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2005.03.04

ホリエモンはなぜ敵ができるのか

ニッポン放送株の突然の増資が認められるのか。
多くのメディアはグレーと言うけれど、理屈が通っているようには思えない。
とはいえ、「シンプル・イズ・ベスト」がモットーだというのに
ホリエモンの行くところ、つねに波紋が生まれる。
何でそんなことになるのか考えてみた

●自壊するマスメディア

「想定はしていたが、あまりに突拍子もなくてトリッキーだ。ありえないと思っていた」とホリエモンは記者会見で言った。実際、ライブドアに買収されそうになったニッポン放送が、いま流通している以上の株を発行してフジテレビに与えるつもり、と突然の発表をしたのには驚かされた。日本の社会はほんとうに「何でもあり」になってきたようだ。ライブドアが裁判に訴えて差し止められるかについて、専門家の意見は分かれているらしいが、ちょっと考えてみれば誰でもわかることだけど、控えめに言ってもそうとうに妙な話だ。
 このところの日本は「グローバル・スタンダード」にしたがって、会社の価値が高まるのなら、敵対的な企業買収も認める方向にむかっている。商法は経営権の維持を目的とした増資を禁じており、こんどのような増資が認められるには経営権維持以外の理由が必要だ。ニッポン放送は増資にあたって、ライブドアの子会社になった場合、フジサンケイグループ各社との取引を中止され、企業価値が損なわれることを第一の理由にあげている。
 でも、この理屈が成り立つならば、結局、企業は大きなグループの一員でいるのがトクで、小さな新興企業に買い取られるのは損ということで買収を拒否できる。これでは新陳代謝は起こりにくい。既成勢力がいつも有利になってしまい、変革の芽は摘まれてしまう。
 裁判で、ニッポン放送の主張を判断するためには、ライブドアの子会社になったら、ニッポン放送の社長の言うとおり企業価値が下がるのかどうかを見きわめなければならない。だけど、それもまた妙な話だ。
 フジサンケイグループから切られるダメージが大きいのか。あるいは、堀江氏が主張しているように、ライブドアがニッポン放送の経営に参画すればネットと放送の融合が促進されて企業価値が高まるのか。フジサンケイグループに切られれば、たしかにニッポン放送はさしあたり損をしそうだ。しかし、10年後は? 20年後は? そんなことは誰にもわからない。あらかじめそれがわかれば誰もリスクを取ってビジネスなんかしないだろう。企業価値が損なわれるかを裁判所が決めることはできないし、決めるべきでもない。
 でもニッポン放送の社長は、ライブドアの子会社になったらかならず損をするという前提にたって「増資は正当」と言っている。それが妥当かどうかを誰が判断するのか。フジサンケイグループに切られたら困るだろうなとは誰でも思うから一見もっともらしいけど、少なくともそれは経営者が勝手に決めることではなくて、最終的には株主が判断することだろう。とはいえ、ニッポン放送の大株主はライブドアで重要事項についての拒否権を持っているから、ニッポン放送としては株主に判断をゆだねることはできず、結局、筋を通すことができなくなっている。
 ちょっと考えてみれば、とくに専門家でなくてもこれぐらいのことはすぐに思い浮かぶ。ほかの企業がやったならば、メディアはこぞって滅茶苦茶だと言ってたたいたのではないか。しかし、フジサンケイグループのトップが出てきて「こうします」というものだから、何となくもっともらしい気分になってくる。
 フジサンケイグループの一員で、ライブドアの参入に猛反発してきた産経新聞でさえ、「新株の発行は本来、財務体質の改善や事業拡大に利用され、買収阻止や特定株主の力を弱めることは想定されていない」とは書かざるをえなかった。とくにライブドアの肩を持つわけではないし、前回予告したように、ほんとうは今回「ホリエモンのどこがまずいのか」を書くつもりだったぐらいなのだけど、こうしたことが通るのならば、結局、既存の企業がその体制を維持するためにはそうとうの無理をしてもいいことになってしまう。
 毎日のようにインタヴューされているフジテレビの日枝会長は、いかにもバランスの取れた常識人のように見える。マトは突いているかもしれないけれど過激なことを口にするライブドアの社長とはたしかにずいぶん違う。好対照といってもいい。しかし、時間外取引でニッポン放送株を取得するというグレーゾーンをついた奇策をやったのに対し、首を傾げたくなるような方法で対抗したのでは、前回も書いたけど、見ているほうとしては、まさに「どっちもどっち」で、「何でもありの世の中なんだな」と思ってしまう。ライブドアを非難してメディアの公共性を主張するのであれば、巨大メディア・グループのリーダーらしく、バランスの取れた常識的な対応をしてほしかった。
 大衆社会において全体主義が勢力を伸ばすのは、たんにヒトラーのような人間が出てきて世の中を牛耳るからではなくて、既成のマスメディアが自壊していくからだ。モラル・ハザードが起きて、信用を失っていく。ネットが登場したいまは、ますますそうしたことが起こりやすい。このところ、マスメディアどうしがケンカして信用を確実に落としているように思うだけに、なにかとても不吉なものを感じる。

