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2004.12.10

自分の声でしゃべりはじめた企業内ジャーナリストたち

新聞関係者のウェブログが増えてきて、
そうしたウェブログ間で議論が繰り広げられている。
ウェブログはマスメディアに何をもたらすのか

●木村剛氏の「マスゴミ」批判

 ここ1か月ほど、あちこちのマスコミ関係者のウェブログを巻き込んで活発な議論が行なわれていた。今年できたウェブログが多く、以前からあちこちで散発的に火花は上がっていたが、この論争をたどるには10月30日の木村剛氏のウェブログ「これが新潟県中越地震の真実だ!」あたりを出発点にするのがとりあえずわかりやすいかもしれない。

 木村剛氏はテレビの討論番組などでお馴染みのオールバックの髪型の経済人だが、今年の2月から「週刊!木村剛」という人気ウェブログを作っている。もともとはその名の通り「週刊」で、定期的な更新は金曜のみで、そのほかの日は不定期更新のはずだったが、いつのまにかほぼ日刊、スタッフの原稿も入れれば日刊以上の速いペースで更新されている。
 毎週土曜日には、その週の注目のウェブログをとりあげることになっていて、10月30日には、ほかのサイトの記事を紹介しながら、マスコミが新潟で被災者の迷惑を顧みない厚かましい取材活動をしているという話をいささか刺激的な先のタイトルのもとにとりあげた。木村氏は、自分も報道被害にあった経験があり、現在もさまざまな憶測による報道の渦中にあるそうで、「『週刊!木村剛』をマスゴミに対するブログ軍団の橋頭堡にしたいという仄かな野望を持っている」とも書いている。かねてからマスコミのあり方には苦い思いを持っていたようだ。
 その記事にたいしてほかのウェブログから「物言い」がついた。木村氏が引用した被災地の情報はもともと「2チャンネル」にあったもので、その真偽は確かなのかと現役の新聞記者のウェブログがかみついた。また当初木村氏が日付などを省いてほかのサイトの記事を引用したために、実際には被災地で足りているものが新たに送られてしまうという批判も起きたりした。
 木村氏は、ウェブログの記述について直すべき点は直したうえで、次のように強い調子で反論した。メディアは「殴るほうには慣れていても、公の場で殴られたことなど一度もない」から、すぐに過剰反応する。「ちょっとでも攻撃されたとなると、『そのニュースソースは怪しい』とか『正しいかどうか確認できない』などと反撃する」と述べた。それに対しても激しい反発が起こり、とても追い切れないぐらいにあちこちのウェブログに飛び火(トラックバック)して、何ともにぎやかなことになった。

●風前のともし火の記者ブログ?

 この議論はその後、あちこちのウェブログを巻きこんで、たとえば下段の通信社勤務の湯川鶴章氏のウェブログ等で「日本でネットとリアルの社会が分断されている理由」などの議論に発展していった。
 ウェブログをやっているマスコミ人たちは、いうまでもなく「ウェブログをやってはいけない」などと思ってはいない。しかし、会社の業務を離れて自分の意見や取材内容を書きつけることを快く思わないお偉いさんたちが業界や社内にいることは容易に想像される。実際にすでに、ホームページを作ったことが問題になり、会社から解雇されて裁判にまでなったケースも出ている。ウェブログを作ったことが発覚してクビになったジャーナリストはウェブログ先進国のアメリカにもいるようだ。
 マスコミにいるジャーナリストはどのようなスタンスでウェブログを立ち上げるべきかという議論も新聞関係者のウェブログでされている。所属メディア名を伏せて匿名でやればいいといった提案もされているが、匿名ではやはりインパクトは落ち、文章の信用度は低下する。メディア企業に属しながらウェブログを続けるためにはさしあたり仕方がないことだとしても、とてもベストの答えとは言えないだろう。
 会社からすれば、「自分たちが払った給料で取材しておきながら、会社の貴重な財産である情報を勝手に明かすなんて」とか「メディア名を名乗ってウェブログをやれば、会社の意見と思われて信用問題にもかかわる」などと文句のひと言もいいたいところなのだろう。
 とはいえ、マスコミはもはやそんな建前論的なことを言っていられる状況なのだろうか。
 木村氏のように報道被害にあったかどうかにかかわらず、一般の人からも、おおかたのマスコミ関係者が思う以上にマスコミは嫌われている。なぜ嫌われているのかははっきりしている。マスコミがカサに着て好き勝手なことをやっていると、いまや「ふつうの人」でも思っている。松本サリンの事件であらぬ疑いをかけられて深刻な報道被害にあった河野義行さんの事例などもよく知られているから、「いずれは我が身かも」という危機感さえ多くの人が持っている。
 その一方、言論の自由が危ういと身に染みて思っている人は少ない。マスコミが自分たちの商売のためではなく、国民の「知る権利」を守るために戦ってくれているなどと素朴なことを思っている人は(残念ながら)ほとんどいないだろう。マスコミがそうした努力をいかにしているかということも(もししているのだとしても)さっぱり伝わってはこない。われわれが身近に感じるのは「迷惑な存在」としてのマスコミのほうである。つまり、マスコミは「言論の自由の守護神」である以上に、「過剰報道の加害者」と見られている。

