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2005.02.25

民放の広告モデルが崩壊するとき

ニッポン放送株をめぐるライブドアとフジテレビの
争いはメディアの大きな変貌の中の一挿話と
見るべきだろう。変化が起きるのはこれからだ。

●怪しさ満載で理解されないホリエモン

 うーん、怪しい。外国投資銀行が暗躍して、新興ネット企業が株を買い占めメディアを乗っ取ろうとしている‥‥ あらためてこう書いてみても怪しさ満載だ。ライブドアは、株を高騰させて売り抜けるのか、何か魂胆があるに違いない。フジサンケイグループの出来事を明日は我が身と思ったテレビ各局はこぞってホリエモンを呼び出して執拗に問いただす。なかには初めから糾弾するつもりで呼び出したとしか思えないニュース番組まであった。
 しかし、このやり方はあまりにヘタだ。「既成メディアがよってたかって新興企業の若い社長をいじめている」としか見えない。ホリエモンの思惑を暴こうとばかりに居丈高の質問を繰り返せば繰り返すほどそう見えてくる。まるで、ホリエモンをヒーローにしてライブドアの注目度を高めようと画策してわざと叩いているかのようだ。
 フジテレビの日枝久会長は、「お金があればなんでもできるというのはおかしい。健全な日本の資本主義のために戦う」と徹底抗戦の意志を語り、それはまあ正論だとは思うけど、テレビを見ている人には「どっちもどっち」としか見えないだろう。「株がすべてではない」というのは一般人の感覚としてはわかるが、株を上場した会社の経営者が言うことなのかどうか。お金で言うことをきかせようというホリエモンのやり方は「古いんじゃないの」と批判するけれど、そういう意味でも、見ている人の感想は、「ホリエモンと日枝会長、どっちもどっち」と言ったところではないだろうか。株や経済の世界の評価は別として、少なくとも若い世代と女性層のホリエモン人気は続いている。
 ホリエモンは、フジテレビにしろニッポン放送にしろメディア・サイトをポータル化して利益を上げるのが目的だと繰り返し言うが、テレビ業界の人々は、「いやいや、もっと裏があるに違いない。そんなことで800億ものお金を注ぎこむはずはない」と本音は別にあると決めこんで「裏」を探るのに熱心で、どうメディア・ミックスをやるのかには興味がないようだ。しかし、問題のほんとうのありかはそうしたところにあるのだろう。

●広告がすっ飛ばされてしまえば民放は成り立たない

 テレビのデジタル時代によって多チャンネル化が進展すれば地上派テレビの視聴率は下がっていく。さらにテレビ番組を片っ端からハードディスクにとりこんでコマーシャルをすっ飛ばし、興味のある番組だけを見る時代がすでに始まっている。昨年9月に発表された米フォレスター・リサーチの調査では、デジタル・ビデオ・レコーダーの所有者は、テレビ視聴時間の60パーセントはこの装置を使い、広告の92パーセントを飛ばしているという結果が出ている。キーワードを入れるだけ、あるいは一週間の初めにこれとこれとこれを見るなどと設定しておけば、装置のほうで最新の番組表を手に入れ、突然の番組変更もカバーして録画してくれる。録画から15分ぐらい遅れて見始めれば、コマーシャルを見ずに1時間番組が終わるのとほぼ同時に見終えることもできる。効率的にテレビを見れるわけで、一度こうした見方を始めてしまった人は、コマーシャルをだらだら見ている気がしなくなってしまう。テレビの前にいるいないに関係なく興味のある番組を見るようになれば、広告のプレミアム・タイムも成り立たなくなる。
 この調査では、リアルタイムに見るのはニュースとスポーツ中継で、映画の広告や番組予告などは比較的見てくれるものの、クレジットカードや電話会社、クルマなどの広告は飛ばされてしまい、10人のうち3人はまったく広告を見ないと答えている。この調査の時点でデジタル・ビデオ・レコーダーのアメリカの世帯普及率は5パーセントで、5年以内に41パーセントになると予測されているが、日本ではすでに10パーセント代半ばの世帯普及率に近づいている。民放の広告モデルが崩壊する日はもはや始まっている。
 民放連会長も務める日枝会長は、昨年11月、CMも番組と一体の著作物で「録画するさいに機械がCMを自動的に飛ばし、放送内容を変えてしまうのはいかがなものかという意見もある」と委員会を作り検討すると言っている。民放にとって暗雲になることを認識しているわけだ。しかし、いまさら広告を飛ばせないようにするというのでは視聴者の賛同はとても得られまい。日枝会長のこの発言も反発を呼んだ。民放は、番組の二次利用をよりいっそう押し進め、さらに従来とは違うビジネスモデルが必要になってきている。
 ホリエモンはこうした時代の変化を踏まえ、フジテレビにとってもプラスだとばかりに事業提携を期待した。けれども、青天の霹靂だった相手はそうは見てくれず、抜き打ちの敵対的行為だと反発した。そして、日々の番組作りに追われるテレビ人たちは、自分たちの足もとが掘り崩されているなどとは思ってもみないのか、ホリエモンの言うことは突拍子もなく嘘くさいたわ言にしか聞こえないようで、「陰謀探し」に明け暮れている。新しいビジネスモデルの必要性を理解している経営トップも、少しずつ進めていけばいいとかまえていて、一刻も早く変化をとりこまなければと思っているホリエモンと波長は合わない。根本的に問題意識の切迫度が違うのだから、テレビ局とホリエモンが折り合うのはむずかしそうだ。

