« グーグルは社会革命をめざす? | トップページ | ついにネットワーク・コンピューティングの時代が来た? »

2004.09.07

グーグルは株式公開して幸せなのだろうか?

30歳を超えたばかりの創業者たちは誰しも羨むような
大金を手にしたが、株式公開を嫌がっていたようにも
見える。いまもっともクールな会社はどこへ行く?

●グーグル・スタイル

 30歳と31歳の2人の創業者セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジはそれぞれ4000万ドル(45億円)の現金を得て億万長者の仲間入りをした。贅沢三昧の日々を送っても一生お金に困らない大金を手にしたわけだが、不思議なことに、彼らはずっと株式公開を嫌がってきた。

 グーグルという会社がいまほかのどこの会社よりも格好よく見えるのは、一貫した思想に裏打ちされた独自のスタイルを持っているからだ。こんどの株式公開のために出された資料を見ると、グーグルの収入のうち96パーセントは広告だそうで、そういう意味では広告産業といってもいいわけだが、グーグルの幹部たちは、「広告主第一」などということはけっして口にしない。検索する利用者のことを第一に考えると言い続けている。
 また、グーグルには20パーセント・ルールというのがあるそうで、グーグルのエンジニアたちは仕事の時間の20パーセントは、さしあたりやらなければならないこと以外にあてているという。そうした時間があることで、「グーグル・ニュース」と名づけられたニュース検索や、アドセンスと呼ばれるウェブ・ページの内容に応じた広告を出す仕組み、あるいは『オーカット』というソーシャル・ネットワーキング・サイトが生まれている。
 株式公開は会社をパブリックなものにする。きちんとした企業統治が行なわれるためには株を公開し、情報公開することが必要だといわれるが、会社のスタイルを維持することとはしばしば矛盾する。株価を維持するために四半期ごとの利益を確保しなければならず、株主のほうを見て仕事をしなければならなくなる。株式公開にあたってグーグルの2人の創業者は、投資家たちに向けて公開書簡を出したが、そのなかでしつこいほど、「短期的な儲けを求めるのではなく、長期的な観点から株を買ってほしい」と述べている。グーグルにかぎらず、経営者にとってはたしかにそのほうが都合がいいにちがいないが、どんな思惑で株を買うかは買うほうの自由だ。勝手なことを求めているともいえるわけだが、言わずもがなのことをあえて繰り返し求めたのも、これまでのスタイルを崩したくないからだろう。

●公開する以外の選択肢がなくなっていたグーグル

 グーグルの検索エンジンは、その検索精度の高さからアメリカでは一時8割のシェアを持つまでになり、日本でも、多くのサイトで使われるようになったが、検索の持つ意味に気づいたネット企業は独自の検索システムの開発にエネルギーを注ぐようになってきた。とりわけマイクロソフトとヤフーは、グーグルを超えようと躍起になっている。競争が激化してきたいま、へたな情報公開はライバル会社を利することになる、グーグルの幹部はそう考え、実際そう言いもし、株式公開を先延ばしにしてきた。まだ株式公開しないのかというメディアなどの問いかけに対して、「自分たちの会社は十分な資金があるので、急ぐ必要はないのだ」と幹部たちはいつも答えていた。
 とはいえ、その資金は、エンジェルと呼ばれる投資家たちから出ている。投資家たちは当然ながら株式が公開され、自分たちの投資が何倍にもなって返ってくる日を思い描いてきた。彼らの期待にいずれは応えないわけにはいかない。さらに決定的だったのは、株主やストック・オプションの所有者が一定数を超え資産が大きくなれば四半期ごとに財務情報を公開しなければならないという証券法のルールの存在だった。グーグルには株式公開する以外の選択肢は事実上なくなっており、「莫大なお金の儲かる日」が来ることを受け入れざるをえず、結局、その期限ぎりぎりに株式公開を決めたわけだ。
 しかし、ストック・オプションを行使して大金を手に入れた従業員のなかには会社を辞めて起業したり、悠々自適の暮らしを始める人もいるだろう。株式公開に踏み切ったグーグルの幹部たちは、これからが大変だと思っているにちがいない。

