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2004.12.24

「2ちゃんねるの時代は終わった」

若手の研究者たちが「2ちゃんねるの終焉」を宣告。
情報社会を読み解く研究会が開かれ、
知的刺激に富んだ長大な記録が公開され始めた

●ネットの圧力団体化

「2ちゃんねるの時代は終わった」──勝手に終わらされてしまった「2ちゃんねる」からいかにも反発を買いそうな議論が、東京・六本木にある国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの研究会でされている。
 研究会の司会を務めているのは、オタクから現代思想まで鋭い論考を発表している東浩紀氏。この研究会をオーガナイズしたのも東氏のようだ。冒頭で講演している鈴木謙介氏は、人気社会学者・宮台真司都立大助教授の「弟子」だそうで、師匠のホームページ管理もしていたぐらいでネットの知識も、また思想面の武装もばっちりのようだ。この研究会には、ほかにも20代、30代の気鋭の学者、有名ブロッガー、ネットの専門家などがそろっている。ムカッときた「2ちゃんねらー」もおいそれとは攻撃しにくいだろう。
 この一年、日本のネットでもっとも注目された事件をひとつ選ぶとすれば、イラク邦人人質事件をめぐる「2ちゃんねる」などの掲示板の反応だろう。
 「電車男」とか長崎の女子小学生殺人事件とか、ウェブを舞台にした出来事はほかにもいろいろあったけど、この人質事件は、ネットとメディア、それにメディア操作をしたい人々の声が反響しあい、ネットの右傾化と総称されるような、ここ何年かのトレンドを象徴する事件だった。
 本欄でもとりあげたところ、当の2ちゃんねるでもかなりの反発やら反響やらを呼んだようだが、メディアや研究者からもいろいろな反応があり、こうした傾向に衝撃を受けている人がじつはかなり多いらしいことが感じられた。
 アメリカなどのネットにはリベラル派が多い。韓国でも、インターネットは保守的なマスコミに対抗するメディアと見られている。「ネットの右傾化」は、日本の特徴的な現象ともいえるわけだ。何でこうなのかと学者やマスコミが不思議に思うのは当然だろう。
 ただ、この謎はそんなに理解不能のものではないように思う。社会全体が保守化しているばかりか、右っぽいことをいう評論家や政治家のほうがはるかに勇ましくて格好いい。さらに左とされるメディアや評論家たちが、北朝鮮への対応などで見当違いのことを言ってきたことも誰の目にもはっきりしてしまった。だから、ネットに集まる若い人々が右っぽくなるのはいわば当然だろう。

●サイバーカスケードの威力

 研究会冒頭の鈴木謙介氏による講演でもイラク人質事件について触れられ、「ネット上の集合行動的現象」が注目されていると言う。鈴木氏によれば、2ちゃんねるは、イラクの人質をたたいたかと思えば北朝鮮の拉致被害者家族をたたくといったぐあいで、「政治的主張が一貫しているとはとても言いがたい」。そう述べたうえでアメリカの憲法学者の「サイバーカスケード」という概念を持ち出している。カスケードというのは滝のことだが、酵素などの働きによって生体信号が増幅され
る過程も指す。サイバーカスケードは「ひとりひとりの小さな疑問の声がネットを通じて増幅され、全体として大きな力になる」現象であり、「現在のネットを席巻しているのは、右か左かという政治的立場と連動した“ナショナリズム”というよりもむしろ、感情的なフックを引き金として噴き上がる“ポピュリズム”」だと説明する。思想的な背景のある行動というよりも情緒的な圧力行動だということなのだろう。
 非常勤で行っている大学の授業で、メディア・リテラシーについてとりあげ、「マスコミの言うことを信じずに自分の頭で考えましょう」みたいなトロいことを言った教師(私のことです)に対して、「ぼくらの時代のメディア・リテラシーはいかに多数派を作るかということだ」というレポートをぬけぬけと出した学生がいた。いかに多数派を作るかを直感的にかぎとり、サイバーカスケードを確信犯的に煽動する「2ちゃんねらー」というのはたしかにいそうだ。
 ただし、鈴木氏は、こうしたサイバーカスケードがいつも否定的なものとはかぎらず、新潟の地震のときなどには『はてなダイアリー』のキーワードシステムや2ちゃんねるを駆使する形で救援活動が展開されたと言う。そして、ネットでのこうした思い思いの行動をどう評価するかによってさまざまな立場が生まれてくる、と分析している。
 この講演をうけて始まる討論が「『2ちゃんねるの時代』の終焉をめぐって」。
 オタク文化考察サイト『ARTIFACT』のブロッガー、加野瀬未友氏はこれまでのネットの流れをふり返り、次のように言っている。日本でもパソコン通信の時代にはリベラルな考えの人が多かったが、「2ちゃんねるみたいな匿名性になることでずいぶんと風景が変わってしまった」。そして、「右系のブログというのはちょっと少ないかなという印象がある」と述べている。
 実際、イラクの人質事件のときなど、人質たたきをしている掲示板と、そうした反応にとまどったり反発したりしているウェブログの対比はかなり鮮明だったように思う。
 ネット上にウェブ・サイトという「自分の空間」を持ち、仮想的にでも「人格」を持つようになると発言の仕方が変わるということは確実にあるだろう。ネットの読み書き能力とその人の考え方は関係している──もっとはっきり言うと、読み書き能力のある人にはリベラルな考えの持ち主が多い‥‥などと断言するといかにも反発を買いそうだが、さしあたり誰もがネットで発信しているというわけではない状況では関係があるのではないか。鈴木氏は、「インテリ右翼はブログで見かけるけれど、2ちゃんねる的な差別的ブログというのはなかなかない」と言っている。仮想的にでも人格を持つとミもフタもない言い方はしなくなる場合が多いということは少なくとも言えるのではないか。

