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2005.01.14

「死んだ広告」が蘇る

技術の発達はじつに不思議なことを可能にするものだ。
過去の印刷物の奇抜な復活計画が、
グーグルの特許申請などから見えてくる

●広告のゾンビ化計画

 ひとつひとつ話を聞くと「まあ、そうかな」と思うことも、結論だけ聞くと「え、そんなバカな」とびっくりするようなことがある。グーグルの創立者ラリー・ペイジの特許申請に書かれている内容はまさにそうしたものだ。どんなことか一言で言えば「死んだ広告が蘇る」。ミイラが蘇るような不思議な話なのだ。

 古い広告、たとえば10年前の雑誌の広告は、いくつもの意味でもはや「死んで」いる。
 まず第一に情報が古くて、購入などの役に立たない。読者にとって役に立たないだけでなく、昔の製品情報などは広告主ももはや伝えたいとは思わないだろう。雑誌の発行元もこれ以上、広告料収入が入るわけでもない。誰から見ても利用価値がなくなっている。
 しかし、「メディアを検索する方法」というシンプルなタイトルのラリー・ペイジの特許申請書によれば、そんな古い広告を蘇らせる方法があるのだという。たいていの人は、どうしてそんなことができるのか見当もつかないだろう。私もこの特許申請書を読むまではそうだった。でも知ってみると、じつはそれほど不思議なことではない。グーグルの申請書に書かれている「死んだ広告を蘇らせる方法」とは次のようなものだ。
 まず印刷物をスキャンして、テキストは文字として認識し、広告は広告として認識、ウェブ・ページにする。そして、広告があつかっている製品やサービスのサイトから定価や製品内容の情報を取り出して広告を更新するのだという。次世代のウェブ技術では、ウェブ上の情報が何を意味しているか(この情報は製品名だとか定価だとか)をわかるようにメタ情報を付けて記述しておき、コンピューターに読みとらせようとしている。この技術を使うつもりなのだろう。スキャンしてウェブ対応の文書にするときにどうやってメタ情報を加えるのかがちょっとわからないが、ともかくラリー・ペイジは、紙の上の広告を電子化して更新できると考えている。
 古い広告をデジタル化して「復活」させることができれば広告収入もまた得られる。広告主が更新を断わってそのスペースがあけば、別の広告を入れると申請書には書かれている。
 グーグルは、コンピューターが判断して文章内容にあった広告を出す「アドセンス」と名づけた広告システムを採用している。この仕組みを使って広告を出すつもりなのだろう。
 グーグルの広告料はクリックされた回数に応じて発生する。記事は古くても広告は新しいわけで、記事に応じた広告を載せればそれなりにクリックされるにちがいない。たとえクリック率が低くても、載せる媒体数が増えれば当然ながらクリック回数が上がる。古い雑誌を電子化して新しい広告を載せられれば膨大な広告媒体が出現することになる。
 言うまでもないが、レベルの低いコンテンツに広告を出しても広告効果は低い。ウェブのコンテンツは印刷物ほど制作コストをかけられず、印刷物のレベルに達しているとはかぎらない。完成度の高い印刷媒体をウェブ化すれば広告を載せるより魅力的な乗り物【ルビ:ヴィークル】になるということはありえそうだ。ウェブ化した印刷物の広告は、当然ながらクリックひとつでその製品なりサービスのサイトに飛び、注文することもできる。印刷物の広告が老いさらばえたミイラとして復活するのではなく、より強力になったゾンビとして生き返ることになる。

●雑誌のアーカイヴが無料に

 こうして広告が蘇り、古い雑誌からも広告収入を得られるようになれば、読者にも大きなメリットがある。ウェブでアクセスできる広告のバックナンバーは有料のものが多い。しかし、広告は見せなければ意味がないから、雑誌のバックナンバーについても無料で公開される可能性が高くなる。
 雑誌は多くの人間がかかわっていて権利関係が複雑だから手間がかかるかもしれないが、社内の記者が書いている新聞ならばもっと問題が少ないだろう。いまの新聞データベースでは過去の広告を見せても仕方がないから記事だけを収録しているが、過去の広告が生き返るなら、紙面レイアウトそのまま表示するようになるかもしれない。
 ともかく世界中の情報を利用しやすくすることを使命と考えているグーグルが、雑誌や新聞などの広告をこれまで誰も思っても見なかったような方法で蘇らせ、ネットの検索を通してできるかぎり多くの情報に無料でアクセスできるようにすることを考えているということが、この特許申請書からは見えてくる。
 この特許申請ではこうした「広告復活作戦」以外にも、印刷物、CD、DVDといった多様なコンテンツを発行元がどのように公開するか(あるいはしないか)ネットで簡単に指示できるシステムについても説明している。印刷物の公開の仕方としては、ページ全体を見せる以外にも、抜粋だけを見せて有料課金し全体を表示する方法などが手書きの図入りで記述されている。

