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2004.10.29

「そんなものを着るより裸のほうがまし」

去年の春、裸のほうがましとベネトンの
ボイコット運動をした評判の消費者団体が、
ICタグをめぐって繰り広げる戦いの顛末

●裸でいるか、それとも居場所を探知し続けられるか

「毛皮を着るより裸のほうがいい」と言ってヌードのデモをやったのは動物愛護団体だが、去年の春にはこのキャッチフレーズでベネトンのボイコット運動が起こった。オランダを拠点とする世界的な電機メーカー、フィリップスのICタグをベネトンが服につけて売ろうとしていることがわかり、消費者団体の猛反発をまねいたのだ。

 スーパーマーケットなどの大規模小売りチェーンがこぞって導入しているメンバーズ・カードにアメリカの消費者団体が反対しているという話を前回とりあげた。この「カスピアン(CASPIAN)」という団体は、流通業が個人情報を使って顧客を差別化し、利益を最大化しようとしていると批判してきた。彼らが、より強力に個人情報を集められるICタグについても警戒するのは当然だ。この消費者団体はベネトンのボイコット・サイトを立ち上げ、トップページでこうした運動をする理由について、Q&Aの形で次のように説明している。
「問い【ゴシックに。以下同じ】 ベネトンはなぜそんなことをするのですか」
「在庫管理をしやすくするためです。離れたところからタグを読みとれます」
「問い 無効にはできないのですか」
「いいえ。‘眠らせる’ことはできますが、しかるべき装置を持っている人は誰でもいつでも再起動できます」
「問い なぜそれが困ることになるのですか」
「このタグは洋服だけでなく、さまざまな商品につけることができます。将来、あなたがどこへ行ってもICタグによってすべて記録されることになります」
「問い そんなことはSFじゃないんですか」
「いいえ。この技術は、いまはそんなことのために使われないかもしれません。しかし、将来は、そんなトラッキング技術がサポートされるでしょう」
 わからないように洋服にICタグを縫いこんでしまうというのはイメージとしてたしかに強烈だ。服に縫いつけられてしまえば、タグの機能を止めるか、それこそ裸で歩かないかぎり、タグの寿命がつきるまで行動を監視され続けるかもしれない。情報装置を持って歩くどころか、どこにでも忍ばせることができるようになってきたわれわれの社会は、超高度な監視社会のまさに瀬戸際にいる。この消費者団体の反応を一概に過敏すぎるとはいえないだろう。
 そのタグから発信しているID番号が何を意味しているかは、IDを管理しているデータベースにアクセスしなければわからないとはいえ、ごく少数の人しかアクセスできないようでは使い勝手は悪い。データベースへのアクセスを少なからぬ人に認めてしまえば、こんどはどういう形で利用されるかわからない。情報はある程度公開しないと使い物にならず、かといって公開するとこんどはコントロールがむずかしくなる。
「ベネトンに抗議のメッセージを送り商品をボイコットしよう」というカスピアンの呼びかけは反響を呼び、アメリカのメディアなどでも取り上げられた。ベネトンは、1か月もたたない4月4日、「プライバシーなどについて慎重に検討せずにマイクロチップを埋めこむようなことはしない」と声明を出さざるをえなくなった。カスピアンのサイトの説明によれば、彼らはベネトンと話し合いをもったようだ。その際にベネトンは、カスピアンのボイコットの呼びかけで起こった否定的な反応に圧倒されたと語ったという。
 カスピアンは、ベネトンの声明を歓迎しながらも、ベネトンの声明文に、「将来、[十分に検討したあかつきに]ICタグを導入する権利は放棄しない」との一文が入っていたために、警戒を緩めてはいないようだ。

