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2004.10.22

メンバーズカードはほんとうにトクなの?

恐るべしアメリカの消費者団体!
ICタグ業界を戦々恐々とさせているいま評判の
凄腕団体がメンバーズカードの仕組みを暴いている。

●商品を買って儲かるってどういうこと?

妻「トクしちゃった。これ○円も値引きしていたのよ」
夫「もともとその値段だったんだよ」
 これはうちでしょっちゅう繰り返される会話だ。「値引き」と書いてある洋服を妻は「トクをした」と喜んで買ってくる。素直に「よかったね」とでも言っていれば平和なのだが、懐疑的な夫は「ほんとに正価で売っていたことがあるのか」などと、言わなくてもいいことをつい口にしてヒンシュクを買ってしまう。
 アメリカの広告には「○ドル儲けよう!」などという言葉が大きく踊っている。こうした広告を初めて目にしたときには、クジでも付いているのかと思った。しかし、そうではない。値引きのことだった。たしかに「値引き」と書かずに「儲かる」と書いたほうがインパクトは強いが、実際はお金が出ていくわけだからインチキくさい表現だ。でも、「買う」と決めている人間には買わない選択肢はないわけで、それなら安いときに買えば「トク」とか「儲かった」ということになる‥‥というのが妻とアメリカの広告の論理だろう。「でも買わないのが一番“トク”で“儲かる”ことになるんだけどな」というのが夫の言い分というわけである。
 それはともかく、デパートからスーパーマーケットまで何か買うたびに「お店のカードをお持ちですか」と言われる。すっかりお馴染みになったこのカード会員の仕組みに異論を唱えているアメリカの組織がある。「スーパーマーケットのプライバシー侵害と番号化に反対する消費者(CASPIAN)」という団体である。よくあるプライバシーを気にする消費者団体かと思うかもしれないが、この団体がサイトで暴いているカード会員の仕組みは、感情的なプライバシー保護団体の主張を超えていてじつにおもしろい。集められた個人情報でどういったことが行なわれ、消費者がどういう立場に立たされているかを具体的な数字をあげて明かしている。
 メンバーズカードを持っていれば、安く買える。「この仕組みはとても単純なものに思えるけれど、人生において思っているほど単純なことはほとんどない」。CASPIANのメンバー、ジョン・バンダーリップはそう宣言して説明を始めている。メンバーズカードに人生まで持ち出すことはないんじゃないかという気もするが、その説明を聞くと、それだけ大上段になるのもまあわかる。
 最初にポイント・カードの存在を知ったとき、バンダーリップは、この仕組みのための費用はいったいどこから出ているんだと思ったそうだ。彼が引用している大手コンサルタント会社マッキンゼーの報告書「ご愛顧の力」によれば、大規模小売りチェーンがカードを導入するにはシステムや訓練などに3000万ドルほどの経費が必要で、その後も毎年500万ドルから1000万ドルかかるという。そして会員に2パーセントの割引をするためには、全会員から6パーセントの売上げ増があってやっとコストが出るぐらいにハードルが高いものなのだそうだ。
 結局、メンバーズカードを導入した店は正価を上げざるをえない。顧客層が似ている近隣の4つのスーパー(2つのスーパーはカードを導入し、2つは導入していない)でパスタとかクッキーなど10の商品の価格を調べてみたところ、いずれの商品についてもカード導入済みスーパーのほうが高く、導入していない店の1・5倍ほどの価格になっていたという。
 コストがかかるにもかかわらず、スーパーはなぜカードを導入するのか。
 それは顧客の消費行動を分析し分類するためなのだそうだ。実際に分析してみると、トップ30パーセントのお得意さんから利益の75パーセントが得られていることがわかるという。先のマッキンゼーの報告書でも、会員の半分は、割引のメリットを得ながら買い物を増やさず、店に利益をもたらさない「ただ乗り」の客だと書いている。会員になれと勧めておきながら「ただ乗り」とはひどい言い方だと思うが、店がほんとうに相手にすべき客は「ただ乗り」でない客、とくにトップ30パーセント。彼らの満足度を高めることが店の利益を上昇させることになる。

