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2004.02.05

米アマゾン・コムの新商品は「大統領候補」

アメリカの選挙で、ネットを使って寄付を集めるのは
すっかり当たり前になってきたが、
米アマゾンは、それを新しい「商品」にしてしまった

●「大統領、買えます」

「アマゾン・コムって本を売っているところ」と思っているあなたは、もはやかなり遅れている。日本のアマゾンもオープン翌年の01年にはCDやDVD、ゲームソフトなどを売り始め、昨年7月には家電、11月には台所用品や健康グッズまで売り出した。米アマゾンのサイトに行けばさらに、レストランのメニューを見たり、ホテルや飛行機のチケットの予約・購入までできて、売ってないものはほとんどないといってもいい。とはいえ、米アマゾンのサイトに新しく並んだ「商品」は意表を突いている。「品物」は何と、「大統領候補」。サイトにアクセスすると、ページ・トップに「大統領候補」と「商品名」が出て、次のようなコピーが踊っている。「5ドルから200ドルまで、ワンクリックできわめて簡単に寄付できます」。米アマゾン・コムは、いまや大統領候補へ寄付するサービスまで提供し始めた。アマゾンは、ハリー・ポッターの新刊を買うのと同様の感覚で寄付できると言っている。
「寄付」のサービスではあるが、アマゾンにとってはこれは社会貢献などではなくて、れっきとしたビジネスだ。通常の手数料をとっている。アマゾンによれば、選挙運動の寄付を集めるサービスを無料でやってはいけない法律があるのだそうだ。
 それでもアマゾンは気がとがめるのか、FAQで法律の説明に続けて、「『アメリカに投票する子どもたち』というNPOにいずれ全額寄付するつもりだ」とわざわざ断わっている。手数料を自分たちのフトコロに入れてしまうのはやましいらしい。でもまあ、人々が便利になるサービスを提供することでお金を得て、悪いわけはない。アマゾンは、お金よりも、話題になってアクセスが増えれば十分なのだろう。
 各選挙事務所は誰から寄付をもらったか選挙管理委員会に届ける必要があり、候補者のサイトで寄付するさいには、名前、住所、職業、会社名、クレジット・カード番号などを入力しなければならない。アマゾンでアカウントを作っていれば面倒な入力をせずに何人にでも寄付できる。また、アマゾンは、各サイトから経歴や政策などの情報を集めて載せているので、見比べて「好みの候補」を容易に選ぶこともできる。情報を一個所に集めることで集客力のあるポータル・サービスになるというのはネット・ビジネスの基本的なセオリーだ。
 アマゾンはメディアのインタヴューなどでこのサービスについてこう言っている。
「大統領の選挙戦が熱っぽくなってきており、自分たちには3700万の顧客アカウントがある。アマゾンはすでにあらゆるものを購入したりサポートしている。このサービスもわれわれがすでにやっていることの延長上に自然に生まれたものだ」。つまり驚くほどのことではないと言いたいわけだ。しかし、このビジネスは、商品の売買の結果として決済機能を使うのではなく、決済機能そのもので利益をあげるものだ。まだ実験段階なのでいつでもやめる可能性があるとアマゾンは言うが、これはやはりアマゾンの新しい時代を画するサービスではないか。クレジット・カードを登録するという形で顧客の口座を確保しているアマゾンは、その信用力を使って、銀行や郵便局のような決済機関になりうる。このサービスによってアマゾンはそうした可能性を誇示したことになる。

●アマゾンvsブッシュ

 アマゾンのこのサービスを使って寄付を受けとれるのは、選挙事務所を持ち月5000ドル以上の収入があったり使ったりしている候補者すべてだそうだが、いまのところまだ寄付できない候補者もいる。ブッシュ大統領などもその一人だ。アマゾンがブッシュを嫌いだから‥‥というわけではもちろんない。当然ながら、アマゾンは勝手に寄付を集めるわけにはいかず、当の候補者の承認がいる。アマゾンはすべての候補者に熱心に参加を呼びかけているというが、サービス開始から10日経ついまも、ブッシュ大統領などからは許可を得られない。
 アマゾンが寄付を集めてくれるというのだから、候補者にとってはじつにありがたいサービスに思える。ネットをもっとも積極的に使ってきたディーン前バーモント州知事は昨年末までに40億円を集め、その半分はネットでの寄付だと言うし、昨年9月に遅れて立候補表明したクラーク元NATO欧州連合軍最高司令官も、運動開始直後の2週間で3億7千万円を集め、そのうち3分の2がネットでの寄付だという。ネットは絶大な集金能力を発揮している。民主党の有力候補は軒並みアマゾンの申し出を承諾し、寄付を集めてもらっている。それなのに、どうしてブッシュはオーケーを出さないのか。

