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2004.10.17

揺りかごから墓場までICタグ

ICタグの本格的な普及が始まっている。仮想世界と
現実世界が融合し、社会は一変する。しかし、
やってくるのは幸福な未来か監獄社会の誕生か

●アメリカで来年から本格導入

 アメリカからフェデックスという宅急便を使って頻繁に資料を送ってもらっている。送られた荷物がいまどこにあるか、日本の宅急便や郵便でもウェブ・サイトでわかるようになってきたが、フェデックスの情報はかなり細かい。どこの集配所にトラックがたどり着いた、どこそこの空港へ行ってどこまで飛び、そこから成田へ向けて飛び立って、入管手続きをしてどこそこの集配所に送られて、みたいなことがずらっと出てくる。いつも同じところから発送してもらうのだけど、飛行機の接続の関係なのか、そのときによって、あれっと思うような空港に運ばれることもある。そのとき最速になる便を選んでいるのだろう。けっこうきめ細かいことをやっている。
 こうしたサービスはかなり前からやられていた。具体的にどのようにしているのか詳細は知らないが、少なくとも当初はポイントごとにバーコードでチェックしたのだろう。荷物一つ一つについてやるのはかなりの手間のはずだ。
 しかし、こうした荷物のトラッキングをいちいちバーコードをなぞってやらなくても、無線ICタグを使ってセンサーで読みとる技術が実用化の段階になってきた。
 アメリカでは来年1月から、国防総省とウォルマートが、おもな取引業者の納入品にICタグをつけることを求め、本格的な導入が始まる。日本でも次々と実証実験がやられている。たとえばこの9月21日には、共同印刷などが岐阜県の岩村町で小学生のランドセルにタグをつけ、通学路や校門に設置したセンサーで読みとって子どもたちの登下校の状況を調べる実験を開始したりしている。またNTT西や大日本印刷も、10月から高齢者向けの福祉施設で、利用者の所在や行動を把握する実験を始めている。まさに「子どもから老人まで」ICタグのお世話になる時代がやってこようとしているわけだ。
 位置をつかむだけでなく、温度や湿度、照度を管理できる多機能なICタグなどというのも開発されている。何に使うんだろうと思うが、食品などは、温度や湿度、直射日光で品質が変わってしまう。美術品などの搬送にもこうした技術は役に立つということらしい。

●「立ち読み回数ランキング」までわかるICタグ

 ICタグの規格は2グループのものがあって、それぞれ標準化が進められていた。
 ひとつは坂村健・東大教授が中心になっている「ユビキタスIDセンター」によるものだ。トロン技術を開発した坂村教授は、「どこでもコンピューター」と名づけたユビキタス・コンピューターの時代を早くから予見したことで有名だが、デジタルID技術を使ってバーチャル世界と現実世界を結びつけ、ユビキタス・コンピューター時代を切り開こうとしている。
 もう一グループはマサチューセッツ工科大学での研究に端を発した「オートIDセンター」によるもので、日本のインターネットを立ち上げた慶応大学の村井純教授も中心メンバーの一人になって進められている。「オートIDセンター」の研究はアメリカとヨーロッパの標準化団体も後押ししている。かつてトロンがアメリカのごり押しにあって苦汁をなめたのと同じことがまた起こるのかと危惧されたが、二人の情報工学の花形教授は旧知の間柄でもあり、2つのグループで話し合い、規格に互換性を持たせて共存する方向に向かっている。
「オートIDセンター」は、昨年10月、標準化の作業や普及をする「EPCグローバル」と技術開発をする「オートIDラボ」に分かれた。「オートIDラボ」のサイトには、日本の書店の本にICタグをつけて行なわれた実験の英文レポートが載っている。それを見ると、書店内のどこにあったどの本をいつ抜き出したかなどもわかるらしい。万引きに悩む出版業界はICタグの導入にもっとも意欲を見せている業界だが、書棚からいっぺんにたくさんの本を抜き出すと、それだけで「要注意」などと書店側のコンピューターに表示される。
 さらにそれぞれの本について何回立ち読みされ、それは平均何分で、購入されるまでにどれぐらいの時間がかかったかなどもわかるという。「売れ行きランキング」はもちろんのこと、「立ち読み回数ランキング」とか「立ち読み時間平均ランキング」「購入されるまでの平均所有時間ランキング」などを出すことができる。売れない本が機械的に返品されるのではなく、立ち読みもされず、たとえ立ち読みされてもすぐに書棚に戻されてしまう本から返品するなどといった細かい在庫管理ができる。
 コンピューターの導入が遅れていた出版業界もようやく迅速な販売データの把握が可能になったが、その結果、データに頼って、売れ筋の同種の本ばかり出る傾向が強くなってきた。読者がいろいろな本を手にできるようになるためにはデータが詳しくわかればいいというものではないが、細かいデータ管理が商品の構成をどのように変えていくかは興味深い。

●カバンの中身が盗み見られる?

