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2004.02.02

「ツケを払うのは子どもたちだ」という反ブッシュ・キャンペーン

民主党の予備選が始まり、アメリカの大統領選挙の
火ぶたが切られた。ブッシュもメディア戦略を
本格化させ、宣伝戦が活発化している。


●ブッシュへのカウンター・パンチ

「ともかく誰かブッシュを倒してくれ」。米民主党員の気持ちは、ひと言で言うとそんなところらしい。ディーン前バーモント州知事はイラク戦争に反対し、ネット選挙を繰り広げてリベラル派の人気を集めてきたが、「ディーンでは大統領選に勝てない」とここへ来て失速し始めた。かわってそれまで地味な存在だったジョン・ケリー上院議員がトップに躍り出た。
「誰でもいいからブッシュを倒してくれ」と思っているのは民主党員だけではない。アメリカにいる知人に訊くと、まわりでブッシュを支持している人はほとんどいないみたいだし、いったいブッシュの支持者はどこにいるんだという気がするが、よく言われるように、ブッシュ支持者は南部や中西部にいるのだろう。大都市周辺では「ブッシュには困ったものだ」と思っている人が多いと棲み分けができている。それにしても、これだけ強固に「ブッシュはいやだ」と思っている人がいる以上、ブッシュが楽勝できるはずはない。
 日本でも、イラク問題をはじめとして強引な手法をとり続けるブッシュにうんざりしている人は多そうだ。そう思っていたら、テレビのニュース番組で「ブッシュが当選すると思うか」とライブ調査をしていた。結果は半分ぐらいが「思わない」だった。キャスターは「ブッシュ大統領が再選されないと思っている人が半分もいるんですね」と驚いていたが、べつに驚くことではないし、そもそもこれは愚問だろう。この質問では、ブッシュを当選させたいと思っているのか、あるいは当選してもらいたくないけど当選するだろうなと思っているのかわからない。競馬の予想じゃあるまいし、客観的な予想を聞いても仕方がない。当選させたいかどうかを尋ねるべきだった。そうすれば、日本人がブッシュのことをどう思っているかがよくわかったはずだ。そして、その場合は、「イエス」と答える人はおそらくもっと少なかったにちがいない。
 とはいえ、アメリカ国内では、反対党まで含めて大半の政治家や有力なメディアが戦争に賛成してしまっている。フセインも捕まって、さしあたりブッシュの支持率はまだまだ高い。
 大統領教書の発表は、年頭に政権の方針を明らかにするビッグ・イベントで、議会では、両党のメンバーが拍手で迎えるという大統領の晴れの舞台だ。ブッシュはその日を、民主党の予備選が火ぶたを切った翌日に設定した。ゴールデンタイムの各家庭に生放送で流れる今年のこのイベントは、政策発表というより、大統領選挙へ向けての戦いののろしである。
 こうしたブッシュの動きに対し、反ブッシュ陣営の動きも活発化している。「ムーヴ・オン」というグループは、「30秒のブッシュ」と題したサイトを立ち上げ、アンチ・ブッシュの30秒テレビ広告を募集した。大統領教書発表の週にぶつけて優秀作をテレビで流すという。
 審査員には、日本でもベストセラーになった「アホでマヌケなアメリカ白人 」や「ボウリング・フォー・コロンバイン」で有名な映画監督マイケル・ムーアなどが加わり、1月12日に結果が発表された。評価の配点は、全体の印象が40点、そのほかオリジナリティがあるか、記憶に残る内容や見せ方か、メッセージ性がはっきりしているかがそれぞれ20点である。
 最優秀賞に選ばれたのは、「子どもが払うツケ」と題された作品で、ネットでの一般投票でもトップになった。サイトで作品を見ると、たしかに強烈な広告である。
 辛そうに皿を洗う男の子。大きな建物の廊下のふき掃除をする女の子。ゴミを回収する男の子。タイヤの修理をする女の子‥‥うす暗い蛍光灯が光る仕事場で顔を真っ黒にして黙々と働く子どもたち。次々と映し出される彼らはひと言も言葉を発しない。しかし、重苦しげな雰囲気が伝わってくる。何が言いたい広告なんだろうと思ったころにテロップが現われる。「ブッシュ大統領の1兆円の赤字のツケを誰が払うのか思い浮かべてみよう」。イラクでの戦費が増す一方で、減税の大盤ふるまいをしているブッシュ政権のツケは、将来、子どもたちが支払わなければならない。一瞬、何のことかと思うが、じんわりと批判の刃が感じられてくる、そんな広告だ。
 各種の世論調査から今年の大統領選挙では経済が勝敗を決める争点になるということで、いくつか見た応募作品には、そうした点に焦点をあてたものも多かった。
 このプロジェクトを立ち上げた「ムーヴ・オン」はコンテストの主旨についてこう言っている。
「毎年毎年、数十人のワシントンのメディア・コンサルタントたちが、大多数の政治広告を作ってきた。それらはみな同じようで、登場している俳優さえ似て見える。おそらくその結果、真に重要なメッセージがこめられていたとしても、有権者は関心を示さない。
 この3年間、ブッシュ大統領の政策は、環境を荒らし、国の安全保障を危うくし、経済にダメージをあたえ、中産階級の富を富裕層に配分してきた。ひとりよがりのメディアのおかげで、「思いやりのある保守主義」を掲げてきたブッシュ大統領は慎重に作り上げたそのイメージの影に隠れてきた。'04年の大統領選挙が近づいているいま、だいじなのは、ブッシュ大統領の政策のほんとうの意味を有権者が理解することだ。そのために、われわれは、何が問題かがはっきりとわかるクリエイティヴで斬新な広告を求めている」。
 ということでサイトを立ち上げ、広告を募集したのだそうだ。