●ホリエモンがヒーローのわけ

 事態が急変したので予告どおりのことを書けなくなったけど、それはまたいずれとりあげるとして(できれば来週‥‥)、今回は前半に書いたことにも通じる、ホリエモンとライブドアがいまの日本の社会でどういう役割を演じているのかをもう少し考えてみることにしよう。
 堀江氏は著書のなかで、「利益を株主に還元することが一番大事」で「シンプル・イズ・ベスト」だと言っている。名前が比較的知られていたネット接続業者を買収したときに、それまでの「エッジ」からあっさり社名を変えた例などを引いて、「こだわらない」ことをモットーにしているのだと言う。
 さらに本の中では、テレビなどよりももっと過激に「老害」を非難している。いかに年寄りたちが若者の進出を抑えているか。若い世代にお金と権限を渡せば経済がよくなるとも繰り返し書いている。
「老害」批判は、たんに年齢の問題というよりも、既成勢力が新興企業を排除しようとしていることも指しているのだろう。
 堀江氏が「カネでできないことはない」などと「大人たち」をヒンシュクさせるようなことを言うのも、結局おカネが一番公平だからだ。お金は無色透明で、誰が持っていようと1万円は1万円だし、1億は1億だ。既成勢力が自分たちだけで物事を運ぼうとするときに、新興企業が主張を通すためには、おカネの力を借りるのがもっとも簡単で効果的なことは確かだろう。
 こうしたことを考えてみると、「自分にはこだわりはなくて、儲かればいいんですよ」というホリエモンの言葉は半分ほんとうで、半分ウソのように思える。儲けること、おカネを得ることこそが社会の変革を可能にする。社会が変わらなければホリエモンは儲からず、儲かるためには社会が変わらなければならない。
 株主に利益をもたらすのが目的と言いながらも、金儲けと社会変革は一体化している。「シンプル・イズ・ベスト」で「こだわらない」と言いながら、「儲ける」以上の主張を含んでしまっていることになる。だからこそホリエモンはおもしろく、またいまの社会に不満があって変えたいと思っている人たちの象徴にもなっている。おそらく本人もそれを感じ、また営業的にもプラスになると思ってそうした役割を引き受け、ライブドアの株価が下がる局面では口を開けば開くほど分が悪くなっていくようでもあるのに、メディアの前に出続け、ときにしゃべりすぎて不利な情勢をまねいている。
 堀江氏本人は主義主張などないというかもしれないが、「世の中が変わらなければ儲からない。既成勢力から力を奪え」というのは十分すぎるほどの主張である。経済的な範疇を超えて、政治的でもあり社会的でもある過激な主張をしすぎるのが、たぶん経営者としての堀江氏の問題なのだろう。

関連サイト
●2月23日夜、ニッポン放送の新株予約権発行の発表を受け、ライブドアの特設サイトに急遽アップされた堀江社長の「緊急声明」。「友好的な事業提携をしようと思っていたのに、こういうことをするのは問題」と言っている。フジサンケイグループは、ともかくどうあってもライブドアと組むのはいや、ということらしい。
●2月14日、ライブドアは、「ライブドア動画ニュース」を配信し始めた。2月7日に始まった市民記者「パブリック・ジャーナリスト」によるニュース・ページに続くニュース・サイトの新企画。テレビを意識してか、次々と動画放送を始めている。
●テレビに出ても十分に主張を聞いてもらえず、不本意なことが多くなってきて、21日から連日『ライブドア・ファイナンス』のサイトに、数十分間にわたる堀江社長の「所信表明」がアップされている。
ニッポン放送のサイト。ニッポン放送は、IR情報のページで、第一に、ライブドアの子会社になった場合、フジサンケイグループとの取引が中止されること、第二に、ライブドアの株取得は違法の疑いがあり、そうした手段を躊躇なく用いる会社が支配株主となるのは「マスコミとして担う高い公共性と両立しない」と主張している。

          *

 今回のフジサンケイグループがやったように、株をたくさん出すと言えば一株あたりの価格が減って株価は下がるし、上場が廃止される可能性も高い。その結果、決まった値段で買うといっているフジテレビの公開買い付けに応じる株主が多くなれば、増資そのものもしなくてすんでしまう。脅かすだけで要求が通り、実際にお金を払う必要はなくなるというのもずいぶんな話だ。

(仮想報道 vol.376)

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毎週アスキーの仮想報道を読ませていただいております。60前の年寄りにも分かり易い文章で理解できます。時々私のブログで紹介させていただきます。今後とも頑張って下さい。

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