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2004.11.12

広告に見るアメリカ大統領選挙

アメリカを2分した大統領選挙が終わった。
広告を舞台にした戦争も、かつてない激しさだった。
選挙戦の広告を通して、その裏側を見てみよう。

●ネット広告の有効性に懐疑的だった大統領候補たち

 各陣営、政党、支援グループの選挙広告費は、前回の大統領選挙のなんと3倍。6億ドルを超え、史上最高額の広告合戦を繰り広げた。
 それに対し、ネット広告費は、その100分の1にもならなかった。ネット選挙などと言われ、ブッシュ、ケリーはともに、党大会での指名受諾スピーチで今回初めて、自分たちのサイトにアクセスするよう呼びかけたりもした。しかし、おもな候補者、政党、支援グループすべてのネット広告費は1月から8月までの8か月で266万ドル。ケリーは指名受諾演説をした7月29日1日だけで570万ドルの寄付を受けたというが、全ネット広告をあわせてもその半分にも達しなかったわけだ。いかにネット広告にお金をかけなかったかがわかる。
 調査したピュー・リサーチ・センターは、「ネット広告ならば、年齢構成や地理的な条件を考え、浮動層にたいして最適な形でピンポイントに呼びかけられるのに、これは驚くべき結果だ」と書いている。さらにこの報告書は、マスメディアを使うと費用がかかり、また有権者を見物人にしがちだが、ネットは、対話型でより多くの声を反映させることができると述べ、今回の大統領選挙ではネットを使ってボランティアを募り寄付を集め、サイトやメール、ウェブログ、ソーシャル・ネットワーキングなどによって有権者を引きこみはしたが、各組織はネット広告の有効性を確信するにはいたらなかったのだと結論づけている。
 バナー広告のクリック率は低く、広告主にとってメリットが少ないと言われるが、それでも検索連動広告の登場などもあって、アメリカの今年のネット広告は80億ドルに達すると見られている。これはテレビ広告の8分の1ほどにあたる。大統領選挙でもこれぐらいの割合でネット広告が使われてもおかしくはない、と先の報告書なども言いたいのだろう。ただ、今年の大統領選挙では、広告費をかけず、作った広告をウェブやメールなどで配布するという安上がりな宣伝戦も行なわれたようだ。

●両陣営のネット広告戦略

 テレビ広告と比べれば両陣営とも地味だったとはいえ、ケリーのほうがブッシュよりもネット広告に前向きだった。1月から8月までのブッシュのネット広告費41万ドルに対し、ケリーは3倍以上の132万ドル。これは候補者の陣営が直接使った広告費で、政党のぶんは含まれていない。8月までに民主党が26万ドルのネット広告を出したのに対し、共和党は49万ドル。ネット広告へのブッシュの支出が少ないぶん支持政党の共和党が少しだけカバーしたことになる。9月に入ってからもこの傾向は変わらなかったようだが、9月末から10月前半にかけてのテレビ討論が始まると、民主党はニュース・サイトに積極的にバナー広告を出した。討論についての論評や分析をネットで見ようという人たちを自陣営のサイトの討論ページに導いて、テレビ討論でケリーが勝ったことを印象づける作戦に出たという。アクセスしてきた人には論点を教え、ラジオのトーク番組に電話したり世論調査でケリーに有利な答えをするよう呼びかけた。
 両陣営ともネットを使って25ドルとか50ドルといった少額の寄付を募り、有権者の個人情報を集めて選挙戦略を練った点は同じだったが、ネット広告戦略ははっきりと異なっていた。ブッシュは、中流階級の女性と接戦の州の有権者に絞って広告を打った。ブッシュが広告を出したサイトのリストの上位には、デッドヒートが続いた州のメディア・サイトとともに「家族」とか「親」「グルメ」などといった言葉が入ったサイト名が並んでいる。
 一方、ケリーのネット広告は寄付を募るのがおもな目的で、78パーセントまでがそうした広告だったという。サンフランシスコ・クロニクル紙のサイトを筆頭に、ニューズウィーク、ヴィレッジ・ボイス、ロイターなど大都市のマスメディア・サイトが出広の上位に並んでいる。ケリーの支持者は東西の沿岸地域の大都市住民が多いから、こうしたサイトに広告を出して寄付を集めようとしたわけだ。
 