●お客は潜在的な万引き犯

 ベネトンの次にカスピアンのターゲットになったのは、髭剃りメーカーのジレットだ。こちらもベネトンに劣らず、カスピアンの神経を逆なでするまずいやり方だった。ジレットは、髭剃りのパッケージの内側にICタグを付け、客が商品を取ると隠しカメラのシャッターが自動的に切られ、映像を警備員に送るシステムのテストを、テスコやウォルマートといった英米のスーパーマーケットで始めた。客がレジでお金を払うときにはもう一度撮影され、あとで二つの写真を比べてほんとうにお金を払ったかがチェックされる。また、ジレットの髭剃りを取った客の店内での移動もトラッキングできるようになっていた。
 これは、ICタグ技術の研究開発団体オートIDセンターによる「利口な商品棚(スマート・シェルフ)」と名づけられたシステムである。当時、ジレットの副社長はオートIDセンターの幹部で、センターの開発した技術を自社でテストしてみようと思ったのだろう。
 昨年夏に発覚し、カスピアンはジレットに公開質問状を送った。そして、サイトを立ち上げ、世界的な商品ボイコット運動と抗議のメッセージを送るように呼びかけた。英米のメディアも取り上げ、ジレットはすぐに、「少なくとも今後10年は一般向けの商品についてモニターしない」と発表した。カスピアンは新たな勝利を喜びながらも、ジレットが将来にわたってその技術の導入をやめることを表明するようボイコット運動は続けると言っている。
 実際のところ、ジレットのほうもこの技術の採用をあきらめたわけではなかったようだ。反対運動の起こった英米を避け、昨年末にはオーストラリアの大規模小売店でICタグ付きの髭剃りを売り始めた。シドニー・モーニング・ヘラルド紙がそう報じている。カスピアンのサイトもその記事を取り上げ、オーストラリアでのボイコット運動を呼びかけている。

●ICタグ導入のルール

 次々と商品ボイコット運動を繰り広げているカスピアンだが、ICタグの使用にはすべて反対しているのかといえば、じつはそんなことはない。カスピアンとプライバシー保護団体が中心になってICタグの使用についての見解をまとめ、40あまりの各国の消費者団体と連名で発表している。「流通段階で商品をトラッキングする業務上のメリットは尊重するが、店内や購入後にトラッキングされない個人の権利を重視してもらいたい」と言い、中立的な団体できちんと技術評価をし、ICタグを何のためにどう利用しているかなどをはっきりさせて消費者に説明すること、また、集める情報もその目的に沿ったものにかぎり、データ管理がきちんとされているかを外部の第三者機関に確認してもらうことなどを求めている。承諾なしに個人をトラッキングすることには反対する一方で、薬などが製造から調剤にいたる過程ですり替わったりせず適切に使われているかを確かめるためや、小売店に納入するまでのあいだの紛失を防ぐために商品をトラッキングしたり、ゴミの埋め立て地などで危険な物質がわかるようにICタグを付けることは認めている。ただし最後の場合などもひとつひとつの商品に個別のIDをふるのではなく、同じ商品にはまとめてひとつのIDナンバーを付けるように求めている。
 こうしたルールを模索する動きは、ICタグ推進団体のほうもやっている。「EPCグローバル」という国際組織が一般向けの製品に導入するときのガイドラインをまとめている。ガイドラインでは、ID技術を使っていることがわかるようにロゴマークなどをつけ、購入した商品のタグの機能を止める方法を消費者に教え、また集めた情報の管理はきちんとすることなどを定めている。
 消費者団体もICタグのメリットは理解しており、商品を小売店に運びこむところまでは問題が少ないようだ。しかし、商品が消費者の手に渡る段階でどうするかについてはまだ意見の開きがある。

関連サイト
●アメリカの消費者団体「スーパーマーケットのプライバシー侵害と番号化に反対する消費者」(CASPIAN)が昨年春に立ち上げたベネトン・ボイコット・サイト
●CASPIANが昨年夏に立ち上げたジレット・ボイコット・サイト
●CASPIANのICタグ反対運動のサイト。全面的に反対というのではなくて、どういうときには認められるかについても提言している。カスピアンは見解をまとめるだけでなく、ICタグの使用に関して立法化も働きかけている。
●ICタグ推進団体「EPCグローバル」が発表した一般向け製品に導入するときのガイドライン。猶予期間をおいて、来年1月からこのガイドラインを守るように求めている。
●ICタグの国際組織「オートIDラボ」の責任者のひとり村井純慶応大学教授も日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の講演「Internet2004: 面白いこと」でカスピアンの活動に触れている。この講演のビデオは、ネット上の大学「ワイド大学」のサイトで見ることができる。
(週刊アスキー「仮想報道」359回)

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