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2004.09.21

バーチャル著作物マーケット

 出版不況のもと、出版社や編集者は、削減された人員やコストで次々と本を出していかざるをえなくなった。原稿を手間ひま惜しまずいい本にしたい著者とのギャップが大きくなり、こんなことなら全部自分でやると考える著者は増えてくるだろうが、さしあたり出版社なしで本を出すのはむずかしいと前回書いた。しかし、出版社の機能のいくつかはしだいに不要になっていくかもしれないと思わせる実験を、文化庁はやっていた。

 同庁は、2003年11月から今年の1月まで「バーチャル著作物マーケット」の実証実験を行ない、この春に報告書にまとめている。6月にはウェブ・サイトでも公開した。
 このマーケットは、作品の作り手と利用希望者がネットを通してコンタクトし、作品を再利用する仕組みだ。たとえば写真家は自分の作品をマーケットに登録する。利用者は自然や建物といったそれぞれのジャンルの中からか検索によって気に入った作品を見つける。見つかれば、写真家と利用条件を交渉し、契約書をかわす。契約書は項目を選択していく形で簡単に作成できるようになっている。契約書を交わしたうえで、著作権保護措置がとられたデジタル・データをダウンロードして利用する。写真の場合は、本の装丁や雑誌・ポスターなどの印刷物、あるいはウェブ・ページに使うといった用途が考えられる。
 実験ではコンテンツは写真のみだったが、デモ・ページのフロント画面にはイラスト、CG、音楽、映像、そして小説のアイコンが並んでいる。これらも「バーチャル著作物マーケット」のコンテンツとして想定されているようだ。これらのコンテンツの場合は、写真とはまた違った手順が必要になるだろう。小説だったら、作品の一部をポスターに使いたいとか映像の原作にしたいといった需要もあるかもしれない。その場合は写真と同じでいいだろう。しかしそれよりも、こうした市場を通して一般の読者が電子データを購入し閲覧するといったことのほうが需要は大きそうだ。電子書籍の販売サイトというわけだが、それならいまの電子書籍販売サイトと同じで、新味はない。もしこのマーケットが新たな機能を果たしうるとしたら、それは、すでにデビューを果たしたプロの作家の作品よりも、まだこれからデビューしようという「作家の卵」の作品や、出版社を見つけられなかった作品を販売するようになったときだろう。
 インターネット誕生以前も表現したい人はたくさんいたが、表現媒体を見つけることは容易ではなかった。インターネットは素人が情報発信者になることを容易にしたが、その創造物をお金にする仕組みは皆無に近い。情報発信者が報酬を得てプロになっていく道筋をいかに見つけられるかはこれからのインターネットの大きな課題だろう。
 ウェブや携帯電話のコンテンツとして発表したものが評判になって出版され、プロになった作家はすでに何人もいる。いずれは紙の本にならずとも電子的な形のままで創作行為の見返りを得られる仕組みが整備される必要があるし、実際そうなっていくにちがいない。このバーチャル著作物マーケットはそうした未来を感じさせる。
 これまでの出版の世界では、自費出版というとマイナーな感じがしがちだ。自費出版の出版物が書店に出回ると本のレベルが下がってよくないといった議論まであるそうだが、ウェブではじつは「自費出版」こそが中心的な存在だ。ウェブのコンテンツの大きな可能性もそこにある。紙の本の自費出版では出版社の関与が前提になっているわけだが、バーチャル著作物マーケットのような流通システムが一般化すればそれは大きく変わるだろう。
 作家志望者が独力でプロ化していくことも可能になるこうしたマーケットを見ると、いまの電子書籍の発想の限界がはっきりと感じられる。電子書籍販売サイトにしても読書専用端末にしても、ほとんどがすでにデビューを果たし出版された作品をあつかっている。これまでの出版の枠組みで発想しているからそうなるわけだが、そうしたビジネスは、誰もが自分の作品を発表できるウェブの時代の性格とはかけ離れている。
 では、ウェブ的な出版ビジネスのあり方とはどのようなものか。「バーチャル著作物マーケットなどと言ったって、アマチュアの作品にお金を払う人はいないだろう」と思うかもしれない。けれども、ほんとうにそうだろうか、とこのところ思いはじめた。アマチュアの作品にお金を出すことで、将来何倍にもなってお金が返ってくるとしたら‥‥? しかも、その作品を読むこと自体はタダ。もしこうした仕組みができたら、いまよりはるかに多くの人が「作家の卵」の作品を読むようになるのではないか。

(出版ニュース 2004年8月下旬号)

 そうした考えについて書きました。

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