新しい経営陣がその気になれば切りつめる余地は大きそうだ。‥‥などということは、もちろんホリエモンは言わないし、フジサンケイグループもそんな理由でライブドアの「黒船来航」に反対しているわけではない。フジサンケイグループの産経新聞は2月24日の社説にこう書いている。
「多くのメディアが、立場の違いはあってもライブドア問題を熱心に報じているのはなぜか。フジサンケイグループという企業集団の経営権をめぐる問題だけでなく、メディアの存在意義は何か、という重い問いが突きつけられているからではないのか」。それはその通りだろう。
 この6日前にも産経新聞は、「堀江氏発言 産経を支配するって? 少し考えて言ったらどうか」と題した社説を載せた。産経新聞とことあるごとに対立している朝日新聞社が発行する「アエラ」誌で、ホリエモンは、「あのグループにオピニオンは異色でしょ。芸能やスポーツに強いイメージがあるので芸能エンタメ系を強化した方がいいですよ」とか「新聞がワーワーいったり、新しい教科書をつくったりしても、世の中変わりませんよ」と語る記事が載った。産経新聞は独自の保守オピニオン路線を否定されたと猛反発したわけだ。
 前回書いたようにホリエモンは、既成勢力が世の中をがっちり握っていたのでは儲からず、おカネの力で社会を変えたいとは思っているとしても、「株主に利益をもたらすことが一番大事」で政治信条からメディアを持ちたいわけではない。ただ、メディアのほうは主義主張も独自の色もある。ホリエモンがいくらシンプルでありたいと思っても、不用意な言葉を口にすれば大きな反発をまねく。
 ホリエモンは、ラジオやテレビばかりでなく、新聞にもとりわけ興味を持っている。経済紙を発行して顧客に経済情報を提供し、傘下のライブドア証券の集客力を高めようとしている。昨年「東京経済新聞」という商標もとり、準備を進めている。産経新聞を経済紙にするつもりだとアエラも書いた。
 こうしたホリエモンの姿勢には、ライブドアの根強いファンがいるネットでも、産経新聞の保守路線を支持している人たちからホリエモン・バッシングが起こった。しかし、ニッポン放送が新株を発行してフジテレビにあたえるという発表で、またまた雰囲気が変わったようだ。思想的なことより既成勢力への反発のほうが大きくなった。

●ホリエモンがねらっているもの

 メディアの制作現場を変えるといえば反発を呼ぶからホリエモンは発言のトーンを落としたが、どのような新聞を作ろうと思っていたのだろうか。そうした考えがみてとれるインタヴューがネットに現われ、話題を呼んでいる。
 ライブドアのニッポン放送株取得が明らかになった2日後、ジャーナリストの江川紹子氏のサイトにインタヴュー記事が掲載された。これにはホリエモンの本音らしきものがうかがえておもしろい。
 このインタヴューでも、ホリエモンは、信用や格をあげるためにメディアを持ち、証券業と経済紙を組み合わせてビジネスをする構想を語っている。「ユーザーが自然と、証券をやるならライブドア証券で、という流れを作っていきたい。その中で、さらに信用とか格を上げていくためには、もっとメディア寄りのイメージをつけるのが得策だろう」と言っている。
 eコマースなどももちろん有望ではあるだろうが、ネット証券の利益は思いのほか大きい。楽天でさえもそうだが、ライブドアはいよいよ証券部門の比重が高い。ペイオフ解禁や、資金のある団塊世代のリタイア、さらに若い層も将来が不安で財テクに興味がある。ネット企業の経営者たちが、ネットと証券の結びつきを「カネのなる樹」だと思っても不思議はない。
「インターネットに全部いくまでの過程は何年もかかるワケですよ。その間、新聞とかテレビを我々は殺していくんですけど、自分たちが持ちながら殺していった方が効率いいかな、と思って」。「殺す」というのは穏やかではないが、ホリエモンのめざすメディアでは、報道の使命というのは一種の「思い上がり」で「自意識過剰」。編集方針はなく、インターネットでニュースを流し、アクセスの多いものから大きな見出しにして載せていく、と言っている。

