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2004.12.31

今年のベスト・ウェブログ

日本のウェブログの数は数十万ともいわれているが、
今年のベスト・ブログを選ぶとすれば、
話題性からいっても、このサイトだろう

●超人気ブログの人気の秘密

 オールバックの髪型の経済人・木村剛氏のウェブログ『週刊!木村剛(ゴーログ)』は3号ほど前にとりあげたばかりだが、考えてみれば見るほどこのウェブログはよくできている。書いている内容はときにすばらしいときもあるが、もちろんいつもというわけではない。同じレベルぐらいのウェブログはいくらもあるだろう。何がよくできているのかというと、このウェブログの仕組みである。
 日本のウェブログは日々自分のしたことや考えたことを書き連ねたものが多いが、もともとウェブログは、ニュースサイトの記事やほかのウェブログにリンクしながら自分の意見を書きこむツールとして発達してきた。木村氏のウェブログはそうした本来の機能に忠実で、自分の意見を書くだけでなく、いまおもしろいウェブログにリンクを張って紹介し、それらのサイトで議論になっている争点をクローズアップしている。さらに前々回とりあげたように、「新潟地震でマスコミが傍若無人なふるまいをしている」などと、ウェブログで争点となりうるテーマをときに挑発的な文章によって提供し、ウェブログ間での論争を引き起こしている。
 簡単に作り更新できるウェブログは増える一方だが、おもしろいウェブログに行き当たるのには時間がかかる。木村氏のサイトに行けばつねに何かしら論争めいたものが起こっており、その議論に興味があればリンクをたどってあちこちのウェブログに行けばいい。あるテーマについて議論しているウェブログのコミュニティを発見することができるわけだ。
 つまり木村氏のウェブログは、ウェブをたどる新たな方法を実践しているといってもいいかもしれない。ウェブログのジャンル別リストや新しく更新されたウェブログ一覧、あるいはウェブログ検索といったいわゆる「ブログ・ポータル」と呼ばれるサイトはあるし、論争をふっかけるサイトも以前からあった。しかし、木村氏のウェブログのように、アクチュアルなテーマにしたがってウェブログ群に働きかけ、まとめる機能を果たしてきたわけではない。木村氏のサイトはウェブログについてのウェブログであり、ウェブログのガイドであると同時に、ウェブログ間に論争的なテーマを設定してコミュニティを盛り上げる司会役も果たしている。
 いまでは読む人が少なくなってしまった論壇誌みたないものも、じつはアナログの世界でそうしたことをやってきた。あちこちで書いたりしゃべったりしている人たちを集めてひとつの雑誌の特集にし、争点をクローズアップしてわかりやすく読者に提供した。木村氏のやっていることはまさにネット上のそれだ。ただし、木村氏は、ニュートラルな雑誌の編集者ではなくて、自分が前面に出ていってしゃべりまくり書きまくる。さらに、音頭を取って設立した銀行が不穏なムードになれば、渦中の人として話題を振りまくことにまでなった。これはまあ計算外の出来事だろうが、ともかく注目度はいやがおうでも上がる。
 木村氏は「スター誕生」をねらっているとも書いていた。『月刊!木村剛』と名づけた紙の雑誌を発行し、「ブロガーがカミングアウトして実社会で大活躍する」流れを作る野望を持っているという。まさに編集者とかスカウトマンの役割を果たすつもりもあるようだ。
 11月の再編までは、木村氏の興味に沿って社会派の内容が多かった。誰もがこうしたことに関心を持ち、書けるわけではないが、違うジャンルの出来事についても同じようなことはできるだろう。たとえば、料理好きの人たちのウェブログに目配りして、「あのウェブログでこんなことを言っている」などとあるテーマをクローズアップしてウェブログ群を活性化するといったことが考えられる。ジャンルは映画や音楽、コンピューター、何でもいい。
 もちろんある程度アクセスが集まり、何らかのカリスマ性があるウェブログでなければこうしたハブ的機能を果たすことはできないだろ。また、、そのウェブログの作者に、ほかのウェブログを積極的に紹介し引き立てるサービス精神があることも必要だ。しかし、さまざまなジャンルでこうした条件を満たすウェブログは生まれてきそうだ。司会役のウェブログを中心にウェブログ群がコミュニティのようになっていき、そのコミュニティを目当てにさらに人が集まる。実際、当の木村氏のサイトでも、11月末の再編成で、ワインや装身具などについて詳しいメンバーを加えて、これまでよりソフトな面を強化している。