●インパクトが低下した2ちゃんねる

 さて、2ちゃんねるはどうして「もう終わり」なのか。
 加野瀬氏は、「以前は本当に匿名のほうが強くて、たとえば個人サイトの管理人が2ちゃんねるに対して何か言うというのはすごく危険なことだという認識があった」。しかし、いまはそこまでの感覚はないと言う。2ちゃんねる全体の規模が巨大化し、2ちゃんねるにリンクされても平均で100人来るか来ないかのレベルだそうだ。その一方、個人ニュース・サイトとかにリンクされると1万を超えるという。東氏も、「日本で2ちゃんねるが一番強かった時期というのは2、3年前という印象がある」と言い、さらに2ちゃんねるについての論考がある北田暁大東大助教授も『電車男』を見て、「もう最期だな」と思ったと述べている。電車男は、「2ちゃんねるでなくともできることだし、実際に他のところでも似たようなことはこれからも起こってくるでしょう。それを考えるときに、2ちゃんねるはある意味で『使命』を終えたな」とまで言っている。リアルタイムのニュースについて反応するニュース速報板のようなスレッドではなくて、「純愛」で2ちゃんねるが注目されるようになってしまい、「もう終わった」ということのようだ。
 こうして若手知識人によって2ちゃんねるは、2004年秋に引導を渡され終わらされてしまった、ということになるのかもしれない。この討論のなかでも言われているように、マスコミ的に2ちゃんねるのパワーが注目されるようになったときにはすでにその威力がかなり落ちているということはありそうだ。
 この討論はさらに、社会的でも反社会的でもなく、「脱社会的」になっている社会のありようについて議論されるなど興味深いものになっている。この研究会はまだ第1回の議事録が公開されたばかりだが、今後1年以上10数回にわたって続けられる。準備にもかなりの時間をかけたそうで、情報社会についての新鮮な議論が期待できそうだ。

   *

 この議事録を読んで、ひとつ奇妙な感じがしたのは、参加者の多くが「自分は保守派だ」と言っていることだ。「行き当たりばったり」の自由主義に対して、価値のありかを定めてそれを守ろうとするのが保守派ということらしいが、「保守化」を議論している人たちが自分も保守と言い始めるのを目にすると、やっぱりいま格好いいのは保守派のほうなんだという感じがあらためて濃厚にしてくる。

●関連サイト
 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(通称グロコム)「情報社会の倫理と設計についての学際的研究」。このプロジェクトは、人文的な側面から検討する研究会と、システム設計をする研究会が交互に開かれ、議事録が公開されていく。いわゆる「学者」でないメンバーも入っており、ネットで力を持った個人と連携することも目指しているという。おもしろいことにこの議事録は「はてな」のシステムでアップされ、キーワードなどのリンクが張りめぐらされている。
●「情報社会の倫理と設計についての学際的研究」プロジェクト総合ディレクター、東浩紀・国際大学GLOCOM主幹研究員(教授)のウェブログ。東氏は、ネットを使って「波状言論」という雑誌を発行したりもしている。
●プロジェクトの倫理研究会モデレーター、鈴木謙介・国際大学GLOCOM研究員のウェブログ。鈴木氏は、2002年の『暴走するインターネット』に続いて、今年、宮台真司氏などと共著で『21世紀の現実』を刊行した。ウェブログの名前は「SOUL for SALE」。「売り出し中の魂」ということだろうか。注目株の論者だが、「魂」を買ってみる? ディレクトリをひとつ遡ってルート・ページを覗いてみることをお薦めしておく。
オタク文化考察サイト『ARTIFACT(人工事実)』。研究会メンバーの加野瀬未友氏のウェブログ。「最前線のブロッガー」の参加で議論は一段とアクチュアルに‥‥

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.367)

追記(12月26日)
 2ちゃんねるなどの掲示板にリンクされたので、そこからのアクセスが多かったけど、あれこれ言う前に、オリジナルの討議の記録を読もう! オリジナルは雑誌掲載で誌面の制約があったので、当然だけど論旨はかなりはしょっています。このエントリのタイトルで共同討議第一部のタイトルの意味内容でもある「2ちゃんねるの時代が終わった」というのはキャッチーなコピーで(タイトルというのはそういうものでしょう)、もっと精緻な議論がなされています。また、「2ちゃんねるがなくなるんだ」と勘違いしちゃった人もいるみたいだけど、そんなことはもちろんありません。比喩的な意味で、「2ちゃんねるの時代が終わった」ということです。
 もうひと言だけ付け加えておけば、筆者は、「2ちゃんねるをつぶせ」とか言いたいわけではなくて、2ちゃんねるも含めたネットでの出来事をかなり興味を持って見ているといったほうが近いです。
 以上、余計なことだけど付け足しておきます。

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