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2004.06.22

ブックフェアは静かなほうがいい

 今年も例年のように4月後半の4日間ブックフェアが開かれ、その会場の一郭がデジタルパブリッシングフェアにあてられた。
 話題の電子書籍端末が、発売元のソニーの関連会社や松下電器、コンテンツを提供している会社のブースなど、会場のいたるところに置かれていた。
 

両方の端末に関係している凸版印刷などは、ふたつの端末を並べて比較できるようにしていた。多くの人が殺到しているかと思いきや、少なくとも私の行った初日はそれほどでもなく、意外だった。あちこちにあったので希少価値がなかったのかもしれない。
 こうしてふたつの端末が競うように並んでいるのをみると、ほぼ同時期に出た専用端末といっても、その性格はかなり異なっていることがわかる。
 コンテンツが「レンタル」で2か月たつと読めなくなるソニーのリブリエはエンターテインメント指向が強く、本が消耗品化する状況によくもわるくもあわせたビジネス・モデルになっている。シグマブックもマンガのコンテンツを重視しているという意味ではエンターテインメント指向だが、電子書籍のアーカイヴ性を意識し、手に入りにくい書物やマンガを保存することにも目配りしている。たとえば、印刷会社からIT事業などへと多角化してきている廣済堂のブースでは、スキャンした古書をシグマブックで表示して見せていた。オリジナルを閲覧してもらいにくい貴重書を持っている図書館などは、オリジナルの劣化を防ぎ著作権保護も図って公開や貸し出しができるという提案だ。1ページあたり400円でスキャンしてシグマブックのフォーマットに変換し、サイトでの販売までサポートするそうだ。貴重書だけを対象にしているわけではないが、古書の電子書籍でデモをするなどというのは、「おしゃれな端末」をめざしているように見えるリブリエでは考えられないことだろう。
 こんどのフェアでは、東芝もカラー表示・見開きの電子書籍端末を展示していた。会場中にあったリブリエやシグマブックとは違い、新潮社やボイジャーなどと共同の東芝のブースの奥まったところにひっそりと置かれ、ケースのなかに入っていて触れることができないようになっていた。ブースにいた説明員の話では「発売予定はまだない」とのことで、少なくとも一般の消費者市場ではマーケットが見こめないと考えているようだ。デザインが違う二台の端末を置き、一台では設計図などを表示、もう一台では遠隔教育に使われることを想定して片面に講義の動画像、もう片面にテキストなどを表示していた。電子書籍以外の用途への広がりも期待しているようだ。アメリカや中国の大学では教科書の電子化が進められ実際に利用しているところもあるようだから、東芝はそうした方向も模索しているのだろう。もし販売するにしても、展示している仕様の端末では10万円以下の価格では無理だというから、市場探しはいよいよむずかしい。
 デジタルパブリッシングフェアでは、専用端末ばかりでなく、電子書籍が読める携帯電話やPDAなどの端末も並び、例年以上にAV機器のイベントのような雰囲気が漂っていた。自社の本を並べ一般読者にもアピールしているブックフェアのスペースに比べて、これまでデジタルパブリッシングフェアのほうは電子書籍や本の製作工程技術など業界関係者向けの展示も多かった。もちろん今年もそうしたブースはあったが、大きな場所をとっているところは個人客にもアピールするように作っていて、だんだん変わってきたように思われる。
「派手になってきた」のはブックフェアのほうも同じかもしれない。かつては自動車やコンピューター関係のイベントに比べると、電子的な光や音が飛びかうこともなく静かな感じがしていたが、今年はコンパニオンの数も多く派手になってきたような気がする。にぎやかで一見よさそうだが、これは出版界の変質を物語る現象なのかもしれない。当然ながらコンパニオンを雇うにはお金がかかる。これまではできなかったこの派手な振る舞いがなぜできるようになったのか、理由は明らかだ。出版社が、新聞社やテレビ局、電器メーカーなどとの連携も強めてグループ化・多角化し、お金をかけることができるようになってきたからだろう。欧米で進行しているメディア・コングロマリットの流れが日本の出版界でも着実に強まっている。ブックフェアの会場がにぎやかになったと喜ぶのは浅薄で、少部数の多様な出版物が生き残れる環境が失われつつあることをむしろ嘆くべきなのかもしれない。
(「出版ニュース」5月号)

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