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2004.06.21

地震は予知できない!?

地震予知技術はとても進んだように思われがちだが、
じつはそんなことはない。あやふやな前提で
莫大な予算が使われ続けている。

●地震予知は科学ではないと暴露した本

 引っ越すたびに東京から西のほうへ移動しつつある私としては、東海地震がとても気にかかる。こんど引っ越す予定の場所は、東海地震の防災対策強化地域のすぐわきである。人為的に囲った強化地域の境界で被害がほんとうに止まってくれる保証はない。とはいえ、そもそも日本にいるかぎり、どこにいてもそれなりに危険である。よく知られているように、95年に起きた阪神淡路大震災だって、さして危険とは思われていなかった地域だった。この震災のような直下型地震はどこで起こっても不思議はなく、そんなに大きくなくても人口密集地のすぐ下で起これば大災害になる。「あたりどころ」が悪ければどういうことが起こるかわからないというわけだ。神奈川県の防災計画のページなどに載っている表を見ると、マグニチュード8の東海地震の切迫性は「ある」で、南関東直下型の地震は「ある程度切迫性を有している」。言葉のうえでは、東海地震のほうが危険な感じがするが、じゃあ神奈川県より東京都内のほうが安全かといえば、どちらも大型地震が来る可能性はそれなりにあるわけで、実際のところどちらが先になるかわからない。結局、私の個人的結論としては、「そんなことで引っ越し先は決められない」ということになった。
 地震予知というのは科学としてかなり進んでいるようになんとなく思っていた。宮城県沖で今後30年以内にマグニチュード7.5前後の地震が起きる確率は98パーセントとか、三陸沖北部でマグニチュード7.1から7.6の地震が今後10年以内に起こる確率は60パーセント、30年以内なら90パーセントなどともっともらしい数字が発表されている。ところが、地震予知はできないということで、じつは科学的にも行政的にもほぼ決着がついてしまっているらしい。え、そんなこと聞いたことがないぞという人が多いと思うけど、ほんとうにそうらしい。
 もう26年前に東海地震間近ということで大規模地震に備える大震法という法律ができたときには、地震予知はできると信じられていた。地震予知の研究がまだはじまったばかりでバラ色の未来が信じられていた。この法律はもちろんまだあって、いまでもたとえば中央防災会議の議事録を見ると、「事前の予知の可能性【「予知の可能性」に傍点】があり予知にともなって規制が行なわれることに理解のある地域はどこでもこの法律の対象になる」などと事務局が答えていたりする。地震予知ができるという前提はそのままだ。
 しかし、この議事録でも、「予知を前提としない対策を立てるべきではないか」と委員から疑問の声があがっている。大震法制定以来4半世紀が経って、予知を前提にした対策ではまずいのではないかという意識が広がってきており、昨年5月には、東海地震が突然起こったときのために東海地震対策大綱が作られた。一見とても建設的な動きのようだが、これはじつは「行政の失敗」をごまかすためにとられた対策でもあった。「予知できるということで使われた莫大なお金はどうするんだ」という話はせずに、こっそり「予知はできないかもしれない」という前提に方針転換してしまったわけである。
 さらに驚くことには、95年の阪神淡路大震災まで地震予知の総元締めをしていた地震予知推進本部は、震災の災禍を見て、地震予知を掲げているのはおこがましいと看板を降ろしてしまったらしい。事実上、地震予知はできないとギブアップしてしまったにもかかわらず、失敗を認めたがらない官僚ははっきりそのことを言わず、すばやく地震調査研究推進本部という名前にして、予算や人員をそのまま確保したのだという。調査研究推進本部は、地震予知という言葉を使うことを神経質に避けてきたが、最近では声高には言わず、「地震予測」と言い換えて使っているのだそうである。
 今年の2月に出た『公認「地震予知」を疑う』という本には、地震についての常識をひっくり返すそうした経緯や背景が書かれている。
 あっけにとられるような暴露をしたこの本の著者、島村英紀氏は、国際人工地震学会の会長まで務めた北海道大学地震火山研究観測センターの教授だ。正統派地震学者の経歴だが、何とも大胆な本を書いたものだ。しかし、「地震予知は研究に値しないというのが世界の科学者の常識」だそうで、米国や欧州では、地震予知を謳った研究はそのタイトルだけで研究費の審査に落ちるのだという。日本でも地震予知を教える講義のある大学はどこもないというから「暴露」というより科学者の常識を書いたに過ぎないということなのかもしれない。しかし、世の中の常識になっている話ではないだろう。十分に衝撃的な本である。
 たしかに言われてみれば、いろいろと妙なことはある。「富士川河口断層帯で今後30年以内にマグニチュード8程度の地震が起こる確率は0.2パーセントから11パーセント」なんて言われたって、どう考えていいのかわからない。この場所では平均して1500年から1900年周期で地震が起こり、この前起こったのは約2100年まえから1000年まえだったからそろそろ起こっても不思議はないというが、0.2パーセントと11パーセントでは2桁も違う。競馬の予想屋に、「この馬が勝つ確率は0.2パーセントから11パーセントだな」なんて言われたら、「バカにするな」と怒り出すのが普通だろう。勝っても勝たなくても「やっぱりね」と言える数字で、意味がない。
 ところが、「地震の確率としては低くはない」みたいなことを言われると何となくわかった気になってしまうのは、多くの人命がかかっていて、地震が来るのか来ないのか少しでも知りたいという欲求があるからだ。そこにつけこんで、予算と人員をキープし続けているヤカラがいるというのは、人の弱いところにつけこんでとんでもない話である。