●コスト削減のための市民記者

 前々回書いたようにライブドアは、ビジネスマンや主婦、学生などが市民記者として記事を書くパブリック・ジャーナリズムの制度を始め、市民参加型のジャーナリズムが登場すると、サイトで意気揚々と宣言した。しかし、それについても、ホリエモンはこう言っている。
――市民記者を募集するのは、新しいやり方では?
「それも単なるコスト削減策なんですけどね(笑)」
 ネットとマスメディアが融合していくというのはその通りだろうし、恣意的に構成されたニュース・メディアよりもニュートラルなメディアのほうがいいというのもわかる。家庭に「一家に一紙」といった形で宅配され子どもも読む大新聞の記事は、事実と主張を明確に分けるべきだろうが、現実には見出し等で読者を誘導しており、これは一種の「洗脳」だ。こうした新聞の現状も、堀江氏の言うように報道の使命というのは「思い上がり」だという批判を正当化している。また、主張を掲げれば一部の読者の反発をまねくだけで、得することは何もないという計算もありうるだろう。しかし、「志」を信じて集まり働く人がいるのに「コスト削減策」と言ってのけるのはいくらなんでもまずい。
 パブリック・ジャーナリズム宣言の文章があまりに大上段で、前々回つい茶化すようなことを書いてしまったが、それは漠然とイヤなものを感じたからだった。このインタヴューを読んで、それが何なのかわかった。市民記者について格調高く書いた報道部門の人はもちろんそれを信じているのだろうけれど、はたから見ると、コスト削減をして儲けたいだけというトップの発想とあまりに開きがあって嘘くさく見えてしまう。
 このインタヴューにはこうした下りもある。
――堀江さんの日記には、「メディアのあり方が変わる」と書いていたが、そういう意図はないのか。
「そうやって煽ったほうが、みんな期待感を生むじゃないですか。僕はどっちでも……」
 公平のために書いておけば、堀江氏はこのインタヴューに乗り気でないようで、わざと刺激的に答えているところもあると思う。でも困ったことに、心にもないことを言ったようには思えず、いかにもホリエモンが言いそうなことだと感じてしまう。おカネの力によって変革を望む人たちのヒーローにはなったが、こんどの株の買収劇を見ても、結局、おカネの論理をあまりに前面に押し出すことでいらぬ反発をまねき、信用を得られにくくなっていることもまた確かだろう。「敵失」がいなければ反発はもっと大きかったはずだ。ライブドアが抱く野心からすれば、パブリック・ジャーナリズムなどは、あるいは「どうでもいいこと」なのかもしれないが、小さなことの積み重ねで信用は得られていく。
 人気のある情報こそが人々の求めているものであり、そうした情報を優先的に提供するというのは、グーグルがずいぶん前からやっていることだ。しかしながら、堀江氏よりも若いグーグルの創業者は、それが民主的だからだと言った。きれいな言葉を使えばいいというものではないし、それがほんとうに民主的なのかとも思うが、「カネこそがすべて」というよりは少なくともずっとスマートだろう。グーグルとライブドアの落差には、技術や発想以上のものがある。これまでの日本の社会があまりに閉鎖的だったからおカネの論理を押し出すことがもっとも革新的でありうるとしても、カネの論理がもっとも革新的というのはやっぱり哀しい話だ。

関連サイト
●単純な比較はできないが、2月18日から20日に行なわれた日本テレビの世論調査では、ライブドア不支持の人が支持を5%近く上まわっていたのにたいし、フジサンケイグループの対抗策が発表された後に行なわれたテレビ朝日の世論調査(リンク切れ)では逆転し、ライブドアを「支持する」と答えた人は45.9%、不支持は32.8%になった。フジサンケイグループの対抗策への支持は15.2%、不支持62.2%で大差がついている。フジサンケイグループの対抗策への反発がライブドアの支持を押し上げたようだ。
『江川紹子ジャーナル』の2月10日の記事「『新聞・テレビを殺します』 ~ライブドアのメディア戦略」。江川氏は、報道部門を作ってジャーナリズムの世界に進出しようとしている堀江氏の考えを知りたくてインタヴューをしたようだ。昨年12月におこなわれたものだが、ニッポン放送株の買収が明らかになって急遽公開したらしい。堀江氏は「日本は政治はダメですよ。経済が一番売れる」。政治や社会、文化のニュースは「おまけ」とメディア関係者の神経を逆なでするようなことも語っている。
●堀江氏の「社長日記」は有名だが、株の買収については、それを画策したらしいライブドアの熊谷副社長のブログがおもしろい。買収発表のころの記述では、ライブドアの株価が上がった場合については書いているが、下がったらどうするかについては書かれていない。
●H-IIAロケット7号機の打ち上げを生中継したライブドアのサイト『H-IIA ロケット打ち上げ at 種子島』。2月に始めた動画ニュースやこうした生中継も「放送業界への挑戦」だそうだ。こうした動画を見るためにも会員登録をしなければならず、話題になれば会員が増えていく仕掛けだ。

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