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2003.11.25

電子書籍ビジネス・コンソーシアム

 今月、電子書籍ビジネス・コンソーシアムが結成された。電子書籍市場を多角的視野から検討することなどを謳っているが、さしあたりは松下電器の電子書籍端末シグマブックをめぐる流通・配信やフォーマットの検討が中心のようだ。

 コンソーシアムが対象とする端末はシグマブックにかぎらないとのことで9月11日に行なわれた記者発表にも東芝の本部長が発起人の一人として列席していたが、「見せられるような端末はまだない」そうで、年内にはなんとかしたいと言っていた。
 記者発表は全日空ホテルで行なわれ、コンソーシアムの特別顧問になった立花隆氏と里中満智子氏がメッセージを寄せた。立花氏はビデオによる参加で、コンソーシアムのサイトでも見ることができるが、「2003年は書物の歴史における画期的な年になるのではないか」と、シグマブックが古今東西すべての本をそのまま電子化できる画像データに重きをおいている点を評価していた。一方、里中氏は、このところの漫画は全何十巻と長編が増えてきて、持っているのを捨てないと次のが買えない読者も多く購入のネックになっていること、漫画本はきちんと保存されず絶版になると入手できなくなる場合が多いことを指摘し、解決策となりうる電子書籍への期待を熱っぽく語った。
 里中氏の話は、漫画文化にとって電子化がいかに重要かが伝わってきて興味深かったが、立花氏の主張は、正直なところ、まったく納得できなかった。
 過去の本をテキスト・ベースの電子書籍にするのはたしかに手間がかかる。テキスト・ベースで残しにくいものは画像データにするしかないが、それは積極的な選択肢ではないはずだ。画像データでは検索しにくいといったことだけではない。ネット上の膨大なドキュメントは今後相互に連携しますます利用しやすくなっていく。そのとき、画像データ本はほかのドキュメントから孤立し扱いにくい文書群となる。画像データというのがたとえ「敷居の低い電子書籍」であったとしても、そこで甘んじてしまえば電子化のメリットを損ない、日本語の電子書籍の価値は低いものにとどまる。「画期的」どころか、画像データの電子書籍はあくまでもネガティヴなもの、「仕方なく」作られるものであることこそ強調すべきだ。
 記者発表では、コンソーシアム側の説明の直後に出た質問も辛辣だった。「シグマブックは3万円台といわれているが、読書専用端末ということを考えるとそれでもまだ高いのではないか。ただで配るぐらいのことを考えなければ普及しないのではないか」というのだ。本欄でも書いてきたことで、松下電器も、読書端末市場がほんとうに立ち上がるためには新聞や週刊誌などを対象にする必要があると考えていることをすでに紹介した。定期刊行物ならば長期購読とひきかえに、ただ同然で端末を配ることも可能になる。発起人に加わっている松下の幹部も、質問者の言うようなことも考えていると答えていた。また、立花氏や里中氏とともに特別顧問になったインテルの元会長・西岡郁夫氏は「3万円台というのは適当な価格ではないか。とくに2千円の本が千円で買えるならば読者もそう思うのではないか」と発言した。たしかにハードカバーを年に数十冊買う人はあるいはそう思うかもしれない。しかし、これはやはり出版界の外部の人の言葉といわざるをえない。2千円の定価の新刊を電子書籍で半額で売るという「蛮勇」を持つ出版社がいったいどれぐらいあるだろうか。西岡氏の言うようなことはほかの業種ではあることかもしれないが、紙の本と同時に電子書籍化される出版物でさえきわめてまれな現状を見ても、そうしたことに踏み切る出版社が次々と出てくるとはとても思えない。とすればやはり、電子書籍市場が本格的に立ち上がるまでにはまだ時間がかかるのだろう。そう思いながら帰ってきて、メディア・サイトにアクセスしたら、アメリカの大手書店バーンズ&ノーブルが電子書籍の販売をやめるというニュースが報じられていた。バーンズ&ノーブルは、アマゾン・コムなどよりずっと早くにサイトでダウンロード販売をはじめ、電子書籍に意欲を見せてきたが、期待ほどの成長ではなかったというのが見切りをつけた理由らしい。
 日本で電子書籍をめぐって華々しい動きがあったまさにその日、皮肉なことに、電子書籍に失望し去っていった草分け的なオンライン書店があったことになる。アメリカの電子書籍は図書館や学校での購入も増えているそうで、今年前半の小売りの販売部数は昨年同期の4割増、販売額でも3割増、年間売り上げは一千万ドルを超えると予想されると電子書籍の国際組織オープン・イーブック・フォーラムが9月半ばに発表している。市場がそれだけ拡大しても、近々採算があうようにはならないとバーンズ&ノーブルは判断したわけだ。新たなコンソーシアムは、こうした悲観的見方をくつがえすだけの材料を提供できるだろうか。

(出版ニュース 2003年10月下旬号)

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