« スクープのはずたっだのだけど──あこぎなブッシュ・サイト | トップページ | 携帯電話と出版社によらない電子書籍 »

2004.11.05

唖然とさせられるブッシュ・サイトのアクセス制限

「外国の人々がどう思おうとかまわない」
そう言うブッシュは、海外から自陣営のサイトへの
アクセスについて不可解な行動を取っている

●謎のアクセス拒否

 アメリカ大統領選挙の投票日がやってきた。「ブッシュのサイトでも覗いてみようかな」とやってみた人たちのうちの多くはおそらく失望することになるだろう。
 なぜかって? アクセスできないからだ。げんにこの原稿を書いている私も、アメリカのプロキシ・サーバーを経由するという「裏技」を使わないかぎりアクセスできないでいる。

 ほかのサイトならいざ知らず、アメリカの現職大統領の公式サイトだ。いくらアクセスが多いといっても、資金潤沢なブッシュ陣営が十分な回線を確保できないとは思えない。同じくアクセスが殺到しているはずの対立候補のジョン・ケリーのサイトには何の問題もなく、いつでもつながる。これが当たり前だろう。大統領選挙が近づいている大事なこの時期に長期間アクセスできないなんてぽかをやったら、技術陣はたちまち首が吹っ飛ぶはずだ。
 しかし、どうもそれほど単純な話ではないようだ。ブッシュと共和党のサイトは10月19日に6時間ほどアクセスできなくなっていたとアメリカのメディアは報じている。さしあたり原因不明の事故とされ、ハッカーの仕業とは断定できないという。その後、回復したとアメリカのメディア・サイトは伝えているが、実際のところアクセスはできない。ネットで調べてみると、「ブッシュのサイトにつながらない」と文句を言っている人たちがこの「事故」の前からいることがわかった。どうやらアメリカ国外にいる人間はもっと前からアクセスできていないようだ。あちこちのウェブログ情報によれば、ヨーロッパからはアクセスできているようだが、オーストラリアや日本、中国、フィリピン、マレーシアではつながらないと言っている人たちがいる。ただし、みんながみんなつながらないわけではない。ほぼ同時刻に同じプロバイダーからアクセスしても、アクセスできる人とできない人がいるようだ。そしてブッシュのサイトにアクセスできない人は、共和党のサイトにもアクセスできていない。
 まさか反ブッシュ的な傾向の人をはじいている? 一瞬そう思わないでもなかったが、いくらなんでもそんな手間のかかることをやりはしないだろう。そんことをしても何のメリットもないはずだ。また、海外の人に見せたくない内容がサイトにあるようにも見えない。
 アメリカ国内からはアクセスできているとはいえ、文字通り世界が注目している大統領選挙戦を戦う当人のサイトにアクセスできないのだから、もっと騒ぎになっていてもいいはずだが、この件を問題にしている人はそれほど多くはないようだ。不思議ではあるが、その理由は何となく思いあたる。
 じつは私も以前から「ブッシュのサイトにはアクセスしにくいな」と思っていた。けれども、アクセスが殺到していて運悪くアクセスできないのだろうぐらいにしか考えなかった。「インターネットなんてそんなもの、アクセスできないときもあるさ」。たいていの人はそう思ったのではないか。インターネットの技術を向上させようと日々努力している人々には申し訳ないが、インターネットの現状はかなり見くびられていて、アクセスできなくても不思議はないとすぐに思ってしまう。国ごとのアクセス制限などということが現職大統領のサイトでよもや行われてるとは想像したりはしない。
 しかし、考えてみれば、潤沢な資金や技術力があってアクセスできないなんて事態は避けたいはずのサイトで長期にわたってそうしたことが起こるのは、やはりかなり不思議だ。たまたまアクセスできないのではなく、意図的にアクセスできないようにしているとしか考えられない。では何のために?

●ブッシュの過剰防衛

 ウェブログなどでのいちばんもっともらしい推測は、海外のハッカーたちがブッシュや共和党のサイトにアクセスを殺到させて接続不能にしようとしているので、先手を打って海外からのアクセスを制限している、というものだ(ブッシュ得意の先制攻撃というわけか)。
 実際、夏の共和党大会のときには、ハッカーがアクセスを殺到させる「ソフトを配布して共和党のサイトをダウンさせようとしている」などと報じられたことがあった。さらに9月20日付けのインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は、ハッカー対策として海外のいくつかのプロバイダー(ヤフーBBの名前もあがっている)から国防省の不在者投票サポート・サイトへアクセスできないようにしていると報じている。このサイトの運営者は、問い合わせに答えたメールのなかでフランスのプロバイダーの名前をあげ、ハッカー対策として政府のサイトへのアクセスを拒否していることを認めたという。
 同紙は「それは壊れたダムにバンソコを張るようなもので、すぐれたハッカーなら容易にシステムに侵入する方法を見つけられる。必要なのは、アクセスできないようにすることではなくて、サイトを守ることだ」という声を紹介しているが、もっともな話だ。このサイトが対象にしている在外アメリカ人も含めて多くの利用者がいる海外の大手プロバイダー経由のアクセスをすべて拒否してしまうというのはそうとうに荒っぽいやり方だ。この記事を紹介しているあるサイトは、ブッシュ政権に批判的な海外のメディア報道を浴びていて反ブッシュ票を投ずる可能性が高い在外アメリカ人の投票を妨害しているんじゃないかとうがった見方を紹介している。
 それはともかく、たしかに意味があるのかどうかわからない不可解なやり方だ。不在者投票サポートサイトにしてもブッシュのサイトにしても、投票権のある海外のアメリカ人のアクセスまで妨げてしまうわけで、それでもかまわないというのは常軌を逸した発想だ。

