« 編集者はいらない?――京極夏彦氏の怪気炎 | トップページ | グーグルは株式公開して幸せなのだろうか? »

2004.08.31

グーグルは社会革命をめざす?

うーん、グーグルはやっぱりとてもおもしろい。
ハイテク企業最大級の株式公開を、グーグルは、
証券会社にケンカを売って敢行してしまった。

●意表を突く株式公開

 ついにグーグルが株式公開をした。時価総額は3兆円近い。日本でいえば、ソニーや松下電機の時価総額が3兆5千億円ほど。日立が2兆3千億円。時価総額で言えば、そのあいだぐらいのメガトン級の企業が突然のように出現してしまったことになる。

 グーグルは土壇場になって売り出し価格も売り出し株数も大幅に下げたものの、それでも16億6000万ドル(1800億円)の資金獲得に成功し、30歳と31歳の2人の創業者セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジはそれぞれ4000万ドル(45億円)の現金を得て億万長者の仲間入りをした。もっとも2人が売ったのは持ち株の1パーセントちょっとで、グーグルの株だけでもその百倍の資産を所有していることになる。

 しかし、「グーグルはやっぱりおもしろい」と思ったのは、そうしたお金の額のせいではない。わずかの期間に株を上場し、大金を得たネット企業はこれまでにもある。グーグルが、というよりグーグルの若い2人の創業者がやっぱりとてもおもしろいと思ったのは、彼らの選んだ株式公開の方法のためである。

 株式公開はふつう証券会社が顧客に購入意志を聞いてまわり、顧客の反応やさまざまのデータを勘案して売り出し価格を決める。売り出し価格は、証券会社が顧客たちからのビジネス上の見返りを期待して、公開後、株価が上昇して顧客たちが儲かるように低めに設定される。購入できるのも証券会社の上客が優先され一部の金持ちが儲かる仕組みであるとグーグルの若い創業者ブリンとペイジは見て、そうした公開方法を拒否したのだ。

 かわりに彼らが採用したのは「オランダ・オークション」と呼ばれる競売方式である。ヤフーや楽天などの通常のネット・オークションでは、購入希望者は低い額から競り上げていく。オランダ・オークションはその逆で、高い額から売り手が値段を下げていき、購入者は買いたい価格のところで落札する。「競り下げ」をするわけだ。オランダのチューリップ市場ではこうした競売が行なわれてきたそうで、日本の花市場などでも踏襲されているらしい。

 サザビーズやクリスティなどのオークション風景がときにテレビに映るが、競り上げでは激しい競争になって売却がなかなか決まらないことがある。競り下げ方式は、同一のものをたくさん売る場合にも価格が早く決まる。同じ花を何本も売るときなども、売り切るまで落札額を下げていけばいい。

 今回の株式公開でも、高額の入札をした人から順に公開予定株数までの入札者が購入でき、売り出し価格は、落札者の入札価格のうちもっとも低い額になるルールだった。高額の入札をしても、最終的に決まった売り出し価格で買うことができるわけだが、どうしてもほしいと思えばとりあえず高い額で入札せざるをえない。多くの人がそういう行動をとれば、売り出し価格はどんどん高くなっていき、「とりあえず」のはずの入札額がとりあえずではすまなくなる。証券会社が自分たちの思惑で価格を低く設定する場合に比べて高値で公開できる可能性が高いかわりに、公開株を手にした人々がこの株価は高すぎると思えば、株式公開と同時に売りに出し、大暴落ということだってありうる。前例のない株式公開だから、グーグルの幹部たちにとってもひやひやもののリスクの高い選択だったはずだ。

●反発する証券界

 グーグルのユニークな株式公開方法について、少なくとも公開にいたるまでは批判的なムードが強かった。グーグルのオークション方式はいわば従来の証券の仕組みにケンカを売ったわけで、それまでグーグルを賛美していた証券会社やアナリスト、ベンチャー・キャピタルなども一転してグーグル批判派に回り始めた。

 グーグルが証券会社へ支払う手数料は通常より安く、また5株から購入できるので、個人客が増えて手間がかかる。引き受けを降りてしまった証券会社も出てきて、いよいよグーグルにたいして冷たい雰囲気が漂った。

