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2005.01.21

バーチャル・ネット娘の威力

ネット・ユーザーがどう行動しているかは
わかりにくいが、思いがけないサイトが
大量のアクセスを集めているらしい。

●2ちゃんねるでスレッドが立つと‥‥

 3号ほど前に国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(グロコム)の研究会で「2ちゃんねるの時代の終焉」が議論され、その討議の記録がネットで公開されているという話を書いた。コンピューターに詳しい友人に、「このところ2ちゃんねるについて研究している若い学者たちがいる」という話をしたところ、「2ちゃんねるの何がそんなにおもしろいの」とあっさり言われてしまった。あらためてそう反論されると言葉に詰まるが、すさまじいエネルギーと時間を使って匿名の空間で多くの人間が膨大な話題について言葉を連ねることはこれまでなかった。だからその行動様式や特徴を解明しようという人たちが現われるのは当然だろう。しかし、ネットのユーザーがどういう行動をとっているかはかなりわかりにくい。その一端を感じる体験をしたので、今回はそれを書きとめておくことにしよう。
 原稿を書き始めて10年以上経ち本も何冊か書いたが、その反響を知る機会というのはあまりない。本を出すのは手紙をビンに詰めて海に流すようなものと以前書いたことがあるが、出した本をどこで誰がどう読んだのか実際のところよくわからない。たまに手紙やメールが来たり、会った人から読んだことや感想を聞くぐらいである。直接的なコミュニケーションとしては、本を書くのは(たとえば手紙やメールを書くなどといったことに比べて)意外につまらないものだなと思ったこともあった。そこへ行くと、ネットは反応が早いし、アクセス・カウンターのような仕組みがあればどれぐらいアクセスがあったかもただちにわかる。クリックひとつでメールやコメントを出せるからそれなりに反応がある。さらにその反応が突然、激変したりするといろいろなことを考えさせられる。
「2ちゃんねるの時代は終わった」といささか刺激的なタイトルで原稿を書いたのでリアクションがあるだろうな、と思っていた。しかし、本誌の発売日が過ぎてもとくに反応はない。このコラムの原稿はウェブログ形式のサイトにも掲載しているが、編集部との話し合いで、発売日の次の金曜日にしている。サイトにアップした金曜日にはいつもぐらいのアクセスだった。ところが、翌日の夕方突然アクセスが殺到しはじめた。解析機能があるのでどこからやって来るのかすぐわかる。アクセス元は2ちゃんねるで、リンクされたらしい。最近の2ちゃんねるはスレッドが増え、その分ひとつひとつのスレッドに居着いているユーザーが減り、リンクされても100ぐらいのアクセスがある程度とグロコムの討議でブロッガーが言っていた。しかし、スレッドが立ってしまったのでそのレベルではすまなかった。1日で5000ほどのアクセスがあった。
 以前、サイトにアクセスがあると、雨音として聞こえるメディア・アートを作成した人にインタヴューしたことがあった。意識を集中させなくても、バックグラウンドで変化を感じとれる。環境としての情報装置があるとおもしろいといった話を聞いた。たとえば株価の変動などもこうやってわかれば便利ということだったが、突然アクセスが殺到し始めたこんどのようなときにこういう仕掛けがあったらきっと迫力満点だっただろう。けれども、そんな仕掛けはなかったし、ある程度、予期もしていたから、「案の定」と思うぐらいのことだった。アクセスもたちまち下がっていった。
 当の2ちゃんねるでは、「終わった」と宣告されて激怒している人がいる一方、何年か前と変わってたしかにパワーがなくなってつまらなくなったと言っている人もいる。「2ちゃんねるが終わったと言われて、何で自分のことのようにそんなに怒るんだ」となだめているのかあきれているのかわからない書きこみもあって、ちょっと笑えた。
 ただ、ネットの時代が始まって以降、バーチャルな場所を自分の棲み家のように感じはじめた人たちは確実にいる。自分の故郷や家をバカにされたら誰でも怒るだろうから、そういう人たちを不快にさせたのだったら申し訳ないとは思うが、言うまでもなく、「2ちゃんねるの時代の終わり」というのは、2ちゃんねるそのものが終わるということではなくて、性格の変化を語ったものだ。2ちゃんねるはもっぱら個人の運営者の善意と意欲にかかっているのだから、ほんとうに終わるかどうかは運営者しだいだろう。

