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2003.12.23

本の文化を変える米アマゾンの新サービス

 米アマゾン・コムのショッキングな新サービスが波紋を呼んでいる。本の全文検索サービスを始めたのだ。大手を含む190の出版社の12万冊、3300万ページが検索できる。米アマゾンはすでに2年前からフロント・カバーやバック・カバー、サンプル・ページを見せるサービスを始めていたが、10月23日には検索語を入れてヒットしたページの前後2ページが読める「サーチ・インサイド・ザ・ブック」と名づけた検索サービスを始めた。7月にニューヨークタイムズが報じていたが、アマゾンはこの夏中せっせとスキャンして、サービス開始にこぎつけたわけだ。

 このサービスが一般の読者に多大な恩恵をもたらすことは言うまでもない。オンライン書店では実際に本を手にとることはできないが、スキャンなのでページ・レイアウトがそのまま再現されている。しかも全文検索ができるとなれば、店頭よりも便利な「立ち読み」ができる。また、アマゾン自身が宣伝しているように、読んでおもしろかった記憶があるものの著者名やタイトルを思い出せない本も見つけだせる可能性があるし、研究者は自分の研究テーマに関係している本を網羅的に見つけられるばかりかブラウジングまでできる。シェークスピアの研究者がシェークスピアについて一語でも触れている新刊本をすべてチェックするといったことも夢ではなくなってきた。
 本の文化にもらたす威力はこのようにきわめて大きいが、書店はその破壊力をもろにかぶることになるかもしれない。店頭で本を見る以上の利便性があり、配達もしてくれ、しかも安いとなれば、一般の書店が打撃を受けることは必至だ。アマゾンがいよいよ集客力をアップさせ、オンライン書店も含めて一人勝ちになるかもしれない。
 アマゾンはつい最近ショッピング検索サービスの独立部門を創設し、圧倒的な力を持つ検索エンジン、グーグルに対抗することを考えているようだ。アマゾンにとって新サービスは、販売の面だけでなく、こうした新事業についても大きなメリットがあるのだろう。
 だが、懸念しているのは書店ばかりではない。書き手の組織オーサーズ・ギルドは、その加盟員にたいして警告のメールを出している。そのメールによれば、時間が経って人目に触れにくくなった本は利益を得るかもしれないが、料理や旅行の本、レファレンス本、学生の副読本については買わずにすます人が出てくるだろうと予測している。同一の本について読めるのは2割までとか、印刷やダウンロードはできないなどの制限はあるものの、検索してヒットした個所のそれぞれについて前後2ページ表示できるので、学生などが手分けして本に頻出する言葉で検索し、ウェブ画像をキャプチャーすれば、全ページ手に入れることも不可能ではない。オーサーズ・ギルドはメジャーな出版社の契約書をチェックして、出版社は著者の許可なしにこのサービスに加わる権利を持っていないはずだと見解を示している。
 このサービスに加わった出版社は、売り上げ減の恐れに加えて、著者に訴えられるリスクまであるわけだ。にもかかわらず、よく承諾したものだと思うが、パブリッシャーズ・ウィークリーによると、ふだん本を売ってもらっているアマゾンに言われてしぶしぶ承諾したようだ。
 とはいえ、サービス開始から1週間の時点でアマゾンは最初の結果を発表しており、それによれば、全文検索できる本はそうでない本に比べて9パーセント売り上げがあがったそうだ。120万タイトルのサンプルに基づくのだから、統計的に意味のある数字だとアマゾンは言っている。この数字が今後も続けば、これは米国内ばかりか、他国の出版社にたいしても、またとない説得の材料になる。日本も含めてほかの国でもサービスが開始される可能性は高くなる(実際に日本での導入に向けて検討が進められているという)。
 アマゾンのこのサービスだけでも十分驚くが、じつはこの話はまだここで終わりではない。十月末になって、米グーグルも書籍の全文検索について出版社と交渉していることが明らかになった。グーグルの広報担当者はコメントを避けているが、アメリカの複数の出版社が認めているようだ。グーグルは6万タイトルについてすでに許可を得ていて、出版社にデモを見せているという。グーグルは検索なので、検索結果をクリックすると本の概要が書かれている別ページが開き、さらに出版社が決めたオンライン書店で購入するような形になるのではないかと、パブリッシャーズ・ウィークリーは推測している。
 ウェブで情報を見つけることに慣れてしまうと、本は必要な情報を見つけるのがむずかしい媒体であることを痛感する。調べものはインターネットのほうが早くて便利と、本離れの要因にもなっている。全文検索によって「被害」を受ける人々は出てくるかもしれないが、このサービスはそうした状況を一変するもので、本の価値を高めることは確かだろう。
(出版ニュース 2003年11月下旬号)

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