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2004.03.22

「本の死」を救うもの

 インターネットは、これまで本の読者に何をもたらしただろうか。
 ネガティヴな面としては、インターネットで調べものをするようになって本が読まれなくなったなどと言われる。しかし、読者にとっては便利なメディアを使うだけのことで、とりたてて本とは関係ないことだろう。
 読者が得た大きなメリットとしては、オンラインで簡単に本を探して購読できるようになったことぐらいではないか。洋書や古本の購入などは格段に便利になったとはいえ、インターネットが本の世界に影響をあたえるのはまだこれからだ。

 松下電器が読書用端末「シグマブック」を2月20日に発売開始すると発表した。希望小売価格は37900円。紀伊國屋や丸善、松下のショッピングサイト「パナセンス」で3月まで千台を限定発売する。コンテンツは5000点がシグマブックのサイトや10daysbookで販売される。ラインナップはやはり小説やマンガ、ビジネス書など軽い読み物が中心のようだ。ソニー・グループも電子書籍の配信サービスと端末の発売を発表しており、いよいよ読書用端末の市販が始まる。しかし、一番の問題は、結局のところ、読者がなぜこうした端末を必要とするのか、あいかわらずはっきりしないことだ。電子書籍を売るためには読みやすい端末が必要という送り手の理屈はともかく、新たな機械を購入してまで読む読者のモチベーションがない。
 アマゾンやグーグルがその米国版サイトで、本全文の横断検索サービスを始めたことはすでに紹介した。ウェブのサービスとしては数ある検索機能のひとつに過ぎないが、ネットが本の世界にもたらす変化としてはオンライン書店の誕生よりもはるかに大きなものになる可能性がある。本というメディアの性格そのものを変えることさえありうるように思われる。
 本はひとつのテーマについてレベルの高い情報をきわめて整理した形で収録している。しかし、ほかの本へリンクを張る能力は限られている。本文、もしくは注や参考文献でほかの本に言及するという方法しかないし、「リンク先」をただちに見ることもできない。いくらすぐれた記録メディアであっても、必要な情報が見つけにくいのでは仕方がない。ウェブが安価で容易にアクセスでき、膨大な情報量を持つメディアになっていけばいくほど、紙の本は顧みられなくなっていく。これまで本は、それを読んだ人が新たな創造行為に向かうための最高の道具だったが、ウェブが優れたものになればなるほど、知的道具としての本はウェブに取って代わられる運命にあるようだ。
 けれども、本全文の横断検索ができれば話は変わってくる。ほかのウェブ情報と同じ土俵で、本の情報に自在にアクセスできるのであれば、そのレベルの高さが活きてくる。
 本の全文横断検索の能力を、アマゾンのように本を売るためだけに使う手はない。新たなビジネスも生まれるはずだ。
 アマゾンでは、本を探すための検索というのが目的だから、出版社の意向もくんで、表示できるのは検索してヒットしたページの前後2ページに限るとか、ダウンロードや印刷はできないといった制約を設けている。しかし、有料でもいいから、もっと自由に読めるようにしてもらいたいという要望はあるはずだ。ウェブの発展でダメージが大きくなる専門出版社などがまとまって、有料会員制で自社の本を検索し読めるデジタル・アーカイヴを運営するといったことも考えられる。
 学術的な本ばかりではない。アニメの登場人物の名で本の横断検索ができればお金を出してもいいというアニメ・ファンはいそうだし、釣り好きが今度の週末に行く場所の名前で釣りの本の横断検索ができればお金を払うだろう。個々の電子書籍内の検索機能はレファレンス書に便宜をもたらしたが、横断検索はさらに多くのジャンルの電子書籍に道を開く。さまざまなジャンルの本について、それぞれ本を横断検索して読めるウェブ上の有料会員制のブッククラブみたいなものも生まれるかもしれない。そうしたブッククラブが増えていけば、ディスプレイで本を読むことが一般化し、それにともなって読みやすい端末が普及することも考えられる。
 読書用端末の発売にしても、もし膨大な本の全文を横断検索して読めるのであればインパクトは違うはずだ。この機能だけで端末が普及するほど甘くはないだろうが、本好きの人々が、「ディスプレイで本を読むのはぞっとしないけど、膨大な本を横断検索して読めるのであれば我慢しようかな」と思い浮かべるぐらいのことはある。このところの電子書籍の傾向としては、電子機器には馴染んでいるが紙の本はあまり読まない層をターゲットにしているようだ。しかし、読む習慣のない人々相手では限界がある。
 本の全文横断検索ぐらいのドラスチックなサービスを提供しないかぎり本好きのあいだにも読書用端末を普及させるのはむずかしそうだし、それどころか、本が「緩慢な死」を逃れることもできないのではないか。
(出版ニュース 2004年2月下旬号)

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