●海外軽視の発想の表れ?

 この原稿を書き始めるまですっかり忘れていたが、そもそもブッシュ陣営がこうしたアクセス制限をするのは今回が初めてではなかった。4年前の前回の大統領選挙のときにも、ブッシュのサイトはアクセスしにくかった。いうまでもなく、そのときはまだ9・11のテロもイラク戦争も起きてはいず、ブッシュは対立候補のゴアと同じく大統領候補の一人にすぎなかったわけで、ことさら海外のハッカーにねらわれる理由があったとは思えない。ブッシュのサイトがゴア以上にハッカー対策をする必要はなかったのだとすれば、いったいなぜアクセス制限をしたのか。
 さしあたり私が思いつくことはひとつだ。アクセス制限の真の理由はハッカー対策などではないのではないか。アクセスが殺到するときに万一にも国内からアクセスできない事態にならないために海外からのアクセスを制限しているのではないか。
 言うまでもないことだけど、インターネットというのはグローバルなネットワークである。アクセスしてくる人の所在地によって差別し、自国内の居住者を優先するなどというのは、インターネットの理念に反するふるまいだ。少なくとも「世界のリーダー」を自認する国の大統領がやることではないだろう。ほかの国の人々の思惑を軽視しているブッシュらしいやり方ともいえるが、もしこの推測どおりだとしたら、あざといまでに功利的で、妄想的なまでに自国中心主義的な発想に取り憑かれているとしか言いようがない。ブッシュがあと4年大統領で居続けるかどうかまもなく結果が出るわけだが、何ともとんでもない人物がアメリカ大統領になっていたことになる。

関連サイト
ジョージ・ブッシュのサイト。海外からのアクセスは制限されているようで、日本からはアクセスできない。ただし、アメリカのプロキシを経由すればあっさりアクセスできる。そのためプロキシの設定などは、『CyberSyndrome』の「プロキシサーバ入門」がわかりやすい。サイトが表示されることもあるのは、ブッシュのサイトをキャッシュしているネット上のどこかのサーバーにたまたまアクセスできたからではないか。
●「ヤフーBBなど海外のプロバイダーからアメリカ国防総省の管轄下のサイトへのアクセスが拒否されている」と報じた9月20日の「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」紙
●ベンチャー・キャピタル「ネオテニー」の社長・伊藤穣一氏の英文ウェブログで、ブッシュのサイトなどにアクセスできないことが8月末に話題になっていた。このほか6月に「Blog From Another Dimension」というウェブログでもこの件が取り上げられている。いずれのウェブログにも各国のアクセス状況を知らせるメッセージが寄せられている。
●イギリスのネット企業のサイトが、ブッシュのサイトは他国からのアクセス拒否を認めたと書いている。この前々日の記事がメディアが報道し始めたきっかけになったようだ。ここでは、分散的なコンテンツ配信をAkamaiに変えたことがきっかけになったように書かれているが、上のウェブログや私の体験から見ても、もっと前からアクセス制限が行なわれていたことは確かだと思う。
(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.360)

« スクープのはずたっだのだけど──あこぎなブッシュ・サイト | トップページ | 携帯電話と出版社によらない電子書籍 »

アメリカ大統領選挙」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/1864934

この記事へのトラックバック一覧です: 唖然とさせられるブッシュ・サイトのアクセス制限:

» [IR]歌田明弘『地球村の事件簿』ウェブページ復活!! [naowの日記]
歌田さんのウェブページが復活した。バックナンバーを随時載せていくということだが、もう本か週刊アスキーでしか読めないと思っていたのでうれしい限り。ウェブページ(... [続きを読む]

» こんなポスター貼っていたら、ちょっと危ないかな??(オレゴン発) [絶対あきらめない英語コラム 編集前記(アメリカ オレゴン州 ポートランド市より毎日配信)]
先日、あるアパートの駐車場で撮った写真です。  この様なポスターを付けた車、あまり日本では見ませんよね!!  やっぱりここは、アメリカですね!!! 絶対... [続きを読む]

« スクープのはずたっだのだけど──あこぎなブッシュ・サイト | トップページ | 携帯電話と出版社によらない電子書籍 »

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31