●メディアの収益源はポータル・サイト?

 広告が飛ばされるようになったとき、その対処法としてまず考えられるのは、番組のなかに広告を混ぜこんでしまうことだ。それらしい試みもすでにやられているようだが、ほんとうは放送法によって禁じられている。放送法の51条は、広告を識別できるようにしなければならないと定めている。
 法律が改正され番組と広告を一体化できるようになったとしても、ドラマを見ている最中に「このインスタント・ラーメンうまいよなあ」「どこのラーメン?」なんて会話が交わされたかと思うと、「○○のクレジットカード、便利だよなあ」などといった見え見えの会話が出てくればげんなりする。旅番組やレストラン・ガイドなども視聴率はがた落ちになるだろう。法律を変えれば「これらの番組はじつは広告」と宣言するようなものだからだ。広告と番組を混ぜこぜにするというのはじつはむずかしいし、そもそもやっていいことかどうかも疑問だ。やはり新たな収益源を見つけるべきだろう。
 ホリエモンはこうも言っている。
「広告費が減っていけば、新たな収益源を見つけなくてはならない。テレビもラジオも今までユーザーとのダイレクトな関係を持っていなかった。だが、ネットと組めば広告以外の方法をとれる。ユーザーのアカウントを取得し、あらゆるサービスを提供していくことができ、インタラクティブに利益を上げることができる」。
 あらゆるメディアが少しずつネットに組みこまれ、ネットから収益を得るようになる日がいずれ来るということはいかにもありそうだ。実際、下のサイトのとおりアメリカの企業はそうした時代の到来を予期してすでに動き始めている。
 ホリエモンにとって問題は、もちろんライブドアがその役をになうかどうかである。このままでは最大の利益の享受者はポータルサイト・トップの『Yahoo!』になる可能性が高い。よく言われるように、ネット企業は勝者がすべてを取り、2番手以降は苦しい戦いを強いられる。ライブドアは2番手どころか、ほかの多くのポータルサイトにも遅れをとっている。巨大エンターテイメント企業であるフジテレビを傘下におさめ、メディアをあげてライブドアのポータルサイト(あるいはライブドアのサイトと合体したフジテレビのサイト)に利用者を呼びこめれば、大差がついている『Yahoo!』との距離を縮めることができるかもしれない。ハイリスクの命がけの投資をしたのはそのためだ。ネット企業のホリエモンは、当然ながらマスメディアそのものよりもネットに目を向けている。
 こうした意味では、ホリエモンの「賭け」は十分に理解できる。しかしそれでも私は、「未来を見通したすぐれた経営者」とホリエモンを賞賛する気にはなれない。次回はホリエモンのどこがダメなのかを書くことにしよう。