●利益を考えたら7割の客は捨てる

 性別や年齢、家族構成、年収などの個人情報を書いて会員登録をし、購入のたびにカードを見せれば、そうした属性の人間がどういう商品を買い、その利益率はどれぐらいで、店にとってどういう意味があるかがわかる。その結果、どういうことが起こるか。
 たとえキャンディがどんなに売れていたとしても、もしトップ30の客が買わないとわかれば売り場を縮小してしまう。彼らがベビー用品を買うのだとしたら、その売り場を拡大する。そのようにトップ30パーセントの客が喜ぶ店にしていく。つまり7割の客は買いたい商品が少なくなっていく。実際に、低所得の客は切り捨てるべきだとサイトで説いている専門家もいる。利益をもたらす客こそがいい客だというのは資本主義社会では当たり前のことかもしれないが、3割の客を相手にすればいい(つまり客の7割をないがしろにする)というのは健全な発想とは言いがたい。しかし、利益率を高めるには必要ということらしい。
 その店舗で7割(つまりわれわれの大部分)が切り捨てられたとしても、こんどは切り捨てられた人たちを相手にした店が現れるかもしれない。しかし、その店もカードを導入していれば同じようなことが起こる。そこでのトップ30に最適化された店舗が作られる。7割の7割、つまり最初の店の半分近い客は再び自分たちのほしいものが見つからなくなってはじきだされ、その人たち相手の店舗がまた作られ‥‥といったことになっていくのだろうか。どんどん利益率の低い店舗ができていくわけだが、最終的にはどこの店でもほしいものが見つからない人たちが少なからず出るにちがいない。
 メンバーズカードを導入すれば、カードのあるなしで価格が違うが、さらに上客か新会員かなどでも価格を変えていくべきだという提案もなされている。なぜそうするのかについては次のように説明されている。
「みんなに同じ給料が払われているでしょうか? どの客にも同じ価格を提示するのは、会長からウェイトレスにまで同じ給料を払うぐらいにばかげていることは明らかです。会社への経済的貢献にしたがって給料や恩典を変えているわけですから、同じ論理を店の価格や恩典にも適用すべきです」
 うーん、一見、筋が通っている気もするが、そんな世の中はやだなと多くの人は思うのではないか。しかし、銀行などはすでにそうなっているとバンダーリップは指摘している。アメリカでは銀行口座は無料ではない。無料なのは多額お金を預けている人たちだけで、それ以外の人々が決済に使う通常の口座は利子をもらうどころか、手数料をとられる。せちがらくなってきた日本の銀行でもそうした動きは出てきている。銀行は上客かどうかによって価格を変えているわけだ。
 また、00年夏に米アマゾン・コムが、アクセスしてきた人によって表示価格を変えるという「実験」をやって問題になったことがある。反発をうけアマゾンはすぐにやめて返金したが、客の細かい分類が可能になれば、利益を最大化するためにそうしたことをやりたくなるだろう。
 バンダーリップは、こうした動きに対抗するためには、メンバーズカードを導入し客を差別化している店ではなく、すべての客を平等に扱う店に行くことを勧めている。先に書いたように、メンバーズカードを導入した店の正価が高くなっているのだとしたら、メンバーズカードは、店の利益にはなっても、消費者の利益にはなっていないことになる。


関連サイト
●メンバーズカードに反対している消費者団体「スーパーマーケットのプライバシー侵害と番号化に反対する消費者(CASPIAN)」。たんなる感情的な反対ではなくて、メンバーズカードのカラクリを暴いていて、その説明には説得力がある。アメリカのスーパーマーケットのカード導入状況を調べてサイトでリストを発表し、また、導入するつもりはないと言った店舗を推薦している。
●大手コンサルタント会社マッキンゼーのメンバーズカードに関するホワイト・ペーパー「ご愛顧の力」。25-40パーセント引く安売り店と比べるとメンバーズカードは顧客にとってメリットが少なく、店側も、あらゆる客にいい顔をしようとしても失敗する、とアピールする客層を絞りこむことを勧めている。小売店に戦略を授けているわけだが、CASPIANの主張を裏書きしている。
●ネットでも会員登録しようとすると、年収などの個人情報を尋ねられる。これはニューヨークタイムズの登録画面。メディアサイトで何で年収まで訊かれるのかと思うが、個人情報をもとにいよいよ高度なデータ分析が行なわれているのだろう。

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