●「第二波」の襲来

 本欄の原稿などを載せた私のサイトは10月に開設したばかりで、まだそれほどアクセスはない。基本的には原稿のアーカイヴで、ネットでの反応にただちに応じるとはかぎらないから、(自分で作っておいてなんだけど)あまりおもしろくはないと思う。ネットに原稿を載せてみるとよくわかるけれど、双方向性が前提になっているネットと紙の雑誌の原稿は書き方からして違っているし、ウェブログはまたいっそう違う。この原稿は雑誌向きに書かれているので、週刊アスキーで読んだほうがネットで見るよりもずっとおもしろいはずだ(ウソだと思う人は読み比べてみてください)。
 それはともかくまもなく1時間に50ぐらいのアクセスにまで下がり、このままもとに戻るのかと思っていたら、こんどはもっとすさまじい「第二波」がやってきた。アクセス・カウンターが1時間に1000を超え、2ちゃんねるからのピーク時のアクセス数をあっという間に超えた。
 こんどは掲示板からのリンクではなかった。アクセス元は「Today's Best News」というサイトだった。覗いてみると、いろいろな記事にリンクを張って紹介しているウェブログふうのサイトである。大きくあつかっているのは新聞やテレビなどマスメディア・サイトの記事が多い。私のサイトの記事については、<本日の拾得モノ>としていくつか列挙してあるもののなかの1行、それもタイトルだけである。それでこれぐらいのアクセスが来るのだから、このサイトにアクセスしている人はいったいどれぐらいいるのだろうか。
 先のグロコムの討議で、『ARTIFACT』のブロッガー加野瀬未友氏が、個人ニュース・サイトにリンクされると1万を超えると言っていたが、個人ニュース・サイトにそんなパワーがあるということにあまり実感がわかなかった。しかし、この日のアクセスは実際に1万を超え、その大半がこのサイトからのアクセスだった。たった1行タイトルが出てリンクされただけでこれだけアクセスがあるのだから、「Today's Best News」自身には、その10倍のアクセスはあるのではないか。毎日平均してそれぐらいのアクセスがあるのだとしたら、へたな雑誌を上回る読者を持っていることになる。
 今回初めて知ったサイトだったが、「Today's Best News」のタイトル部分には「お兄ちゃん(高橋健)と茜の面白ニュースレビュー!」と書かれている。トップページには「TBNアナの茜17歳です」とイラスト入りで載っているから、バーチャル・ネット・アイドルがニュースを紹介するサイトということらしい。
 ネットを徘徊している人はよく知っていることだろうけれど、この手のサイトはじつはけっこうあって、たとえばこのコラムでも取り上げた『バーチャルネット法律娘 真紀奈17歳』というサイトは著作権について解説したりしている。この「バーチャル法律娘」が言うところによれば、彼女のサイトもほかのバーチャル・ネット・アイドル(略してVNIというらしい)の影響を受けて生まれたそうで、セキュリティ情報娘などというのもいたという。正直なところ、私は、この手の乗りにはちょっとついていきかねるのだけれど、ともかく「茜ちゃん」のサイトがとてつもないアクセスを集めていることはよくわかった。
 先の記事はネットの一部で少しばかり騒ぎになったようで、迷惑メールがやたらに来たりと不愉快な目にもあったけど、思いがけないネットの生態を垣間見れたのはおもしろかった。

関連サイト
「Today's Best News:お兄ちゃん(高橋健)と茜の面白ニュースレビュー!」。「お兄ちゃんと茜」の会話調で文章が構成されている。どんな人が書いているのか知らないけれど、アクセスが多ければプレッシャーもそれなりに大きいだろう。内容に賛同するかどうかはともかく、素人の作り手とはとても思えない巧みな演出や語り口だ。
●知る人は知っている有名サイト? 「バーチャルネットアイドルちゆ12歳」。こちらも一応ニュース紹介サイトだが、「Today's Best News」よりサブカル・オタク系のよう。「はじめまして」のページで、「バーチャルネットアイドルとは、バーチャルアイドルとネットアイドルのあいの子です。(‥‥)ちゆには恋人もいませんし、ゲップもしなければトイレにも行きません。実在の女の子以上に理想的な、新世紀のアイドルの形だと言えます」と自己紹介している。グーグルで「バーチャルネットアイドル」を検索するとトップはこのサイト。
「バーチャルネット法律娘 真紀奈17歳」。書かれている内容はまともでおもしろい。著作権という堅い内容だから「茜ちゃん」のサイトほどではないとしても、著作権がらみの事件があったときなどリンクが多く、アクセスはかなりあるだろう。

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.370)

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コメント

 どれぐらいウェブサイトがあると思っているんだ>↓

この文を興味深く読んで一番知りたくなったこと。
それはバーチャルネットアイドル(もうこの言葉も下火で、あまり露出していないけど)などのネットムーブメントを全く知らずに、どうやってネットライフを続けてこられたのかと言うこと。日々ネットでどんな情報を授受していたのかということ。
マスコミのニュースサイト、著名人のコラムサイト、知己のサイトや日記、天気予報、などから一歩も外に出なかったのでしょうか。
それともネットムーブメントは一部のオタクのもので、普通は知らないものなのでしょうか。
案外、趣味・興味の人脈は徹底的にクラスター化されているものなのでしょうか。
うーむ

>知る人は知っている有名サイト? 「バーチャルネットアイドルちゆ12歳」。

知ってるどころか、
こここそがVNIの始祖であり全ての元凶であります。
なにがどう“凶”なのかはよくわかりませんが。

ここの管理人さんがVNIという概念を創出なさいました。

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