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2005.02.16

ライブドアの復讐が始まった?

プロ野球参入で、ライブドアは世界最大の読者数の
新聞社と戦ったが、本丸のマスメディアの世界でも
参入をめぐって戦いを挑もうとしている。

●ライブドア、マスメディアに進出?

 ライブドアがニッポン放送株の35パーセントを取得した。ニッポン放送はフジテレビの筆頭株主で、フジテレビは産経新聞社の筆頭株主。ライブドアは、これでフジサンケイ・グループの経営に大きな影響をおよぼすことになった。
 ライブドアがメディア企業に興味を示していることは知られていた。同社の幹部はテレビ局や新聞社の買収を公言していた。こんどの株取得について、堀江社長は、メディアのサイトを充実させ、提携することで相乗効果を期待していると語り、さしあたり放送の現場に介入する意志はないと言う。しかし、メディア企業の買収について以前触れたときのニュアンスはもう少し違っていた。ライブドアの報道部門の充実を目的のひとつにしていた。ポータル・サイトは、利用者にサイト内に居続けてもらおうとあらゆるサービスを提供しようとしている。ニュース・ページはそのための重要な要素だ。ポータルサイトの王座に君臨するヤフーに追いつくためにも、報道部門を強化し、独自色を打ち出したい。ライブドアはサイトで、記者や編集者、運営スタッフの募集をする一方、メディア企業をまるごと抱えこんで、本格的な報道部門の設立を考えているように思われた。
 プロ野球参入問題で、ライブドアは、巨人のオーナー会社、読売新聞社のトップとことあるごとにぶつかった。結局、参入は果たせなかったが、本丸のマスメディアの世界でそのリベンジをしようというのであれば話としてはとてもおもしろい。堀江氏の言うとおり、こんどの株の取得が相乗効果だけをねらったものなのか、それともさらに今後マスメディアへの本格進出につながっていくのか、それは現時点ではわからない。しかし、堀江氏も8日の記者会見などで言っているように、インターネットがいくら普及したといっても、広範な人がアクセスする点では、テレビはもちろんラジオにさえかなわない。テレビやラジオによってサイトにアクセスを集め、魅力的なコンテンツでサイトでの滞在時間を延ばし、お金を落としてもらうというビジネス・モデルをライブドアが描くかぎり、マスメディアとの結びつきを深めていくことは必須の課題であり続ける。

●ライブドアが打ち出したパブリック・ジャーナリスト

 ニッポン放送株取得の派手なニュースの一方で、ライブドアは、この7日、そのサイトでかなり力を入れてきたと思われる意欲的な試みをひとつ開始している。
「パブリック・ジャーナリスト」の記事がライブドアのニュース・ページに載り始めたのだ。パブリック・ジャーナリストとは「プロの記者とは異なり、本業の中で感じたことなどを客観的なニュースや主観的なオピニオンとして記事を書いていただく方々」だそうで、「ライブドアの報道部門の特派員的な位置付け」で、ビジネスマンや主婦、学生が登録して「生活や仕事の現場で感じたことや見聞きした事実をライブドア・ニュース上で伝える」ものだという。つまり、素人を集めて研修をしたうえで記者として執筆させ、経験者からなるデスクがチェックしたうえで掲載するということらしい。
 このパブリック・ジャーナリストは昨年11月に募集を開始し、一部のメディア関係者の波紋を呼んだ。一般の人々を記者として受け入れるネット・メディアとしては、『マイ・ニュース・ジャパン』や『JANJAN』などがすでにあり、さらに、韓国で成功したネット新聞の先駆「オー・マイ・ニュース」も今年前半に日本語版を出すという。同紙は「すべての市民は記者だ」というモットーのもとネットで登録した人は誰でも記者になれるというもので、日本の同種のネットメディアに影響をあたえた。ライブドアのようなポータル・サイトまでが投稿型のニュース・ページを始めるとあらば、このような動きをさらに加速させることになる。
 しかし、ライブドアのリリースをそのまま読めば、ライブドアのニュースをすべてパブリック・ジャーナリストに任せるなどということはなくて、これまでどおり大手メディアの記事の配信をうけたうえで、その「彩り」として載せると考えたほうがよさそうだ。
 パブリック・ジャーナリスト志願者の研修が行なわれ、カリキュラムも公表されているが、それを見ると、研修は、説明などを除いて正味7時間ほどだ。それでちゃんとした記事が書けるなら苦労はない。8000円の費用を払って研修を受けろというのもわざわざパブリック・ジャーナリストのレベルを下げるようなものだろう。自分の文章に自信がある人は応募しないだろうし、それぞれの業界で名をなしている人もやってはこない。しかも原稿料は「ポイント」というのだから完全に素人さんの募集である。これでは、メディア企業が脅威を感じるわけはない。「いまのうちに笑っていてください」とライブドアの幹部が言っているという話も聞くが、ライブドアにはどのような成算があるのだろうか。

