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2004.01.20

消耗品であることを肯定した電子書籍

 ソニーが電子出版会社を設立した。2004年春から電子書籍配信サービスを始め、読書専用端末を出すという。10月に松下や東芝、出版社などが電子書籍のコンソーシアムを結成しているが、これで対抗グループができた格好だ。
 コンソーシアムの電子書籍についても難点を指摘したが、この事業にはよりいっそう問題が感じられる。

 ビジネス・コンソーシアムも内実は松下の専用端末シグマブックのための組織のようだが、形式的には、ほかのメーカーが参加する余地もあった。また、アーキテクチャーについても話し合うと、一応オープンな姿勢を見せていた。
 しかし、ソニーの子会社であれば最初から毛色ははっきりしている。プレスリリースには「安全でオープンな共通環境を整備することが不可欠」と書いているが、「BBeB」と名づけたソニーの電子書籍の規格と著作権保護技術を使うと謳っている。電子書籍の規格も、オンライン取引の核になる著作権技術も押さえておいて、どこが「オープン」なのだろうか。コンテンツはどこの出版社のでもかまわないし、ご希望ならこのフォーマットを使った読書端末をほかのメーカーが出してもかまいません、ということなのかもしれないが、ほんとうにオープンというなら、核になる技術こそそうすべきだろう。
 いまのようにマイナーな市場で規格が乱立しているのであれば、規格を競っても普及の妨げになるだけでいわば自業自得だが、特定の電子書籍フォーマットが高いシェアを獲得したときにどういうことが起こるかを考えるべきだ。この事業にかかわる人々は、重要な技術を電器メーカーに握られたまま言論の道具でもありうる本を出すことの重みを考慮したのだろうか。ソニーなどにとってもあらぬ懸念をかけられるのは本意ではあるまい。言論にかかわる事業であることを踏まえたうえでの事業展開が必要だろう。特定の電子書籍の規格が圧倒的なシェアを持つようなことになってから騒いでも遅い。
 さらにこの電子書籍は会員制で、「レンタル」だという。2か月たつと自動的に閲覧できなくなるそうだ。本の歴史を振り返り、「本は記録装置としての役目を担ってきた」などと書いて本まで出した私は、正直なところ、唖然とさせられた。「紙の本はかさばって保存するのはたいへんだが、デジタルなら場所を取らない」というこれまでの電子書籍の謳い文句はいったいどこへ行ったのだろう。図書館だって本を貸しているし、本のレンタルのチェーン店だってある。しかし、いうまでもなくデジタルはいくらでもコピー可能だ。「返したから読めない」のではなくて、著作権保護の都合で「読めなくした」だけということは誰だってわかる。デジタル化する大きな長所を、この電子書籍は供給側の都合でみずから否定してしまったわけだ。
 とはいえ、電子書籍が長持ちするというのは少なくとも今のところ幻想だ。パソコンはじめ電子書籍を読む装置はどんどん変わるし、フォーマットだって変わる。購入した電子書籍が将来も読める保証はどこにもない。だからこそなおのこと一社がサポートをやめればそれで終わり、という仕組みにすべきではないのだが、ともかく読めなくなる早さは紙の比ではないだ。だから、「レンタル」にしてそのぶん安く売ったほうが読者にも親切だという理屈はとりあえず成り立つかもしれない。
 また、本はもはや末永く売るといった悠長なものではなくなってきた。短期間にばっと売って品切れになる。読み手の側も流行りの本に殺到する傾向が強まり、そうした本の大半は読み返されることがない。ソニーのこの電子書籍は、変化の激しいデジタル技術の現状と、本が消耗品化していく今のネガティヴな出版状況を、はなはだ残念ながら反映しているのだろう。
 さらに、「レンタル」するためには会員になる必要があり、1冊単位か、月額固定料金で「お勧め作品」を月に5冊ほど閲覧するシステムだという。1冊レンタルのほうはともかく、月に5冊も電子書籍を読む人がどれだけいるのだろうか。電子書籍の読者はさしあたり紙の本の読者と違った層だとも言われている。従来の読書家をあてにするわけにはいかないだけに疑問である。そして、2か月で読めなくなるこの電子書籍が、読者にとって魅力ありうるとしたらそれは価格だろうが、はたして驚くような低価格にする冒険を出版社はできるのか。
 この事業が発表になり、「来年はいよいよ電子書籍元年か」と書いたメディアもあったが、私にはそんな華々しいものにはとても思えない。2カ月で消えてなくなる電子書籍にはそもそも出版事業の志が感じられないし、ビジネスモデルとしても数々の困難が感じられる。うまくいかなければそれまでだし、いったらいったで、言論活動が電器メーカーに左右されかねない、かつてない事態が出現する恐れすらある。協力する出版社は、そうしたことをよく見きわめてのことにしてほしい。

(出版ニュース 2003年12月下旬号)

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