●品のない大統領 

 広告内容もまた違っていた。ブッシュが出した広告は対立候補をたたくものが多く、先の調査機関が調べたなかでは、ブッシュ夫人が教育政策を述べたビデオへのリンクだけがポジティヴな広告で、ほかはケリーをたたくネガティヴ広告だったという。
 ブッシュのサイトを見ても、トップページの目立つところに「ジョン・ケリーの不当なやり方」というタイトルのリンクがおかれていた。クリックすると「ケリー・メディア・センター」なるページが出てきて、その日のケリーの言動をひとつひとつたたいた(ケリーのサイトにも反論ページはできていたが、「緊急応答センター」というもっとおとなしい名前になっていた)。テレビ討論でもブッシュの攻撃的姿勢は、ケリーの比ではなかった。大統領なんだからもう少し風格があってもいいんじゃないかと思ったほどだ。
 CNNのサイトの大統領選挙特集ページにも広告コーナーがあり、それを見ると、勝負がついたと見られた州には広告費用がほとんど投じられなくなったところがかなりあった。アメリカにいても、両陣営の新しいテレビ広告を目にしない人たちもいるわけだ。しかし、『アメリカ動画博物館』というサイトにアクセスすると、日本にいるわれわれも両陣営の数多くのテレビ広告を見ることができる。そして、それを見てもブッシュ陣営の「えげつなさ」がわかる。たとえばこんな具合のテレビ広告になっている。
 冒頭でブッシュが出てきて「私はジョージ・ブッシュだ。このメッセージを私は承認している」と言ったあと、無声映画のせかせかと人やクルマが動き回る場面に変わり、次のようなナレーションが流れる。「いかれた考えを持った人々がいる。たとえば、ガソリンの税金を上げて運転させないようにしようとしている。それがジョン・ケリーである。彼は1ガロンにつき50セントの増税を支持した。もし法律化されたら、平均的な家族は年に657ドルよけいに支払わなければならなくなる」。
 こんな調子の広告が多く、続けて見るとうんざりしてくる。しかし、ブッシュ陣営のこうした広告は明確な戦略にもとづいていたらしい。このサイトの解説によると、有権者がイメージを固めるまえに、ケリーは増税と国防予算の削減に熱心で、意見をころころ変えるリベラルだと思わせてしまう作戦だったそうだ。結果的に、この戦略はあたったことになる。現職の大統領がこうしたネガティヴ・キャンペーンをやるのは珍しいが、それでも前例はあり、ベトナム戦争で泥沼に陥ったジョンソン大統領が、有権者の注意をそらそうとしてやったと説明されている。イラクで泥沼状態になっているブッシュの陣営が、同じ立場だった大統領の戦い方を参考にしたというのはいかにもありそうなことだ。
 ケリーのほうは、有権者に安心感を持たれるためにネガティヴ広告を避けてきたらしい。しかし、ブッシュ陣営の激しい非難広告をうけ、選挙戦最後になって攻撃的な姿勢を強めたという。ただ、ピュー・リサーチ・センターの調査でも指摘されていたし実際にテレビ広告を見てもわかるが、批判広告というよりも比較広告で、自分だったらこうすると対案を提示しているものも多い。音楽もソフトなものを使い、攻撃性を弱めていたりする。
 こうした広告を通してみても、現職の大統領であるブッシュの戦いぶりの異常さはわかる。この人物がまだあと4年「世界のリーダー」として君臨するとは。またまたたいへんな4年になるかもしれない。

関連サイト
『アメリカ動画博物館』では、トルーマンが再選された52年の大統領選挙から今回までのテレビ広告を見ることができる。学校現場で使われることを目的にして集められたようだ。作成した各陣営や支援グループが寄贈している。「アートスケープ」というサイトでこの博物館の概要を紹介した。
CNNのサイトの大統領選挙のコーナーでは、二人の候補者と政党、支援グループが毎週どれぐらいの広告費をかけたか州ごとにわかるようになっている。終盤になると、勝敗を分けると見られたフロリダ州やオハイオ州などに絞って多額の資金が投じられたことが見てとれる。両州の人たちはうんざりするぐらいテレビ広告を見せられたのだろう。
●アメリカの世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」のネット部門「ピュー・インターネット・アンド・アメリカン・ライフ・プロジェクト」がまとめた大統領選挙におけるネット広告についての調査報告書。このリサーチ・センターの調査はしばしば紹介されるが、石油会社を設立して財をなしたピュー一族の寄付によって運営されている調査機関だそうだ。
●ウィスコンシン大学も、広告分析のプロジェクトを立ち上げ、今年の大統領選挙について調査している。さらに、広告専門ウェブログ「daisyads.com」などの情報も役に立つ。
(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.361)

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