       *

 「次回書く」と先週号で予告したウェブログ時代のメディア・サイトの話は今回書いたことと無縁ではないし、前回イチャモンをつけたライブドアの「パブリック・ジャーナリスト」についても、思っていた以上にマトをついていたような気がしてきた。ただ少し寄り道をして、テレビの変貌や堀江氏のビジョンをたどったあとで、もう一度戻って取り上げることにしたい。

関連サイト
アメリカで人気を呼んでいるデジタル・ビデオ・レコーディング・システム『TiVo』。キーワードを指定するなどしてテレビ放送をまるごと録画できる。日本のメーカーの製品でも使われている。日本よりも多チャンネル化の進行しているアメリカではテレビ番組表が機能しなくなっており、こうした装置で好みの番組を録画して見る必要が高くなっている。多チャンネル時代を迎える日本についても同じことが言えるだろう。『TiVo』には新たな広告システムも導入されている。
●テレビのコンテンツもネット検索のターゲットになると見た米グーグルは、1月24日、ベータ版のビデオ検索サイトを公表した。ABC、NBC、Fox News、PBS、C-Spanなどのテレビ番組を検索できる。現在は、検索結果ページからビデオの再生はできないが、いずれそうする予定だという。
●昨年12月に始まった米『Yahoo!』のビデオ検索。キーワードを入れて検索すると20のサムネイルが表示されて動画にアクセスできる。アメリカのテレビ広告市場は6兆円、日本は2兆円弱。インターネットでテレビが見れるようになり、この大きな広告市場がネットに流れてくる日は近いと見て、ネット企業は着々と準備を進めている。

(「週刊アスキー」第375回掲載)

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コメント

helpful!

私も「未来を見通したすぐれた経営者」がほりえもんだとは、おもえないです。確かに、ライブドアの今時点での経営論は正しい方向におもえます、しかし同じ事を考えている人たちが、どれだけいるか、むしろ今大事な事は、すぐ理念を行動に移し実現へ向けて頑張る事が大事なだけの時代は終わり、これからの世界企業(100年から300年間世界の経済をより進化の道に乗せれる企業、、要するに400年後にバトンを渡せる企業の事、また、経済だけでなく、ひとの起こす事、考える事すべてに進化の道があるという事、そこにそれぞれの時代の人が乗る事ができ、次の時代にバトンタッチできるかという事)になるには、経営者の人格の成長(一般平民としての、ただの人としての人格の事)が伴わない大企業や、大変これからももおかるであろう企業は必然的に毎回来ている100年の経済進化の波にのまれ、進化の過程からはずされます、アメリカや、他国の企業家で数百年繁栄してる会社にはそこにポイントがあります、よりよく人のため、ETC、のためにできない企業、(消費者の要求のみ重視するという意味でない)は進化の過程ではじかれます、キーワドは50年企業になるか、100年企業になるかにかかっています。どれだけ、上記の意味を正確に心情で理解している企業経営者がどれだけその国にいるかいないかによつてその国の50年先、100年先、500年先、が決まります、もう時代は、その時代、次の時代にあった考え、実行力、経営力、資金力、マーケット力だけや、必然性だけでは、進化にとつて見れば、50年企業の必要アイテムでしかありません、なぜこのごにおよんで、多くの企業経営者たちはそのことがわからないのでしょう。そこが今のおおくの日本の新興企業のかけているところですねここで書いている意味がわかリ、心情レベルで日々思い正す事を忘れず行えば何とか七転八倒してバトンタッチ企業になれるとおもいます、そこが今日本経済の分かれ目です、日本のきせい大企業いくつかはいろいろな痛手を乗り越え、この事はきずきつつあるものの、いかんせん時代が次の新しい時代に来てますので企業全体のハード部分の改革が迫られています。今当たり前にある新興企業がこのことにきずかないまままい進しても、一時的に繁栄するだけで、50年先に日本経済はやみにいるでしょう、今とりあえずひつようなのは、既存企業と新興企業の分かち合いかな?、上記から今の堀江さんは、今のままでは進化に乗れるかどうか疑問でもあり非常に残念です、よつて上記の事を企業の理念に取り入れれば、どの新興企業はチャンスがあるという事ですね。またフジ側は進化の意味、人格の意味は理解しているようです。

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