●本のデジタル時代の始まり 

グーグルはどうやらこうしたことを実行に移そうと、実際に一歩を踏み出し始めたようだ。この特許申請書は昨年6月に出されたものだが、12月半ばになって壮大なバーチャル・ライブラリーの計画が明らかにされた。
 12月14日、米グーグルはスタンフォード大学などの図書館の蔵書1500万冊をスキャンして電子化し、本の全文をネットで検索できるようにすると発表した。もともとグーグルの若い創立者2人は大学でデジタル・ライブラリーの研究をしていたそうで、こうしたグローバルなバーチャル・ライブラリーを作ることを夢見てきたという。ラリー・ペイジは、「図書館員が愛情をこめて整理してきた途方もない広がりを持った情報をオンラインで検索可能にすることは、グーグルを始める前からのわれわれの夢だった。これらのすばらしい図書館の蔵書をデジタル化し、グーグル・ユーザーがそれを一瞬にして検索できるようにする計画を本日発表できたことを喜んでいる」とリリースで語っている。米ニューズウィークのサイトではさらに、こういったデジタル・ライブラリーを夢見てはきたが「われわれが生きているうちにできるとは思わなかった」と言っている。このところグーグルは次々と新しい検索を発表しているが、2人の創立者にとってこのプロジェクトは特別の意味を持っているのだろう。
 米グーグルはすでに、「グーグル・プリント」と名づけた検索を始めている。賛同する出版社から送られてきた本をスキャンして電子化し、本全文の横断検索を可能にした。大きな図書館の蔵書が検索対象に加われば、本の数はこれまでとは比べものにならないぐらい膨大なものになる。著作権の切れた本については全文を表示すると言っており、その利便性も大きく高まる。図書館の蔵書には、当然ながら古い新聞や雑誌も含まれているはずだから、先に書いたような広告蘇生技術も実際に使えることになる。
 この図書館の電子化についてびっくりさせられるのは、図書館は本を提供するだけで、電子化のコストはグーグルが負担するということだ。「グーグル・プリント」でも、出版社は本を送るだけで、電子化のコストはグーグルが負担している。これらの費用は広告収入の増加でまかなえるとグーグルは判断しているわけだ。図書館のほうは、タダで蔵書のデジタル・データが手に入るのだから、思ってもみなかった幸運が突然降ってきたことになる。
 電子書籍のダウンロード販売はすでに細々とは始まっているが、図書館や出版社が経済的負担を負うことなく、膨大な本がこうして続々と電子化されていき、有料課金なども通してネットで本の全文にアクセスできるようになれば、音楽のネット配信に続いて、電子化された本のネット流通の時代が本格的に始まることになる。

関連サイト
●グーグルが発表した図書館の蔵書の電子化についてはアートスケープのサイトにも書いた。
「グーグル・プリント」の表示画面。著作権の切れたものは本まるごと、それ以外のものは検索語を含むページ単位か検索語を含む数行といった選択肢のなかから出版社が表示方法を指定する。一点一点のタイトルごとに出版社がネットで簡単に指示できるシステム作成をグーグルが考えていることも特許申請書から見てとれる。
●グーグルとの提携事業で800万冊の蔵書を電子化すると発表したスタンフォード大学のホームページ。著作権について問題が起きる可能性もあるのによく決断したものだ。同大学は、グーグルの創立者2人の出身大学でもある。そうしたことがこの決定に関係したのだろうか。ウェブというバーチャル・ライブラリーの価値を検索によって高めてきたグーグルの若い創立者2人が、オールド・メディアである本のデジタル化にも意欲を持っていたというのはなかなか興味深い。
●700万冊の蔵書の電子化を発表したミシガン大学のホームページ。こちらもトップページでグーグルとの提携事業を伝えている。同大学はこれまでも本の電子化に熱心で、コーネル大学と共同で、「メイキング・オブ・アメリカ」と名づけたデジタル・ライブラリーを公開しているが、グーグルとの提携で経済的な制約がなくなり、これまでとは桁違いに電子化のスピードがアップするという。
アメリカ特許商標局のサイトにある昨年6月に出された米グーグルの特許“Method for searching media”

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.369)

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コメント

日本のIT屋ははっきり言って、超・超・超純粋バカとしか思っておりませんが、それ以上に、アメリカのIT屋も同じとしか思っておりません。
グーグルもです! 要は、グーグルでさえ、1クリック”いくら…”という基本的な発想を超えていないことを洞察しています。本質的なことは”1クリック”の決定的な”質”の違いをどのように”洞察”できるか、そのような”機械”をどのように設計するか、といったことなのです。
それが私の提唱する”意味論的空間トポロジー”なんですが、まだ100年ほど早いのかもしれません、リリースするのが。

はじめまして。 msaicc と申します。

このような記事を読むと、”あの国”は”超凋落”していると同時に、”超最先端”の道を今、尚、切り開いているという、極めて両義的なものを感じます。

ということは、これからIT屋(特にインフラ屋)が注目すべき主な仕事は、これらの膨大なデータをどこに、どのようにして、信頼のおけるかたちで、かつ、低いコストでためておくか、という技術の確立にあるわけだ。いま、それをまじめに考えているIT屋は少ないよ。

でも、それ以上に問題なのは、こうやってためてきたもの、これからためるものが、いったいぼくらになにをもたらしてくれるのか?という、どちらかといえば文化的視点だろうね。ただのゴミの山になるか、それとも、すばらしい文化遺産となるか?

これはそれを扱うぼくらがどういう価値観をこれから構築していくか、ということにかかっているものだね。

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