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2004.11.19

アメリカ大統領選挙に勝ったのは、ビン・ラディン?

米大統領選挙はブッシュが勝利し、他国民の落胆の
ため息のなか終わった。アメリカ人は何を考えて
ブッシュに投票したのだろうか。

●誰でもできるブッシュの勝因分析

 もし世界の人々がアメリカ大統領選挙に投票できたら、ケリーの圧勝だったという世論調査やネット投票の結果が出ている。「アメリカ人はこう考えて投票したんですよ」とテレビや新聞で解説されるけど、どうも納得できない。「平均的なアメリカ人」が何をどう考えたかを表わす具体的な数字で、彼らの思考回路を見てみることにしよう。

おあつらえ向きに、こんどの選挙では詳細な出口調査が行なわれ、ネットで誰でもその結果を分析することができる。
 それを見ると、これまでメディアが言ってきたこととは少し違う事実も明らかになってくる。たとえば、こんどの選挙では、「セキュリティ・ママ」がブッシュを応援した、と言われてきた。子どもがテロにあうのではと心配し、テロとの戦いを声高に語るブッシュを支持、再選の原動力になっている‥‥メディアはまことしやかにそう語ってきた。しかし、少なくともこの出口調査からはそうした事実はうかがえない。
 MSNBCのサイトに出ている出口調査結果では、子どものいる女性とそれ以外の投票行動が対比されている。それによると、子どものいる女性でブッシュに投票したのは50パーセント。残りの49パーセントはケリーに投票している。ところが、「パパ」も含めるとブッシュへ投票した割合は59パーセントにアップする。つまり、ママよりもパパのほうがよりブッシュに投票しているのだ。
 ただし、子どもがいるいないはじつは大きな要因ではなかったようだ。男性はケリーよりブッシュに11パーセントも多く投票している。それに対し、女性は51パーセントがケリーに投票していて女性票にかぎればケリーの勝利。性別による違いが大きいのだ。さらに、子ども以前に結婚しているかどうかで投票行動が違ってきている。未婚者は6割近くがケリーに投票しているのに対し、既婚者ではこの数字が逆転し、6割近くがブッシュに投票している。結婚すると保守的になってブッシュに投票するという行動パターンがはっきりと出ている。

●アメリカ人の考える恐るべき大統領の資質

 こんどの選挙ではイラクなどについての政策よりも、道徳観、もっとはっきり言えば宗教意識が投票行動を左右したと言われるが、それはこの調査でも見てとれる。所属宗派と教会へ行く回数によって、誰に投票したが大きく変化している。ブッシュも属しアメリカの多数派であるプロテスタントで「毎週教会へ行く」という人は7割がブッシュに投票しているのに対し、教会に行かない人でブッシュを支持したのは36パーセントにすぎない。こんどの選挙は宗教戦争でもあったことが見てとれる。
 思想傾向による投票行動の違いはもっと顕著で、自分がリベラルだと思う人は86パーセントがケリーに投票し、逆に保守的だと思う人は83パーセントがブッシュ支持。
 もうひとつ歴然と関係しているのは収入で、年収1万5000ドル(約160万円)以下ではケリー支持が63パーセント、20万ドル(2100万円)以上ではブッシュ支持が63パーセント。収入が増えるにつれてブッシュ支持の割合は高くなっていく。
 よく考えると笑っている場合ではないのかもしれないが、思わず笑ってしまうのは、「大統領のもっとも重要な資質は何か」。「宗教意識」とか「強いリーダー」と答えた人は9割がブッシュに投票しているが、「知性」と答えた人でブッシュに投票したのはなんと9パーセントしかいない。たしかにブッシュはあまり利口そうにはみえない。アメリカ大統領に知性はいらないとはとても思えないが、知性が重要と答えた人はそもそも投票者全体の7パーセントしかいない。アメリカの大統領ともなれば、外国にいるわれわれも影響をうけるんだからもっとちゃんと考えてよね、と言いたくなる結果である。
 この調査結果によれば、支持者の多くが考えるブッシュの資質は、宗教心があり(91パーセント)、はっきりとした姿勢を示す(79パーセント)強いリーダーで(87パーセント)、その一方、他人について親身になって心配することはあまりなく(24パーセント)、知性もなく(9パーセント)、必要な変化をもたらすこともない(ブッシュが必要な変化をもたらすと答えた人はわずか5パーセント)ということになる。こうした性格こそが、まさにブッシュへの懸念が海外で高まっている理由なのだと思うが、皮肉ことに、アメリカではわれわれが危惧する点が大統領にふさわしいブッシュの資質と見られているようだ。

●ビン・ラディンが勝たせたかったのは誰か?