●グーグル式資本主義

 こうした株式公開をとおして浮かび上がってきたのは、グーグルはどうやらアメリカ型の会社経営を否定的に見ているようだということだ。
 株式公開にあたってグーグルが従来の慣行を無視してオークション方式を採用し、一般の個人投資家に公開株がまわるようにしたということは前回書いたが、株式公開にあたって彼らはほかにも独自のスタイルを打ち出している。2人の創業者が持つ株はほかの株の10倍の議決権を持つというルールにしたのだ。
 こうしたルールがあれば、グーグルは、会社を買収されたり、二人の創業者が株主総会で辞めさせられたりといったことは起きにくくなる。これについては、「株式公開する以上ふつうのルールに従うべきだ」という声も強い。とくにベンチャー・キャピタルなどにはこうしたグーグル幹部たちの主張は独善的で傲慢なものと映ったようで、ウェブログなどでも反発の声があがっている。
 しかし、グーグルの幹部にしてみれば、自分たちは長い目で見てウェブの発展に貢献する仕事をしてきたし、これからもしていきたい。株式公開ははたしてそのプラスになるだろうか、株主中心の会社経営が本当に正しいのか、そうした躊躇いと懐疑を感じているように思える。
 実際のところ、「会社は株主のもの」というアメリカ型経営は間違いと考えている経済人は少なくはない。たまたま最近アクセスした投資会社のサイトでも、アメリカ経済の最前線で活躍している日本人ベンチャー・キャピタリストが、アメリカ型経営がいかに間違っているかを熱心に語っていた。「デフタ・パートナーズ」という投資会社の会長、原田丈人氏は、株主中心の経営は短期的に株価を上げることを考え、会社が儲かっていても株価上昇のためにリストラをし続けるなど企業として問題が大きい、ストック・オプションを与えられている企業トップは自分の利益を増大させるためにそういう行動に走っていると批判している。株価を上げるためにリストラされる社員こそいい迷惑だが、ストック・オプションがもてはやされるアメリカの企業社会では現実にそうなっているのだろう。
 株式公開は会社をパブリックなものにするといっても、株主中心の会社経営がそれに見あったものであるかは疑問である。グーグルの創業者たちは、「目先の利益を犠牲にしても長期的な利益を求める」という主張を可能にするために自分たちの強権を維持する仕組みにしたわけだ。経営幹部がそうした権限を持つことははたして妥当なのか。もし妥当だとしたら、そもそも現在の会社組織は原理的にどこかおかしいのかもしれない。グーグルの独特の株式公開はそうした疑問まで突きつける。
 株式公開にあたってのグーグルの目論見書によれば、株主の議決権に差をつけているのは彼らだけではないらしい。ニューヨークタイムズやワシントンポストなどメディア企業もそうしているという。メディア企業はそのようにすることで短期的な利益に惑わされず、編集権を確固としたものにして紙面を作ることができるのだと説明している。つまり、グーグルの2人の創業者は、グーグルをメディア企業の一種のように考えているのだろう。たしかにネットの情報流通のカナメにいてそれを左右する技術を握っているグーグルのような会社は、もはやたんなる一私企業ではなく、公的な存在と言ったほうがいいのかもしれない。
 世の中の慣習にとらわれず、自分たちの頭で自分たちのルールを決めた彼らはいったいこれからどこに向かうのか。グーグルの今後がますますおもしろくなってきたことはたしかだろう。

関連サイト
●グーグルは、9月1日、ニュース検索サイト「グーグル・ニュース」の日本語版を公開した。600以上のニュース・サイトの情報を自動的に分類・編集して表示している。こうしたサイトは、グーグルが情報流通のカナメにいるメディア企業であることをいよいよ感じさせる。とはいえ、編集意図とは別に記事単位で読まれてしまうことにたいして新聞メディアからは反発もある。大手では、朝日、日経のサイトの情報はあるが、読売、毎日、産経は情報をとりこまれることを拒否したようだ。
●シリコンバレーのベンチャー・キャピタリスト梅田望夫氏は、そのウェブログでたびたびグーグルの株式公開を批判している。
●アメリカや日本をはじめIT経済の最前線で活動している投資会社デフタ・パートナーズの会長でベンチャー・キャピタリストの原丈人氏は、アメリカ型経営の誤りを主張している。グーグルの株式公開について直接言及しているわけではないが、Newsページに載っている日本の雑誌への原氏の寄稿や対談を読むと、グーグルの2人の創業者が抱く問題意識の背景がわかる(たとえば中央公論の岩井克人氏との対談)。

« グーグルは社会革命をめざす? | トップページ | ついにネットワーク・コンピューティングの時代が来た? »

グーグル」カテゴリの記事

コメント

nice blog

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/1650287

この記事へのトラックバック一覧です: グーグルは株式公開して幸せなのだろうか?:

» 従業員 経営者には コストの面も [日経を読むと世界が読める]
『グーグルどこまで強いか 上』を読む。 『検索精度に磨き 経営資源の7割投入』の見出し。グーグルについての特集記事で、 『1-6月期の売上高は26億ドル。純利益は7億1200万ドル』 『時価総額は800億ドル(約8兆8000億円)とメディア最大手のタイムワーナーと肩を並べる』と... [続きを読む]

« グーグルは社会革命をめざす? | トップページ | ついにネットワーク・コンピューティングの時代が来た? »

2014年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31