●教える必要はないのかも

 この原稿を書いている8日の時点では、パブリック・ジャーナリストの記事は3本しか掲載されていない。そのうちの1本、このパブリック・ジャーナリズム路線を支えているらしいライブドアニュースセンター長補佐の記事を読んで、驚かされた。
「一つの妖怪がジャーナリズム界を徘徊している。『パブリック・ジャーナリズム』という妖怪が」というのが、「特集・パブリック・ジャーナリスト宣言」と題した記事の冒頭の文章だ。これは言うまでもなくマルクスの共産党宣言のもじりである。見出しは「『プレスの自由』はパブリックのもの パブリック・ジャーナリズムというレコンキスタ」。
 茶化すみたいで悪いけど、いやー、すごい。思わず茶化したくなるぐらいにアナクロめいた文章で堅苦しい。わかりやすく書くというのはジャーナリストの基本かと思っていたけど、どうもそうではないみたいだ。
「パブリック・ジャーナリズムは、自らの『活私開公』を目指す個人としてのパブリックが集い主体となって、『客観的真理』『規範的な正しさ』『主観的な誠実さ』といった理想論的な対話基準のもとに、自由闊達な異質な他者との喜怒哀楽含めた多様なディスカッションによる民主主義と自由主義の実現を目指すジャーナリズムとしたい」。
 株の売買で大きくなってきた資本主義の権化みたいな会社のサイトの新路線に何もマルクスを持ちださなくてもいいじゃないかと思うが、もしかすると会社に対するイヤミなのかと邪推したくなるような異色ぶりだ。
 ネットによって誰もが情報発信できるようになり、ジャーナリズムがマスメディアの特権ではなくなったという主旨に異存はないけれど、こんなに小むずかしく居丈高に言わなければならないことかしらという気分が濃厚にしてくる。こういう文章を書く先生に習ってしまってパブリック・ジャーナリストたちは読める文章を書けるようになるのかと余計な心配さえ感じられてくる。
 ところが、おもしろいことに、研修生のほうは、むしろちゃんと「読ませどころ」をおさえた文章を書いている。3本の記事のうち1本、「せきやんも、パブリック・ジャーナリスト宣言」と題された、研修を受けた年輩の「新人記者」による記事はこう書かれている。
「既存のメディアに対抗するとか非難するのではなく、無名の市民レベルでの情報発信をしたい。まだまだ未熟で不確かな部分も多い。ましてライブドアといういい加減な会社、見る前に飛ぶ堀江氏のやることだ。どこに向かっていくのやら…」。
 あらら、のっけからこんなにあからさまに書いてしまっていいのかしらと思うが、少なくとも読者の気持ちはわかっている。正味7時間の研修で何ができると書いたけど、まあ先生だからすばらしい記事を書くというわけでもないし、7時間しか習っていないからダメだということでもないようだ。
 ライブドアのパブリック・ジャーナリズムにどうも違和感を感じるのは、素人の書き手をはなから格下扱いしているとしか思えない点だ。「誰でもが情報の発信者」というのは、素人にも発信させてやるということではないはずだ。プロとアマの境界があやふやになってきたというのがいま起こっていることなのに、研修制度とかポイントによる報酬とか、プロとアマは別物という固定観念に囚われているとしか思えない。

関連サイト
ライブドアの「パブリック・ジャーナリスト宣言」。格調が高いというより、力の入りすぎのような気も‥‥。本体のライブドアは、年末に発表されたネットレイティングスの調査で、昨年1年のネット利用者数の伸びが高かったサイトのリスト中、前年の5倍を超える大幅増で、オンライン百科事典のウィキペディアの伸びに次いでいる。プロ野球騒動で注目された効果ははっきりと現われている。
●ニュースの現場にいる誰もが発信者という『マイ・ニュース・ジャパン』。広告収入によらないことを謳っていて、企業について辛口のルポが並んでいる。各企業の過酷な勤務の実態なども描かれている。就職しようと思っている人は「幻想」を抱かないためにも一読するといいかもしれない。
●登録した市民記者によるネット新聞『JANJAN』。ライブドアも加わって、誰もが登録して記者になれるという仕組みのネット・メディアは増えてきたが、ウェブログが普及しはじめたいま、もっと別な方法もあるように思う。近々そうしたことを考えてみたい。
(「週刊アスキー」連載 第374回)

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コメント

パブリックジャーナリスト研修に参加してきました。
わたしのブログに、これからいろいろと記事をあげていこうと思っています。

主催者に生で接した印象からすれば、2ちゃんや厨房のようなことはありえない。
ただ、だからこそ、助走の時間が必要なようです。

いつも週アスの仮想報道、読ませて頂いています。
この記事を読んだ印象だと、パブリック・ジャーナリストの先行きがどうも不安な物に思えて仕方ありません。
もう少ししっかりとした研修(せめて1週間程度は必要では?)や、原稿料をポイントでは無く現金で支払うなどして、書いた記事に対する責任を負わせる形にして欲しいものです。

でなければ、パブリック・ジャーナリストはそれこそ(例えは悪いですが)程度の低い2ちゃんねらー、いわゆる「厨房」の無責任な罵詈雑言の垂れ流し程度で終わってしまうのではないでしょうか。

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