●流れなかった広告

 サイトでは、2月のスーパーボールの中継で広告を流すためのカンパを募っている。目標額1千万ドルまであと少し、900万ドル近くまで達している。
 ところが何と、スーパーボールを放映するCBSはこの広告を拒否したらしい。「ムーヴ・オン」のサイトには、「スーパーボールでは、ビール会社やタバコ会社、そしてブッシュ政権の広告は流れるが、このサイトの広告を見ることはできない。CBSが拒否したからだ」と抗議声明を掲げている。
「CBSがブッシュ政権から多大な恩恵を得てきたからだろうか」と「ムーヴ・オン」は皮肉っているが、CBSには主張広告(アドボカシー広告)を流さない決まりがあり、その決まりに反するので拒否したのだという。アドボカシー広告というのは、企業が自分たちの立場を擁護するような広告のことだ。この広告がどうしてアドボカシー広告なのかわからないが、動物愛護協会の広告なども拒否されたという。CBSが属するバイアコム・グループは、これまでも草の根グループを敵視し、反戦広告を拒否してきた経歴があると「ムーヴ・オン」は指摘している。
 メディアに対して時の政権が陰に陽に大きな影響力を持つというのも、ブッシュ政権になって強まっている傾向だ。民主党員などが「ともかく誰かブッシュを倒してくれ」という気分になるわけだ。しかし、ブッシュは空前の資金をかき集め、民主党の候補が決まるのを手ぐすねをひいて待っている。民主党候補はすでにテレビ広告に大金を投じているようだが、宣伝合戦はこれからますます激しくなっていくのだろう。
 ケーブルテレビでCNNなどのアメリカのテレビは見れるようになってきたが、広告は別で、アメリカの広告をそのまま見る機会はまだ少ない。しかし、ウェブではテレビ広告を載せている候補者のサイトも増えてきたし、広告を分析したサイトもいくつか生まれている。日本にいながらにして、広告を通してアメリカの大統領選挙を観戦することもできる時代が来つつある。

関連サイト
●反ブッシュのテレビ広告募集サイト「30秒のブッシュ」。最優秀に選ばれたのは「子どもたちが払うツケ」。次点に選ばれたのは「われわれは子どもたちに何を教えているのか」。「次の大統領を選ぶ」ということで子どもたちが次々とスピーチをするが、ブッシュにならってとんでもないことばかり言い、親は目が点になる、というストーリー。
●テレビ広告を拒否され、「CBSが広告を検閲している」と抗議している「ムーヴ・オン」
●ホワイトハウスのサイトの一般教書ポータル・ページ。議会での演説前には要約を載せ、演説が始まるとライブ映像と準備稿を公開、演説が終わってまもなく「拍手」など反応が入ったテキストが掲載されるという具合に、刻々と更新された。しかし、もう10年近くアメリカの公文書館での資料収集を仕事のひとつにしているが、ブッシュ政権になってからの情報公開の後退は目を覆うばかりだ。このひとつをとってもブッシュ政権の性格がよくわかる。

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