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2004.12.17

ウェブは新聞の救世主?

アメリカでも若者の新聞離れは進んでいるが、若者を
惹きつけようという新聞関係者の意気込みはすごい。
彼らの戦略はどんなものだろう。

●新聞読者1ケタの時代がやってくる

 新聞離れはどの国の新聞人にとっても頭の痛い問題だ。アメリカの新聞協会のデータを見ると、1967年には75・8パーセントのアメリカ人が平日の新聞を読んでいたのに対し、2004年には52・8パーセントにまで減っている。全体の減少以上に深刻なのは「若者の新聞離れ」だ。18歳から34歳までの層は67年には7割以上が平日の新聞を読んでいたが、2004年には4割を切り、減り方が著しい。しかし、この数値はまだ甘いと見ている人もいる。セントラル・ミシガン大学のジャーナリズム科のジョン・ハートマン教授は、自分の講義を受けている学生のうち新聞を読んでいる割合はもはや16パーセントを切っていると言う。新聞協会の数字は「平均講読率」だから、「ほぼ毎日読んでいるんじゃなきゃ読んでいることにはならないよ」ということになったら、数字はがたっと減る。実際「アメリカン・ジャーナリズム・レヴュー」2001年3月号は、18歳から29歳までの層で新聞を毎日読んでいるのは16パーセントと発表している。ハートマン教授は、この層は90年代には20-25パーセントが毎日読んでおり、この減り方からすると、10年以内に1桁になるだろうと予想する。教授は広告の授業の受講生に「将来役に立つから」と、ウォール・ストリート・ジャーナル紙を安く購読できるようにして薦めてきたそうだ。10年前は10パーセントの学生が申し込んだが、2002年に申し込むと言ったのは150人中1人、それも30歳の年輩の学生だけだったそうで、ついに便宜を図るのをやめてしまったという。
 新聞協会のデータによれば、日本でも新聞を毎日読んでいる人は50歳以上だと8割を超えているが、20歳代は47パーセントに減っている。アメリカに比べればましだが、それでも「若者の新聞離れ」は進んでいる。

●「歳をとれば新聞を読む」というのはウソ

「新聞を読んでいる若者が少なくったってそんなに心配することはないよ。社会に出て何年かたって責任ある立場になったら読むようになるんだから」と言う人がいるけれど、これは事実ではないらしい。ハーバード大学が出している『ニーマン・レポート』という雑誌の昨年冬号は「新聞は若者に読まれるか」という特集を組んでいて、その冒頭に、この言葉がまったくの幻想であることを暴くグラフが載っている。それを見ると、歳をとったら読むということはなくて、若いころ新聞を読んでいない層はずっと読んでいない。
 しかし、アメリカの人口統計を見ると、20歳から40歳までの層は上のベビーブーマー世代に次いで多く、人口比で3割近くを占めており、大きなマーケットである。となれば、アメリカの新聞人がこの事態をほうっておくはずもなく、若者に新聞を読ませるにはどうしたらいいか、頭をひねることになる。
 この雑誌の特集では全米の新聞関係者が原稿を寄せていて、それぞれの会社の戦略を明かしている。いくつか読んでみたが、意外なほど似通っている。彼らが何を考えているかというと、ズバリ若者に受ける刊行物にする、という。あたりまえの話だ。しかし、新聞をまるごと若者向けにしてしまったら、ほかの層が逃げてしまうからそれはできない。若者向けの面やパートを作ることをとりあえず考えている。アメリカの新聞は日曜版は平日より分厚くて、広告もどっさり盛りこまれ、雑誌まで入っている。その雑誌を若者向けにしようとしているところが多い。ファッションや音楽、映画や芝居、レストラン情報などをしゃれたレイアウトで出す、というのが多くの新聞社が考えている手らしい。実際それで成功した、というところも出てきている。もっともそんなことをするぐらいなら、最初から雑誌を売ったらどうかと思うが、それではだめなようだ。「タダで付いている」ということが重要なのだ。
「無料で新聞を配達しなさいよ。それならちょっと見てあげてもいいわ」──この特集の巻頭エッセイによれば、どうしたら新聞を読むか若い人たちに尋ねて返ってくる典型的な答えはこれなのだそうだ。新聞を読むのではなく、ネットで見出しを見てウェブログで共感できる意見を探す世代は、お金を出してまで新聞を買おうとは考えない。実際、大都市の大手新聞社は、これまでの新聞読者と異なる層をとりこめるメリットが大きいと見て、電車通勤者をターゲットに無料新聞まで出している。ワシントンポストの編集局長スティーブ・コルは、無料新聞をとっかかりにウェブサイトに若者を呼び寄せて、そのうちの何人かが新聞の購読者になってくれればいいと言う。若者を新聞に惹きつけるためには、いかなる形であってもともかく接点を増やそうという気迫が伝わってくる。そして、それができない地方の新聞社は、「おまけの雑誌」を若者向きにして工夫を凝らす、というわけだ。