●ウェブログは「マスゴミ」の最終兵器

 ちょっと考えてみればすぐわかることだけど、これは恐るべき事態である。たとえばもし誰か悪意を持った人間が、「言論の自由というのはあなたのプライバシーを侵害することにほかならない」というプロパガンダを巧妙にやったら、多くの人はそれに乗ってしまう可能性があることを意味している。権力を持っている人々のメディア操作は年々巧みになっている。好き勝手に言われ放題の受け身の取材対象にとどまっているわけではなく、さまざまな形でメディアに働きかけ、自分たちの思う方向に動かそうと試みるアクティヴな存在にますますなってきている(イラクの人質事件のときに「自作自演」説が官邸サイドから流されたことは記憶に新しい)。一般の人々がメディアに厳しい視線を向けているようであれば、メディア操作はいよいよ容易になり、それこそ「言論の自由」は危うくなる。
 こうした危険性はもはや小さくないところまでマスコミは追いやられていると思う。マスコミが信頼を取り戻そうと思ったら、自分たちが何を悩み、どういったことを考えて、(たとえば)犯罪にあって悲嘆にくれる遺族からあえて写真をもらってきて載せているのか、そうしたことを社としてではなく、記者個人として書き記すことが何よりも重要だろう。自分たちのなまなましい感情や思いを表わすことなくして信頼と共感を取り戻すことはできない。そして、ウェブログは、そのためのまたとない媒体である。
 木村氏は、これまでは反撃する武器が庶民に与えられていなかったから「殴られっぱなし」で泣き寝入りするしかなかったが、今はブログという闘うための道具ができ、弱々しい一刺しであってもマスコミという強敵に一矢報いることができるようになったと書いている。ウェブログは、木村氏が言うように、一般の人々がマスコミに対して持つ武器であると同時に、マスコミも自分たちの立場をインフォーマルな形で伝え、共感を取り戻す武器になる。
 今年になってどっと増えてきたように思われる「記者ブログ」に対してメディア企業が粛正を始めるのは時間の問題‥‥というより、すでにさまざまな圧力があったことが語られ、理由不明ながら突如閉鎖されたウェブログも出てきている。メディア企業は、手間ひまも精神的な負担も大きいウェブログを拝み倒してでも記者たちにやってもらうべきなのに、自分たちのほうからわざわざ潰してしまうとは。あまりに愚かというしかない。

           *

 企業内ジャーナリストは、取材をしても誌面の都合などで発表できないことも多く、たとえ記事にできてもごく一部だけだったりして、貴重な情報が死蔵されている。記者本人も悔しいだろうし、なにより国民の「知る権利」を犠牲にしている。死蔵するぐらいなら、サイトで公開するべきだろう。次回は、ウェブログを積極的に活かそうとしているアメリカの事例を紹介しよう。


関連サイト
●木村剛氏のウェブログ『週刊!木村剛』の10月30日付「[BLOG of the Week] これが新潟県中越地震の真実だ!」。木村氏が構想を練った日本振興銀行の経営から離れる幹部が次々と出て、様々な怪文書が永田町やマスコミにバラ撒かれ、書きたい放題に書かれていると言いながら、マスコミを挑発しまくっている。
●『ネットは新聞を殺すのか』の著者、湯川鶴章氏のウェブログでは、ネットと新聞の虚々実々の関わりについて報告されていておもしろい。また、ネットによって新しい形のジャーナリズムが生まれる可能性が語られている。
●「ジャーナリズム考現学」では、記者がブログを持つ条件として、「①匿名とし、働いているメディア企業が特定されないようにする、②社内情報は公開しない、③取材上知り得た情報は公開しない、④業務時間外で、本業に差し障りが生じない程度とする」ことをあげ、「以上の点が守られれば、メディア企業が記者のウェブログを禁止する理由はないだろう」と書いている。
「ガ島通信」。地方紙記者によるブログ。自身の被災経験から、テレビやラジオ、携帯でライブのニュースを得ようとしてもまったく役にたたず、台風が去った翌朝は生活情報をチェックしようと「紙」の新聞を広げたが、被害の結果しか載っていない。被災者が必要とする情報と報道内容が食い違っていると、災害報道への意見募集をしている。

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.365)

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