 日本では、新潟の地震やイラクでの邦人人質殺害など大きな事件が続き、あまり注目されなかったが、大統領選挙の直前、ビン・ラディンがビデオ・メッセージをカタールの放送局アルジャジーラに送ってきている。ビン・ラディンが映っている以前のビデオのように、いかにもゲリラ戦を戦っている兵士といった感じではなく、ニュース・キャスターのようにデスクの後ろで落ち着き払って、アメリカ国民に向けて「これが次の9・11を防ぐ方法だ」などと語っている。「82年にアメリカの支援のもとイスラエルがレバノンを空爆し、高層ビルが破壊され女性や子どもたちが死んだ。その情景を忘れられず、報復を思い立った」と個人的な回想をしていることもこれまでと違っている。
 このビデオ・メッセージは、投票に影響をあたえる意図で送ってきたとしか思えない。しかし、どちらの候補者のプラスになるのかはよくわからなかった。「イラクにかまけてテロの親玉を野放しにしてしまった」とブッシュを非難したケリーに有利に働くという説と、対テロを争点にしたがっていたブッシュに有利になるという相反する説があった。
 出口調査にも、このビデオの影響を見る質問が含まれている。ビン・ラディンのビデオを重要だと思った人は56パーセントで、彼らがどちらに投票したかというと、ほぼ票を分けている。どちらかが有利になったようには見えない。ただし、そう言い切っていいかは少し疑問が残る。「ビン・ラディンのビデオは重要ではない」と答えた44パーセントを見ると、ブッシュに投票した人は、ケリーに投票した人より13パーセントも多いのだ。「テロリストの手に乗るもんか。そんなビデオは重要じゃないよ」と反発した人がブッシュにより投票したともいえそうで、このビデオはブッシュに有利に働いたのではないか。
 山岳にこもっているテロリストとはとても思えないぐらいに、ビン・ラディンはさまざまの情報を得ているようで、9・11のテロに見られるようにこれまでも西欧社会の政治経済構造を逆手にとって攻撃を仕掛けてきた。このビデオ・メッセージでも、マイケル・ムーアの『華氏911』の場面を使ってブッシュを皮肉ったりもしている。このビデオの影響についてもビン・ラディンが周到な計算をせずに送ってきたはずはない。では、ビン・ラディン自身は、いったいどちらを勝たせようと思ったのか。
 他国の反発や多くの一般市民が巻き添えになることもいとわず、ブッシュは武力に訴える。ビン・ラディンがもし自分たちの延命を第一に考えるなら、ブッシュが負けてほしと思ったかもしれない。けれども、もしつねづねビン・ラディンが言っているように、イスラムと西欧文化を対立させ、さらに、国際間や当のアメリカ国内に激しい葛藤を呼び起こしたいのなら、ブッシュの勝利を歓迎するのではないか。アラーの神のために死ぬことを名誉と考える彼が、我が身大事をまず考えるとはとても思えない。世界を二分する「最終戦争」をもたらす可能性のより高い大統領の誕生を望むだろう。アメリカ大統領選挙の結果は、現実にそうした方向に一歩近づいたといえるのではないだろうか。

関連サイト
CNNのサイトの大統領選挙の出口調査結果。さまざまな質問をしていて、結果を州別に見ることもできる。大都市住民は62パーセントがケリーに投票しているのに対し、田舎に住んでいる人は58パーセントがブッシュに投票している。またニューヨーク市では、74パーセントがケリーに投票している。MSNBCのサイトにある出口調査結果は、CNNのものと質問項目や集計の出し方が少し違っている。
●出口調査を行なった「ナショナル・エレクション・プール」。前回2000年の大統領選挙では、出口調査にもとづいて誤った当確を早々に出してしまうというポカをやったアメリカのテレビ各局は、AP通信とともに新たにこのコンソーシアムを作り、調査会社に依頼した。95パーセントの確率で±4パーセントの誤差の範囲内の結果を得られるという。
●アメリカ人以外によるネット投票をした「グローバル投票2004」。ケリーが77パーセントの票を獲得して圧勝。ブッシュに投票した人は9パーセントしかいない。
●10月29日にカタールのテレビ局アルジャジーラはビン・ラディンのメッセージ・ビデオを放送し、3日後に全文を英訳してサイトに掲載した
 ビン・ラディンのビデオは、興味深いことに、戦いののろしをあげるばかりではなく、「私たちの安全を脅かさない国の安全は自動的に保証される」と和解へのメッセージともとれる言葉で締めくくっている。このビデオでビン・ラディンはこれまでより安全なところにいるように見えるが、実際はむしろ逆で、かなり追いつめられているのかもしれない。
 放送されなかった部分では、9・11のテロが経済テロであったことを明確に語り、アメリカが被る損害の100万分の一のコストで、アフガニスタンでのかつてのソ連との戦い同様アメリカが破産するまで戦い続けると言っている。また、ブッシュ政権が利権をむさぼって、結局、損をしているのはアメリカ国民だとも言い、親子二代のブッシュ政権を非難している。

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.362)

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