 さらに、社員に発行していた株を登録していなかったというケアレスミスが発覚したり、株式公開に影響を与える情報を出してはいけない静粛期間でしかも公開直前という時期に、グーグルの創業者の一人のインタヴューが「プレイボーイ」誌に載るなどの事件が続き、証券関係者に取材して報道しているメディアも、(日本の経済紙も含めて)グーグルのやり方に懐疑的なニュアンスの記事が大半だった。

 グーグルは売り出し価格の予想を当初108ドルから135ドルのあいだとしていたが、結局、売り出し価格を85ドルに下げ、幹部やベンチャー・キャピタルなどが持っている株の売り出しを減らすなどの措置をとった。その結果、株価の割安感が強くなり、公開日に株価は18パーセント上昇、大暴落のリスクは避けられた。 何とも波瀾万丈の株式公開だったわけだが、そうなった大きな原因のひとつはやはり競売という異例の方法をとったこと、そしてそれによって証券界が反発したことにあるだろう。

 しかし、株式公開に限らず、従来の商取引では参加者が限られているために一部の人たちに特権が与えられるなど旧弊な慣行がまかり通ることが多い。グーグルはともかくも一般の個人客を重視し、独自のやり方を成功させたわけだ。
 ネットのオークションでは短期間に並行して大量の商品の価格を決定し売買することができる。ヤフーや楽天などでは人気サービスのひとつになっているが、それだけにとどまらず、オークションはもっと一般的なインターネットのインフラになっていく可能性もあると思う。先端的なネット企業であるグーグルはそうしたことも感じとってあえてこのような方法をとったのかもしれない。

●グーグル民主主義

 グーグルは、ほかのページから張られているリンクを計量することでウェブ・ページの格付けをする「ページランク」と呼ばれる仕組みを開発し、検索の世界に革命を起こして一躍注目されるネット企業になったわけだが、「ページランク」では、個人か企業か、有名か無名かにかかわりなく、無数のサイト間に張られているリンクによってウェブ・ページの価値が決まっていく。権威のある組織によって決まる価値づけとは違い、民主的なシステムだとグーグルはかねがね言ってきたが、この言葉は一種の宣伝文句だと思っていた。しかし、人気絶頂のいまふつうに株式公開しても大金が転がりこんできたはずなのにわざわざ波風の立つ株式公開をしたのを見ても、どうやら彼らは自分たちの信じる民主主義を本気で実践しているようだ。グーグルの重要な決定をすべて握っていると言われる2人の若い創業者を「検索業界の革命児」とだけ見るのは当たっておらず、彼らは既存の社会にたいする革命児でもあるのかもしれない。

 グーグルは株式公開にあたって分厚い目論見書を発表したが、その冒頭にある「創業者からの手紙」の末尾には、グーグルについて「世界をもっとよい場所にする会社にしたい」と書いている。また、「悪いことをするな」というのもグーグルの社是だと言い、たとえ短期的な利益を損なっても悪いことはするべきではないとも書いている。

 よかれと思ってしたことも別の人にとっては悪く見えたり、結果的に悪いことになる場合もある。そういう意味では「悪いこと」というのは相対的なもので、「悪いことをするな」というのは素朴すぎる言い方だとは思うが、こうした青臭さを臆面もなく出すところが現在のグーグルのよさなのだろう。

 もっともよかれと思ってしたことがそう見えないということは、こんどのグーグルの株式公開でも、またグーグルが始めている事業でもすでに起こり始めている。いまもっともクールな企業といわれるグーグルが何を考えているか、次回ももう少し見てみよう。

●関連サイト
株価に影響をあたえる情報発信をしてはいけない静粛期間であるにもかかわらず、株式公開の直前に米「プレイボーイ」誌に載ってしまったグーグルの創業者ラリー・ペイジのインタヴュー。一時は株式公開延期もうわさされた。
 株式公開に影響を与えてはいけない静粛期間といっても、証券会社は上客には情報を提供している。それなのに、雑誌で誰でも読める情報は大問題になるなんてとニューヨークタイムズは「プレイボーイ」の記事をめぐる騒動について揶揄していた。私が読んだなかではグーグルの株式公開について珍しく「グーグルより」の記事だった。
株式公開にあたって作られたグーグルのサイトで、入札への登録が行なわれた。公開が終わった現在はウェブ・ページが変わっている。

|

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56597/1652283

この記事へのトラックバック一覧です: グーグルは社会革命をめざす?:

コメント

コメントを書く




コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。