●一方向的な情報に対する拒否反応

 ハートマン教授は、若者を惹きつける鍵として「無料」ということと「簡単にアクセスできる」ことをあげている。そして、そのためにはウェブ・サイトが重要な役割を果たすと見ている。サイトを有料化するのはマーケット戦略として自殺行為だとまで書いている。
 ハートマン教授にかぎらず、この特集に文章を寄せているアメリカの新聞人はウェブ・サイトに好意的だ。若者を惹きつける媒体として重視している。いまの時代、当たり前だと思うかもしれないが、日本では、ウェブ・サイトで無料で記事を読ませることを始めたのはどこの新聞社だと「犯人探し」も始まっているという。ウェブ・サイトを敵視しているといったほうが日本では実情に近いだろう。
 このレポートに寄稿しているシアトル・タイムズの編集者コリーン・ポーリグは、若い世代はニュースに対して旧世代とまったく違う反応を示す、インタラクティヴでないメディア・サイトには興味を示さないと言い、書きこみができるようにするべきだと書いている。「新聞だって投書というのがあるではないか」という意見には、彼女はせせら笑うような調子で、もしそれをやるなら来た手紙をほとんど全部ネットに載せるぐらいのことをしなければだめだ、と大胆なことを言っている。なかなか鋭い指摘だ。
 さらに彼女は、若い世代にはニュースを一方的に伝えるという姿勢ではダメで、記者はパーソナルな視点で語ることを恐れるな、とも書いている。こうした主張がどこへ行き着くかは明らかだ。ウェブログである。
「新聞サイトにウェブログがあるところは少ないが、とても人気がある。というのは、ウェブログによって、若い読者たちが、堅苦しく尊大でうんざりした気分になる言葉を通さずにジャーナリストに近づくことができ、彼らのことを人間として見るようになるからだ。たいていのウェブログは読者が意見を書きこむことができ、それによってますます成功をおさめている」。
 若い読者は、情報に対する欲求が強く、また自分と同じような人たちがどう考えているかを知りたがるということも、この雑誌に原稿を寄せている多くの業界人が声をそろえて言っている。読者間の意見交換もできるウェブログは格好の媒体というわけだろう。
 この特集でワシントンポストの編集局長が言っているように「ウェブ・サイトのビジネス・モデルがどんなものになるかはまだわからない」にもかかわらず、アメリカの新聞人たちは、自分たちのビジネスにウェブが役立つことをまったく疑っていないようだ。これは、日本のマスメディアのサイトが行き詰まっている感じがあるのと比べると、驚くべき反応だ。コル編集局長は、「もしウェブに投資せず、ウェブの持つ力を見出さなかったら、新しいメディアへの移行の可能性を完全に見失うことになる」と言っている。その通りではあるが、楽観的なまでの前向きさで、日本のマスメディアがウェブについて疑心暗鬼になっているとは大きく異なる。インターネットの未来はやはりアメリカのものなのかもしれない、と思わされる。

関連サイト
●無料新聞の嵐がやってきた。ワシントンポスト紙が昨年8月に発行を始めた無料新聞「エクスプレス」。本紙の苦戦にもかかわらず、こちらの部数は伸びている。
●ハーバード大学が出している『ニーマン・レポート』の昨年冬号の特集「新聞は若者に読まれるか」。若いころ新聞を読んでいない層は将来も読まないことを示しているグラフが載っている特集冒頭のエッセイ。60歳以上の高齢者は72年に7割が読んでいて、30年たったいまでもさほど変わってはいない。戦後生まれの40歳から60歳までのアメリカのベビーブーマー世代の新聞講読率は、72年が40パーセント代後半で、30年後も40パーセント代をキープしている。40歳以下の新聞講読率は20年前から20数パーセント。
新聞協会の調査報告書「全国メディア接触・評価調査」で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット各メディアの世代別の接触頻度や接触時間などがわかる。
●アメリカ新聞協会も、そのサイトで新聞読者の詳細なデータを提供している。
●「2ちゃんねる」には週刊アスキーのスレッドがある。雑誌を読まなければ書き込めないし、何を言っているのかわからないわけだから、こうした「ネット・コミュニティ」があるのはメディアにとって明らかにプラスだ。アメリカの新聞関係者がネットの重要性を説くのはもっともだろう。とはいえ、本誌のライターとしては、ときにぼろくそに言われて気分悪かったりするけど(笑)。
●18歳から29歳までの層で新聞を毎日読んでいるのは16パーセントと発表している「アメリカン・ジャーナリスト・レヴュー」2001年3月号

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.366)

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コメント

ある種の権益構造を確立している新聞システム。
新聞勧誘撲滅を打ち出すのはそう遠くない未来なのかもしれませんね。

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