●不思議な地震観測網サイト

「まったく行政のやることは」と思うが、地震「予測」予算を使っている組織がウソばかり言っているかというと、意外なことにそうでもない。防災科学技術研究所という独立行政法人の「高感度地震観測網」のサイトの「地震の基礎知識」ページ「地震予知」の章にはこう書かれている。
「地震予知の実現に対する人々の期待は大変に高いものがあります。しかし、それはきわめて困難な課題であり、残念ながら現状の技術レベルは実用的段階にはほど遠いと言わざるを得ません」
「地震の発生予測」を目的にして作られた地震調査研究推進本部が設置した観測網のサイトが「地震予知は実用段階にはほど遠い」と書いているんだから、何とも驚く話だ。
 このサイトの説明によれば、地震予知が進展しない理由のひとつは、本格的な観測が行なわれるようになってからまだ30年しか経っていなくて「われわれの知識があまりに乏しいのが現状」で、「それでも東海地震だけは何とかしたいとの願望から、特別なぶっつけ本番の予知体制がとられている」のだそうだ。「我が国では公式な地震予知が行われたことは一度もなく、技術的には何の保証もないのですが、事柄の重大性に鑑みて、ぶっつけ本番の地震予知体制が動き出した」とも書かれていて、お役所的な組織にしては珍しいぐらいに正直だ。わかるかわからないかほんとのところはわからないんだけど、ともかく「事柄の重大性に鑑みて」やってみているんだよというわけで、このあたりがほんとうのところなのだろう。海の中に震源がある地震では観測がむずかしいが、東海地震は陸地にかかる可能性もあって予知できる可能性が皆無ではないようだ。
 そう言われれば理解はできる。でも、うやむやのまま人命を人質にとってなんとなく予算獲得を続けるというのはやめてほしい。

関連サイト
●『公認「地震予知」を疑う』 の著者・島村英紀北海道大学地震火山研究観測センター教授のサイト。本書によれば、原子力発電所は岩盤の上に作られているので地震のさいの揺れが小さくて大丈夫、と考えられてきたが、2000年の鳥取県西部地震では、これまでの想定と違って揺れが大きかったという。原子力発電所が地震の被害にあわないという保証はないようだ。
●防災科学技術研究所の「高感度地震観測網(Hi-net)」のサイト。防災科学技術研究所にアクセスすると、ほかに、「強震観測網」とか「基盤強震観測網」「広帯域地震観測網」「国際地震観測網」とそれぞれサイトができていて、観測施設もそれぞれあることがわかる。
●地震の「予測」をしている地震調査研究推進本部のサイト。「地震に関する評価」のページには活断層や海溝型地震の長期評価などが掲載されている。


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