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2004.08.24

バラ色の音楽生活は近い?

大容量の携帯音楽プレーヤーを使えば、これまでと
一変する画期的な音楽配信が可能ではないか。
バラ色の音楽生活をもたらすそのアイデアを紹介する

●タダで聴かせることがミュージシャンのトクになる場合

「音楽や映像をタダで見たい」と思う。でもミュージシャンや制作者たちは、「それじゃあ自分たちは生活できない」と言う。折り合わない二つの立場を何とか折り合わせる方法はないだろうかとこのところ考えている。

 とても答えなどないだろうと思うかもしれない。しかし、どこに答えがあるか、理屈としてはじつは誰でもわかる。作品をタダで見せることがコンテンツ制作者たちのトクになればいいのだ。それならタダで見せることを納得するはずだ。問題は、それがどのような場合かということである。言うまでもないことだけど、それを見つけるのはかなりむずかしい。もし見つけられればそれは画期的なコンテンツ流通方法になる。ビジネス化に成功すれば大儲けだってできるかもしれない。私自身はもちろん「大儲け」にはちょっとは興味があるけれど、ビジネスには興味がない。けれども、いまよりもっと自由に作品を見聞きでき、(私も含めて)みんなが楽しい生活を送れればいいと思っているので、このところ何かいい方法はないだろうかとあれこれ考えている。前回書いたように、アップルのiPodやソニーの新発売のウォークマンのようにハードディスク搭載携帯デジタル音楽プレーヤーが注目されているが、こんなに大容量の携帯プレーヤーがあれば、いままでとはまったく違うコンテンツの販売方法がありうることに気が付いた。
 こうした携帯音楽プレーヤーでは大量の曲を収録できる。いつどこででもそのときどきの気分にあった好みの曲を聴くことができ、自分のいる環境を快適な個人空間に作りかえられる。この変化は小さくはないが、それでも25年前にウォークマンが切り開いた世界の延長にあるものだ。デジタルな音楽になっていて、持ち歩ける曲数はぜんぜん違うけれど、そうしたことを除けば25年前とほぼ同じである。正直なところ、25年も経ったのだから、もっと変わってもいいのではないかと思う。
 たとえば、こういうのはどうだろうか。7月末に発売されて大人気を呼んでいるアップルの「iPod mini」では最大1000曲、40ギガのiPodやソニーのハードディスク搭載ウォークマン「NW-HD1」なら1万曲以上を収録できる。年間に発売される新譜アルバムは約1万枚、シングルが2千枚、アルバム1枚に10数曲収録されているから月に1万曲ぐらい発売されている計算になる。全曲全部だと40ギガのハードディスクがいっぱいになってしまうだろうけれど、好みのジャンルの新譜全部とか、あるいは「60年代ポップス」「サマーソング特集」などという具合に同系統の曲をまとめて圧縮し、携帯音楽プレーヤーに一括ダウンロードできるようにする。
 一括ダウンロードするのはサンプルである。曲の一部だけの場合もあるし、回数制限や時間制限をして曲全体を聴けるようにしてもいい。携帯プレーヤーに入れて持ち運べるので、ユーザーは、通勤・通学の電車や、散歩や仕事中などいつどこででも聴くことができる。そして気に入ったらワンクリックしてそれを購入リストに入れる。家や職場などでネット接続したときにまとめて購入手続きをし、その後は、曲全体をいつでも聴ける仕組みである。
 携帯プレーヤーは、購入した曲の保存スペースとサンプル・ダウンロード・スペースに分かれていれば好都合だろう。購入したものは保存スペースに入り、サンプル・スペースは、次の新曲を一括ダウンロードしたとき、もしくは一定時間が経ったら消去される。そうして、サンプル配信→試聴→購入というサイクルを効率よく繰り返す。携帯プレーヤーの大容量を使いこなすのはなかなか大変だけど、こうした仕組みになっていれば、誰でもどんどんラインナップを増やしていくことができる。
 さて、コンテンツ提供側は、少なくとも曲の一部を一回はタダで聴かせることになるわけだが、はたしてそれは損だろうか。私は、損にはならず、むしろ売り上げ増につながると思う。もちろん一回だけ聴けばいいやという曲もあるだろうけれど、気に入った曲は自分の手もとにおいていつでも聴けるようにしたいと思うのがふつうだろう。リスナーがつい音楽にお金を使い過ぎてしまうのではないかとそちらのほうが心配なぐらいだ。毎年大幅に売り上げが落ちていき悲鳴を上げている音楽会社にとっては願ってもない事態になると思う。コンテンツを売る側にとってもタダで聴かせることがトクになることが、じつはこのようにあるわけだ。
 ‥‥と、さも大発見のように書いたが、これは何も特別のことではない。実際のところ、音楽会社はいまでもタダで曲を聴かせている。CDショップやサイトで試聴させているし、CMはもちろん、ラジオの音楽番組では、音楽会社は流されるのを断わるどころか曲をかけてほしいとラジオ局に働きかけている。しかし、ラジオでもCMでも、リスナーはワンクリックで購入リストに入れることはできない。この方式ではそれができるのだから、きわめて強力な広告である。しかも、消費者はヒマさえあれば聴きまくって購入リストを増やしてくれるわけだから、こんなにありがたいことはないはずだ。
 リスナーのほうも、いつどこででも大量の音楽サンプルを持ち歩き、自分の好みのジャンルの音楽を片端から聴き、大容量の携帯音楽プレーヤーに保存する曲のラインナップを増やしていくことができるわけだから、楽しくないはずはない。