 こうしたICタグの技術は、プライバシーについての懸念も生んでいる。ICタグを読みとるリーダーを使えばすれちがった人のカバンの中に何があるかを盗み見れる、などといったことも起こりかねない。コードを暗号化して、正規の手続きをした人しか読めないようにすることなどが考えられているが、持っている商品が何かわからなくても、同一の信号を出しているICタグをサーチして持ち主の動きをトラッキングすることはできてしまう。暗号化したコードをさらに暗号化して何の情報も読みとれないようにする必要があるなどといった議論も「オートIDラボ」のレポートではされている。
 しかし、当然ながら、手間をかければかけるほどICタグは高価なものになっていかざるをえない。経済産業省は来年度までにICタグの単価を5円以下にする「響プロジェクト」というのを始めており、日立が受託して開発を進めているが、手厚いプライバシー保護措置をやればやるほど単価が高くなり、実用に不向きになる恐れもある。荷物の搬送ぐらいならばプライバシーは問題にならないかもしれないが、人とふれあうところで機能するタグについてはプライバシー保護措置が必要だろう。
「オートIDラボ」のレポートでは、日本人は、住基ネットのように強制的に加入され、自分たちのメリットがよくわからないものには反発するが、そうでなければけっこう寛容だと国民性を分析している。流通サイドの都合だけでなく、消費者の利益をどれほど実感させるものにできるかが普及するための必須条件だろう。

●紙のデジタル化も可能になる?

 ICタグは、ものの位置や状態がわかるということにとどまらない社会の変化をもたらすにちがいない。ICタグを使えば、電子的な装置でなくてもあらゆるものを電子的なネットワークに組みこむことができるのだ。
 大日本印刷とオムロンは、顧客リストや契約書などの重要文書にICタグをつけて管理するシステムを開発しているが、こうした技術によって紙というアナログな日常品もコンピュータ・ネットワークの管理下におくことができる。
 さらに家庭のプリンターでもICタグが印刷できるようになれば、パソコンで印刷内容とICタグを照応させる記録を自動的に残しながら一枚一枚にICタグを刷りこむなどということもできる。そうしておけば、「あの書類どこに行ったっけ?」などというときには、検索して必要な書類がどこにあるかがぱっとわかる、などといった仕組みができることになる。
 ともかくICタグをつければ、紙にかぎらず、アナログなものもすべて電子ネットワークに組みこんだユビキタス・コンピューティングの世界が生まれる。ICタグはとりあえずは「バーコードの代わり」だが、いずれはまさにデジタル世界と現実世界の融合をもたらすわけで、この技術による日常生活の変化は想像以上に大きいかもしれない。

●関連サイト
この8月にまとめられた総務省の来年度の「予算請求の概要」における「主要な項目」の説明ページ。超高速ネットワークや電子政府の実現などをめざす「e-Japan」計画を政府が進めているが、こんどはICタグを使ってユビキタスネット社会をめざす「u-Japan」を始めたいとのことで、総務省はそのための予算691億円を要求している。
●今年の春にまとめられた総務省の「ユビキタスネットワーク時代における電子タグの高度利活用に関する調査研究会」による最終報告。ICタグの規格の開発をしている二つのグループを代表する坂村健東京大学教授と村井純慶応大学教授もメンバーに加わっている。
●坂村健東大教授の提案によるICタグ技術を進めている「ユビキタスIDセンター」。「モノ」を自動認識するための基盤技術を確立し、最終的にはユビキタスコンピューティングを実現すると設立の目的を謳っている。
●マサチューセッツ工科大学や慶応大学が中心になって進めている「オートIDラボ」。とりあえずは流通段階で使われるバーコードの代わりと見られているが、IPv6やセマンティック・ウェブなどの技術と結びつけば、当然ながらそれだけでは終わらず、ユビキタスIDセンターの最終目的とも重なってくるだろう。

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