●神経を尖らせる候補者

 ブッシュはアマゾンを信用していないのか。まさかアマゾンを知らないわけではあるまい。あるいは、「イラクに大量破壊兵器はない」と調査団の団長が証言し始め、ブッシュはその対応に追われ、アマゾンの相手をしているヒマがないのかしら?‥‥などとあれこれ考えながら、しばらくこのサイトを眺めていたら、ブッシュ陣営がすんなりオーケーしないわけが何となくわかってきた。
 というのは、このサービスで、候補者はありがたがってばかりもいられないのだ。それぞれの候補者に寄付をした人がこれまでに何人いて、一人平均いくら寄付し、総額ではいくらになったかというデータが表示される。各候補者のページにプロフィールや政策とともに最新の数字が載る。物見高いメディアや有権者が、政策などに目もくれず(?)、わかりやすい数字にまず注目するのは明らかだ。実際、アマゾンのこの「新商品」を伝えたメディア報道は、かならずと言っていいほど、どの候補者にいくら寄付があったかをあわせて伝えている。
 ブッシュはパーティーなどですでに多額の寄付を集め、潤沢な資金を持っている。アマゾンのこのサービスに参加して、もし民主党候補よりもはるかに少ない寄付しか集まらなかったら、「ブッシュは草の根市民層に人気がない」とメディアがこぞって書きたて、選挙の勝敗にも響く可能性がある。ネットにアクセスしているのは民主党支持者が多そうだから、ブッシュを支える選挙のプロたちが、「このサービスに参加するのはリスクが大きい」と判断したとしても不思議はない。
 アマゾンは、特定の候補者に肩入れしないと言っているが、1月23日にサービスを開始したことで、結果的にジョン・ケリー上院議員の支援をしてしまったようだ。サービス開始直前にアイオワ州で民主党最初の党員集会が開かれ、おおかたの予想を覆しケリーが勝った。ケリーがまさに上り坂になったときに始まったアマゾンのこの「寄付レース」でも勝ち馬に寄付が集まり、ケリーはダントツのトップになった。それをまたメディアが伝えている。この時期のサービス開始はケリー上院議員に追い風だ。
 時々刻々更新される寄付の額は、人気のバロメーターとして見られ、それを伝えるメディア報道がその数字の持つ意味をさらに増幅させる。人気がなく当選しそうもない候補者を支えても仕方がないから、「これはダメだな」と思ったら、移り気な有権者は、ほかの候補者に支持を変える可能性がある。便利なアマゾンのサービスも、候補者にとっては両刃の剣だ。つい最近も、負けた候補者が支援者を鼓舞するために絶叫演説をし、「そんなに取り乱すようでは大統領の資格はない」ということで支持率が急落するということがあったが、何がどう作用するかわからない選挙戦では、こうしたサービスひとつにも候補者たちは神経を尖らせていることだろう。

関連サイト
●米アマゾン・コムの「ワンクリックで大統領候補へ寄付」のページ
 ディーン前バーモント州知事優勢の予想を覆し、アイオワ州に続いてニューハンプシャー州で勝ったジョン・ケリー上院議員は、米アマゾン・コムのこの新サービスでも、開始早々トップに躍り出た。サービス開始1週間経った時点で、ディーンが240人から5347ドルの寄付を受けているのに対し、ケリーは376人から、ディーンの倍以上の1万2400ドルを集めている。
 アメリカの政治家が外国人の意向に左右されるのを避けるために米国民やアメリカ永住者以外は寄付できない。「ブッシュをホワイトハウスから追い出してもらいたいから民主党の候補者に寄付しようかな」などと思っても、残念ながらそれは法律違反。外国人は寄付できない。しかし、刻々と変化する情勢にあわせて寄付の数字がどう変化するかを眺めるだけでもおもしろい。
 (10月23日追記) このサービスは半年後の7月21日に打ちきられた。14候補者に30万ドルが集まったという。
『アメリカに投票する子どもたち』。コスタリカでは投票の重要性を学んだ子どもたちが両親を投票所に連れて行くので投票率が80パーセントにもなっているそうだ。88年にコスタリカに釣りに行った3人のビジネスマンがそれを知り、投票率を高めるには子どもの意識を高めることが必要と設立した選挙の啓蒙組織。
●アマゾンの寄付コーナーで、ジョン・ケリーに迫る2位になっているのはほかの民主党候補者ではなくて、どういうわけかリバタリアン党のこの候補者ゲイリ・ノランだ。アマゾン・サービス開始後1週間の時点で、ジョン・ケリーと同じく1万ドルを超える寄付を集めた。「ほかの候補者と同じ土俵で戦えば、自分たちは驚くほど強いのだ」とリバタリアン党は言っている。

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