●新曲聴き放題の楽しい生活

 音楽でも映画でも本でも、売り上げが落ちて困っているコンテンツ業界の大きな問題は、新人がデビューしにくいことである。浜崎あゆみやサザンオールスターズは大量のCMを流して売ることができるが、リスクの大きい新人の発掘は後回しになりがちだ。新人がデビューできる機会は減っていく一方だ。しかし、人の好みはそれぞれだから、コンテンツは多品種にしないとマーケットそのものが縮小してしまう。とはいえ、余裕のなくなったコンテンツ業界は目先の利益確保に走らざるをえず、その結果、業界全体の売り上げを減らしてしまう。多くのコンテンツ業界はいまそうした悪循環に陥り始めている。タダで多くのコンテンツに触れさせるという方法は、そうした悪循環を断ち切る特効薬になるはずだ。人々がより多くのコンテンツに接することができ、自分の好みの作品を発見する機会が増えれば、コンテンツ制作者たちはより多様なコンテンツを作り、売ることができる。消費者もテレビやラジオで「これを買え」とばかりに繰り返し見聞きさせられるものだけでなく、自分で発見したコンテンツにお金を払うほうが気分がいいだろう。
 かつてなら考えられなかったやり方でコンテンツ業界は大量の音楽を無料で聴かせて購入につなげていく方法がこのようにいまはあるわけだが、残念ながらまだそれを十分に活かせず、その結果、われわれも技術的達成にみあった快適な生活を享受できずにいる。 
 日本は、CDでもネット配信でも楽曲の値段が高いし、映画の入場料も高い。日本の消費者は、コンテンツの視聴について虐げられている。そしてまた、前回書いたように英米のメディアは、「日本のメーカーはiPodの後追いをしているだけではないか」とハードディスク搭載携帯音楽プレーヤーの発売について批判している。そんなことを言われないためにも、携帯音楽プレーヤーの使い方を一新し、これまでのミュージック・ライフを一変させるこうした方法を採用してみてはどうだろうか。
 実現すれば、これまでと比べものにならないほど多様な曲に無料で自由に接することができ、かつてない世界が開ける。そのためには、コンテンツ提供側がちょっと発想を変えてみるだけでいいのだが。いまの音楽産業のなんともまずい点は、消費者を潜在的著作権侵害者と見なしてあからさまに制限を押しつけている点だ。「お客様」を味方につけるどころか、犯罪者扱いしてうまくいく商売などありえない。

関連サイト
●一曲99セントで販売しシェアの7割を占めることに成功したアップルに対抗して、8月17日、米リアル・ネットワークスは一曲49セント(約54円)の配信サービスを開始した。また、これまでリアル・ネットワークスのサイトで売られている曲はiPodなどでは再生できなかったが、同社は、アップルの猛反発にもかかわらず、それができるソフトも配布し始めた。この価格は期間限定だそうだが、いつまでかは発表していない。日本の音楽販売サイトとの価格差は広がるばかりだ。
「エキサイト」の音楽ネット配信サイト。ポータルサイトの「エキサイト」は若者向けに意欲的なサービスを展開しているが、この配信サイトでは、日本音楽著作権協会(JASRAC)からライセンスを受けているというマークがトップページにでかでかと載っていたり、著作権保護の説明へのリンクが目立つように載っていたりする。著作権保護は、コンテンツ提供側にとっては大問題だろうけど、ユーザーにとってはとくにメリットのない話だ。いったい誰に向けてサイトを作っているのだろう、という気がする。
●国内の有力レーベルが出資して作った「レーベルゲート」が立ち上げたネット音楽配信サイト「モーラ」。このサイトのMAGIQLIP2の曲データは、iPodやMP3 Player、東芝のプレーヤー「ギガビート」には対応していない。また、CD-Rへの書きこみもできない。
●ソニーは月額 504 円で聴き放題の「ワンダー・ジューク」と名づけたストリーミング方式のネット配信も始めた。ほとんど洋楽だが1万曲を超えている。クラシック専門もあって、こちらは9100曲。この価格で聴き放題というのはかなり使い勝手のいいサービスだと思うが、邦楽ではどうしてこれができないんだろう?

(『週刊アスキー』「仮想報道」Vol.351)

●追記
 これの美術バージョンというのも書きました。その後、アップル - iPod photoなどというのも出てきたので、「iPodマガジン」とか「iPodミュージアム」というのも十分ありだと思います。

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