●超人気ブログの巧妙な仕組み

 木村剛氏は元日銀マンだが、原稿の執筆活動も長いそうで、ペンネームの時代を含めると15年以上になるという。しかし、ネットワーカーとしての活動はほんの少しだけだったというから、この仕組みを木村氏が独力で考えたとも思えない。こうしたウェブログを作った功績は誰のものなのだろうか。
 そもそも木村氏のこのウェブログは、ニフティのウェブログ・サービス「ココログ」の普及活動の一環としてニフティ側の働きかけによって原稿依頼のような形で始まったもののようだ。ココログのガイドページのインタヴューで、木村氏は当初「連載がまたひとつ増えるのか」程度に考えていたと言っている。11月末にウェブログを再編したときにも、ニフティから「期日までは(内容を)秘密にしろ」と言われたとも書いている。構成についても、ニフティ側の意向を反映しているのだろう。このウェブログが卓抜なものになっているのは、ニフティ、あるいはニフティに依頼されたウェブ・コンテンツ制作会社のスタッフに優秀な人間がいたためなのかもしれない。そのうえで、ウェブログはダイレクトな読者の反応を知ることができると気づいた木村氏が、依頼側の予想を超えておもしろがり、ほかの仕事に支障が出かねないぐらいに頻繁に更新し、しかもほかのウェブロガーを巻き込むのがうまかった──これが成功の理由だろう。ニフティ側としても、原稿依頼のさいに想定していた「有名人のウェブログのひとつ」という役割を超えて司会役までやってくれるというのは、ウェブログを活性化するうえでありがたいことだったにちがいない。
 巧妙なのは、木村氏がとりあげるウェブログは原則として木村氏のサイトにトラックバックしたものに限っていることだ。トラックバックというのは相手のサイトにリンクを張ったことを知らせ、自分のサイトへのリンクを残す仕組みである。木村氏のウェブログをとりあげてトラックバックすれば、多くの人がリンクをたどってアクセスしてくれる。まして木村氏に取り上げられればいよいよアクセスは増える。木村氏のウェブログはココログのトップページに写真入りで掲げられており、氏の知名度と相まってアクセスは多い。
 一方、木村氏のウェブログのほうも、あちこちのウェブログで取り上げられれば話題になって、ますます人気が出る。一見、投稿で誌面がにぎわい、投稿者が購入してくれる投稿雑誌のような仕組みだが、「投稿者」も投稿【ルビ:トラックバック】された木村氏のサイトも相乗効果をあげて雪だるま式にアクセスが増えていくという点で、投稿雑誌よりもはるかにうまい仕掛けである。
 「Blog of the Year」、今年のベスト・ウェブログをひとつ選ぶとすればこのサイトだろう。誰かが思いつきそうなことで似たようなことをやっているサイトはあるが、まさにこうしたことを意識的にやって成功させた功績は大きい。同じような仕掛けのサイトがあとに続く可能性を切り開いた。
 今年は日本でウェブログ・ブームが起きたウェブログ元年ともいうべき年だったが、ウェブログ群の中核に位置してウェブログの結びつきを強化し、コミュニティのようなものを出現させる、このようなサイトまで出てきた。来年もウェブログはさらにパワーをつけて広まっていくにちがいない。

関連サイト
●「Blog of the Year」に値する木村剛氏のウェブログ『週刊!木村剛(通称ゴーログ)』。トラックバックによる「ウェブログ・コミュニティ」の可能性を示した。ブロガーたちが集まって選んだ「勝手にブログ of the year 2004!」でも、このサイトと右頁下の切り込み隊長のウェブログが(セットで)大賞だったらしい。コメントは受け付けず、トラックバックによる意見のみというのも、理の通ったやり方だ。ウェブログを作れば、匿名でもデジタル空間内の「人格」を持つわけで、何の責任もともなわない匿名の書き手ではなくなる。「一定期間継続しているウェブログを持っていること」を参加の条件にするサービスなどというのもそのうち出てくるかもしれない。
 「切り込み隊長」との「斬り合い」で、木村氏自身も引き合いに出していたけれど、私が読んだ範囲でも、『週刊!木村剛』のベスト・コラムは、5月13日の「モノ書きの老婆心:「匿名性」を護るために」だ。2ちゃんねるの匿名性がいかにはかない構造で成り立っているかを辛辣に書きつけたこの日のエントリは出色。
●「論争系ウェブログ」のもう一つの核は、“超有名ブロガー”『切込隊長ブログ~俺様キングダム』。京都のネットベンチャー「ドリコム」による昨年の「ベストブログ」はこのサイト。その名の通り、理屈っぽいウェブログに片端から切り込んでいる。膨大な量のウェブログがすさまじい勢いで書かれていく様子は圧巻だが、木村氏が筆頭株主の日本振興銀行をめぐる騒動では真偽不明のインタヴューを突然アップし、よくもわるくも「ネットの怪しさ」を象徴的にのぞかせた。仮想的な斬り合いだけでなく、いまや木村氏と裁判になりかねない騒ぎに。
●「インターネットで読み解く」というコラムをネットで長く書いている新聞記者・団藤保晴氏も「ブログ時評」を始めた。さっそく右の切り込み隊長と「斬り合い」になった。まあ、どの人も血の気の多いこと‥‥。
●ブログ検索もいろいろなものが出てきている。これは、gooの「ニューストレンドランキング」。ブログからのリンク数が多い順にサイトを並べ30分ごとに更新している。ブログでいまどういったニュースが話題になっているか、ひと目でわかる。

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.368)

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